第8話 これから

「進路希望調査票?」


「へえー、そんなのがあるんだー」

「それにしても、進路なんて早いねえ」

「まだ一年生なのに」


「ふーん、進学とか就職とかの希望を書くんだ」

「君は、どうするか決まってるの?」


「そっか、まだなんだ」

「確かにいきなり進路って言われても難しいよねー」


「君は、将来なりたいものとかってあるの?」


「うーん、そうだね。例えば、どういう職業に就きたいとか、どんなことをやりたいとかって」


「わからないかー。将来のこと、ねー」


「最近、私変わったんだ」


「私は自分の将来のことなんか、今まで考えたことなかったんだけどさ」

「ほら、私は人間の何倍も寿命が長いから、どこからが将来なのかってことも分かりにくくて、あんまり将来っていうことについて考えてこなかったんだよね」

「でも、最近は自分の『これから』について考えるようになったんだ」


「私はずっと今までここでのんびり何もせずに過ごしてきて、君と出会った」

「いつか言ったよね、君は今も成長してるし、これからもどんどん成長するって」

「だけど私は成長することができないって」


「でもね、私は確かに表面上は成長することはできないけど、内面的に成長することはできるんじゃないかと思い始めてさ」

「そう思い始めたきっかけは、君と過ごす日々にあったんだー」


「君はどんなに辛くても、落ち込んでもひたむきに毎日を生きて、前に進んでる」

「好きなことがあって、一生懸命に物事に打ち込んで」

「そんな君と接してきて、そんな君の姿を見てきた」

「だから、自分も成長したいって思ったんだ」


「私にもきっと何かできることがあるはずだし、好きなことも一生懸命に打ち込むような物事もできるはず」

「だから、私も自分の『これから』を探してみようと思うんだ」


「君はまだ、将来何をしたいのか分からないって言ったけど」

「今はまだ分からなくてもいいんじゃないかな?」


「君はまだ一年生だから、まだ色々と分からないことも多いと思うんだ」

「二年生、三年生と年月を重ねていくうちにどんどん見えてくるものがきっとあるはずだよ」

「だから、今は自分の見えているものの中から『仮』って形で選べばいいんじゃない?」

「本当の進路はこれから見つければいいと思うよ」


「ねえ、君の幸せって何?」


「あはは、いきなり聞かれても分からないよね。こんな難しい質問」

「幸せってさ、人によって様々だよね」

「のんびり平穏に暮らすことが幸せだっていう人もいれば、実績を残すために大変なことをすることが幸せだっていう人もいる」

「人によってバラバラだけどさ」


「私は君の幸せが何なのか、まだ分からないけど」

「私は君に幸せになってほしいな」

「お互い、『これから』のことも『幸せ』も一緒に見つけようね!」


「それにしても、私たちの関係はすごく長く続いてるねー」

「ふふ、君が小さい頃からだもんね」


「この関係にも終わりがくるんじゃないかってずっと思ってた」

「君が大人になって、仕事が忙くなったりまわりに人がたくさんできれば」

「いつか私のことを忘れる」

「寂しいけど、君が立派に生きていってくれるのは嬉しいこと」

「だから、その時は遠くから君のことを見守っていようと思うんだ」

ギュッ!(抱き締める音)


「え?どうしたの?いきなり」

「なんか恥ずかしいよ」


「これからもずっと?ふふ、嬉しいな」


「ううん、こっちこそ、ありがとうだよ」

「君がいたから、私も成長できた」

「ありがとう」


ポタ、ポタ……。(涙が落ちる音)


「ふふ、人にそんなこと言われるなんて、初めてだよ」


「私も、君のことが好き。大好き」


「ふふ、涙なんて久しぶり」


「ねえ、見てごらん!虹がかかってる」


「きれーい!」


「君と一緒にいれば、晴れの日も雨の日も雪の日も、いつだって私にとっては最高の日」


「それにしても、今日は本当にいい天気だね」







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