空いた口が塞がらない訳がない。

空いた口が塞がらない訳がない。


私は自室に缶詰め状態となり自問自答を繰り返していた。


「大人になる…」


この意味を私は考えていた。聞き間違いでないのは確かだ。


今まさに酒を飲んでいるが誰も私を捕まえる権利は持っていない。成人式にもダブルのスーツを着て参加したな。選挙権に至っては私自身が政治家であるし、パスポートも10年有効だ。

未婚であるがロマンチックな大恋愛さえすれば婚姻届けなどと言う書類にサインする事もできる。まあ夫婦の契りが書類によるロマンも風情も感じない事務的で淡白な契約である事は引っかかるが。


ほら見ろ、何度考えても私は大人ではないか!


もし私に子供の要素があるとするならば、読んで字の如く、少々大人気ない部分とさわやかなベビーフェイスだろうか。


いや、私のその部分を変える為にカウンセリングや美容外科を阪形さんが紹介してくれるとは到底思えない。


やはり、あの言葉はそのまま受け取って良いのだろうか。


彼女が私を大人にする手段があるとするならば…


そう、男は産まれながらにして息子を持つ事が義務付けられている。みな、かぐや姫も羨むほどそれはそれは大層可愛がり慈しみ、苦楽を共にする。文字通り一心同体の息子を持っている。


長らく己の右手とキスする事しか、させてあげれなかった私の恥ずかしがり屋のマイベイビーを阪形さんはいよいよ一人勃ちさせてくれようとしているのか。


そう思うのはあまりにも早計だろうか。

いや、しかし他に想定できる事情がない。

私は「大人になる」と言う言葉を辞書で引き、インターネットも駆使して造語や流行り言葉がないかを調べた。


言葉での意味は様々。他にも大人になるに対して多種多様な見解があるものの、どのコラムニストやブロガー達の折り込みチラシのように薄い自論に感銘を受ける訳などなかった。


やはり間違いない。

私が人よりスケベである事を差し引いてもそれ以外に答えはない。


やっと私にガラスの靴を履かせてくれる王子様が現れたのだ。


私は自分の息子と見つめ合った。

いつもは赤鬼のように悲しく私を見つめ、その度に慰めてあげていたが、私は初めてこいつが太陽のように笑った気がした。と思うと同時にスケールの大きい下品な比喩表現に太陽系のみならず銀河系全てに申し訳ない気持ちになった。


よし、親として私がお前を漢にしてやる。

タケノコのように今か今かと春を待っていたお前を、嵯峨野の竹林の道に生えていても恥じない立派な竹に昇華してやるからな。


となると何としても飯間寺と相対さなくてはならない。

これまで奴と議論する事を毛嫌いしていたが、こうなった私にとって奴はもはや、ただのセックス引換え券だ。


何があっても、有無も言わさず、全身全霊でボコボコにしてやる。


が、議題や相手は私達が決める訳ではないのでそればっかりは待つしかない。


飯間寺との対戦を熱望するあまり、他の議論に熱が入らずパフォーマンスが下がりかねないか懸念したが今私にとっての優先順位を鑑みるとそんな事はどうでも良かった。



自分の中で阪形さんの言葉の意味に納得し俄然やる気を出したところで、ファックスが鳴った。

メールではなくファックスでわざわざ送ってくると言う事はそれが意味することは一つである。


私はファックスから出てきた紙を見て顎が落ちていないか心配になるほど驚愕した。



ファックスは結論争議委員会からのものである。



内容は○年○月○日にて飯間寺満一、小芭梨徳也、桧鏡咲子、3人により議題のテーマの結論を決定する。



尚、議題のテーマは

『じゃんけんで1番強いものは何か』とする。


小芭梨徳也は「グー」側の代弁を論述し弁護すること。


と記載されていた。




私が絶句した理由は言った側からの飯間寺との対戦でも、これまで類を見なかった三つ巴の議会などでもない。


そう、それは今更じゃんけんのシステムを破棄するというこの意味のわからない内容だ。


このタイミングでの飯間寺との対戦は私にとっては願ってもない機会ではあるが、阪形さんの仇討ちを差し引いても、この事情を決定づけるのは今後の日本国民の生活をかえって混乱させるだけなのは明々白々だ。


あまりにも馬鹿らしい話と捉える人間もミニマムなテーマだと思う人間も数多くいるかもしれない。

しかし私はこの常識を翻るのは間違いなく危険極まりないものだと認識した。


私はあれほど古典的ながらも完成されている対戦型のゲームを知らない。


公平性や多様性のみならず、一対一から大勢までの対戦が可能であり、しのごのルール説明をしたとしても瞬く間に勝敗がつき、更にそこから派生されたその他、手遊びの多さや国民のみならず世界各地の人類が一人あたり何百とやったであろう浸透率を鑑みるに、今更じゃんけんのルールを変更するなどというのは暴挙以外の何者でもない。


例え国会上院と言えど、これを決定づけるのは、あまりにも責任重大、大胆不敵、国民の便利な生活という名目とはかけ離れてはいやしないだろうか


決定づけられたとしてすぐさま元通りになりはしないだろうか。いや必ずなるはずだ。


このファックスは何かの間違いに違いない。いくら政治家が無能だと言ってもここまで早計な議案を出すわけはなかろう。


次第に私は冷静さを取り戻し、ことの真偽を確かめる為、結論争議委員会本部に連絡した。


仮にこれがまごうことない決定事項だったとしても、そもそも誰が開口一番を切り出したのか。どう言う思惑でこのような提案をしたのか、それを問いたださなければ話にならない。


まだ何も決まった訳ではないものの限度というものを知らない立案者に叱咤しなければ私の気が治らない。


老若男女誰しもが公平な決め事が行える、間違いなく世界一のシェア率を誇るじゃんけんが無くなってしまって言い訳ないだろう。取り上げる目的がまるでない。

1番強いものを決めるという事は、その手を出す事が必殺。とどのつまりその先にあるのは両者同じ手を出し無限にあいこになる未来だけだ。






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