口では大阪の城が建つ訳がない。

口では大阪の城が建つ訳がない。


今日は桧鏡咲子との決戦の日。


とは言えその実態は八百長なのであるが。

スーツに袖を通し、命運とは何一つ関わりのない天王山へと向かった。


宮本武蔵に聞かれたらば五輪書でぶん殴られる事だろう。

しかし私の足取りはいつにも増して軽やかであった。


私は普段から遠方に向かう際以外は途中まで公用車を使用しないようにしている。

身体を動かす事が別段好きと言う訳でもないのでウォーキング代わりに歩ける時は歩くよう心がけている訳だ。


都内の空気は汚いと言われるが外の空気を吸うのは私自身嫌いではない。


今日は昼までに議員会館に行かなくてはならないがやや早く家を出て目的地を目指しがてら少し散歩するのが決まったルーティンなのである。


ちなみになのだが、不精極まりない私の横着無人ぶりも理解してもらいたい。


ウォーキングと銘打って歩いているにも関わらず、今私はここまで来るのにいくつもの近道を選択してきた。


そんな事をしているから、ばちが当たったのかは分からないが、小路に入ると1人の男と肩がぶつかりその男は肩を押さえて苦しみ出した。

勿論私からぶつかった訳ではないし、苦しむほど強く当たってもいない。

気がつくと一緒にいた残りの3人の男に囲まれていた。柄の悪さは身なりでわかる。


「ちょっと兄ちゃん、これは大変だ慰謝料が必要だな?」


いつの世もこう言った破落戸はいるものだ。

ただこいつらは喧嘩を売る相手を間違えたようだな。

多勢に無勢4対1というのは私を持ってしても少々分が悪いが、相手がこんな奴らじゃ話は別だ。赤子の手を捻るようなもの。


素直に現金を渡せば穏便に済ます事は可能であるが、どうにも私のペルソナは破落戸相手では姿を見せないようだ。


「よしわかった、相手になろう。かかって来い」


私はスーツの袖を捲り人差し指を2回曲げた。



「こっちは4人だぞ!舐めてるのか!」


「貴様ら如き1人も4人も同じだ。やる気がないなら先を急いでいるので失礼するが」


「う、うるえ!全員でボコボコにしてやるぞ!」


不良達は各々臨戦体制に入った。

相手が拳の骨を鳴らすと同時に先手必勝と言わんばかりに私から仕掛けた。


「まず聞くが貴様達の目的は金銭の強奪。これに間違いはないか?」


「いいや、間違いだ。俺達は慰謝料をよこせと言ったんだ。目的をすり替えるのはやめろ」


「失礼した、ではなぜ私が慰謝料を払わないといけない」


「お前はこいつにぶつかり怪我をさせたのだから当然だろ」


「甚だおかしい。私はぶつかりに行っていないし、そいつは怪我をしていない。」


「いいや、ぶつかりに行った、お前以外にそれを証言できる人間はいるか?ぶつかりに行ったと言うのは実際に見た俺たち3人が証人だ。それに怪我をしていない証拠もない。後日診断書を出してやろう」


これはこいつらがよく使う手口なのだろう。

そう言ったパイプが有れば偽の診断書を作る事も容易い。




「それでは症状を聞こう。

少しぶつかっただけ、よしんば怪我をさせてしまっていたとしても脱臼ならば、さほど治療費もかかるまい」


「それは推測の域をでないからわからねえだろう。もしかすると骨折かもしれない。そうなると仕事にも行けないし入院となれば諸々かかる費用も並大抵ではねえだろ」


「ほう、人と人がぶつかっただけで骨折とは随分な推測だな。こいつは骨粗鬆症か何かだったのかな?時間ならある。私も病院まで同行しよう」


勿論、今の私に病院まで赴き診断を待つ猶予などないがキャッシュですぐ金銭を要求し、この場で解決しようとする訳ではなく、何かと手のこった手段でカツアゲをするこいつらに隙を見せれば万が一があるかもしれない。

随分と慣れた様子の連中だ。多少口喧嘩が強い程度の奴が相手ならこいつらに、こてんぱんにされる事だろう。

故に私もここでカウンターをもらえば少々分が悪くなるが仕事とは違うこういったストリートの喧嘩では勢いと思い切り、攻めの姿勢とハッタリは十分に有効的なのである。


「当たりどころが悪ければあり得るだろ。それにどうやって行く?俺たちは自分の車で行くぞ。俺達の車は4人乗りだお前を乗せる事はできない」


「ここから最寄りの駐車場でも徒歩で大凡10分、それほどの重症ならこの渋滞も加味して救急車を呼んだ方が明らかにいいだろう。」



「救急車には1人しか同乗できないぞ?こいつと縁もゆかりもない加害者のお前が乗っていける訳ないだろ」


「そんなもの救急車が来るまでにタクシーを止めて後をついていけばいいだけの話。到着は遅れるが診断結果が出る前には間に合うだろう。勿論、診断の結果何事もなければこちらも然るべき措置を取らせてもらう」


「け、怪我がなくてもその瞬間痛む事は十分にあるだろ!」


「それについてはまたその時話し合おう。前科などがないか楽しみだ。とりあえずお前達のかかりつけの病院には行かせない。どう考えても緊急車両で行く方が早く着くし診察代や治療費は私が持つのだから問題ないだろう」


「こいつはそのかかりつけの医者をえらく気に入っている。信用のない病院での治療などごめんだ。」


「それはお前の意見だろう。怪我をしている本人の意見がさっきからまるでないぞ。」


「怪我人のこいつが冷静に話し合いできる状態だと思うか?」


「それもそうだ。ならばお前達ととことん本気で話し合ってやろう。」


私はヒートアップしてきたように見せかけスーツを脱ぎシャツのボタンを1つ開けた。


私は脱いだスーツを怪我人の方に差し出した。


「君が怪我をしているなら十分に話せまい。すまないがこれを持っていてくれないか?話し合いが長くなる事は申し訳ないが本気でこの3人と話させてもらう。君は証言に偽りがないかだけ聞いておいてくれ」


私にぶつかって来た男はぶつかっていない方の腕で私のスーツを受け取った。

ここで痛めているはずの手を伸ばしてくれたら儲けものだったが。


「それでなんだったかな?」


「だから知りもしない医者へ行くのはごめんだと言っているんだ」


「手術や内科医ならわからなくもないが骨折の治療など整復して固定するだけのものが殆どだ、医者によって大きな違いはないと思うが?」


「それはわからねえだろ。重症なら手術も必要だし第一怪我してる箇所が肩なら治療の仕方も様々だ。それにそもそも診察そのものに誤診があるかもしれねえじゃえねか」


「お前達のかかりつけの医者がどれほどの名医か知らないが、信用のある腕の良い医者ならこいつを診察した瞬間五体満足と言うだろう」



「拉致があかねえな、怪我人の事も考えろよ。グダグダこうやって話し合ってる時間もこいつにとっては辛い時間なんだぞ」


「確かにそれもそうだ。なら手っ取り早くまずはアンケートを取ろう。先ほどから私とお前しか会話をしていない。皆公平な目を持っているなら私の意見が正しいと思っているはずだ」


「ふん、かまわないぜ」


「よし、では渋滞を回避できる救急車を呼ばず、ここからしばらくある駐車場まで歩き渋滞中の道路をノロノロ行く方が良いと思う者は手を上げろ」


「もっとフェアな聞き方をしろよ」


「そちらから自家用車で行くメリットがあまり開示されなかったのでな。しかし、お前の仲間は全員が手を上げているじゃないか」


「そりゃ、その医者の事をこいつらも信用している。質のいい治療を受けるなら俺の意見に納得する方が妥当だ。さあどうするお前の提案でお前は窮地に陥った訳だが」


「ふん、馬鹿かお前達は。何故骨折してるやもしれん腕をそいつは上げれる。骨折してる肩をあげるのは人体の構造上不可能だと思うが?」



ギョッとする者、奥歯を噛む者、間抜けな被害者を睨む者様々な方法で4人の破落戸はだまりこんだ。


「この世のことわりを覆せる弁論があるなら聞くが?」


先程まで流暢に声を上げていた破落戸のリーダー格すら、ゴルフのパターでも見てるかの如く口をつぐむ。


「反論がないなら消えろ。次はこの程度では済まないからな」


すると男たちは負け犬の遠吠えと言わんばかりに「覚えてやがれ」と叫びその場から消えた。


「安心しろ!2週間前のディナーまでなら完璧に言えるくらいには記憶力は良い方だ!」


私は逃げるようにその場から立ち去る男達の背中目掛けて叫んだ。まさかこの世にあの文言を言うやられ役が本当にいるとは。

私は地面に落とされたスーツを拾い、袖を通して軽くはらった。


全く、たちの悪い連中に絡まれたが休んでもいられない。そろそろ到着しないと私の沽券にかかわる。


私はその足で議員会館に向かった。


午後を過ぎた頃、とある一室で例の如く激しく議論が交わされていた。


「いいや、断固大根だ。大多数の民意を得ている」


「せやから、それは世界規模で考えた場合では違う結果になるんちゃいまっか?」


「おでんは日本のソウルフードな訳だし、今決めているのも日本のルールだ。世界からの視点は今はどうでもいい」


「こんねん国際化が進む中で世界の意見を度外視するのは楽観的やと思うけど。それに小芭梨議員自身が何度もグローバルな議題を取り扱ってんのに今までの自身の意見は全てどうでもいい見解やったて言う事でっか?」


男女が大きな机を挟み激しく討論している。

向い合う2人を眺める幼い少女とその後ろに座る数名の傍聴人。


まさしく今新たな決まり、法則、常識を八百長で決めようとしている。


そのテーマは『おでんの具材で1番美味しいものと言えば』


それを決めるのは中央に座る少女。


個人の好みが大きく出る為、今回の判定員はこれまでおでんを食べた事のない彼女が2人の話し合いを聞き用意されたおでんから食べた物をおでんの具で1番美味しいとする訳の分からない決定方法をとっている。




「あなたがそこまで牛筋にこだわる理由も分からんがね」


「そもそも逆説的に考えてみいや。この議題が大根料理と言えばと言う物やと仮定したとして、まずおでんは出てこやんやろ。大根と言えば単体でも十分なポテンシャルを持ってる。わざわざおでんの具と言う看板は貼らへんのとちゃうか?」


「ふん、論点がズレているな。今はおでんの具だ大根料理は関係ない。それにおでんの具はそれぞれ色んな料理に使われているだろ、大根料理に限った話じゃない」


「たしかに、やけど牛筋料理のそのほとんど…うちが知る限りでは煮込むと言う調理方法が主やと思うで。そうする事であの固い肉がほどけホクホクとした肉になる訳や。ほんでそこに出汁が染み込みより風味が出るっちゅう訳やろ。せやからおでん言うシステムこそ牛筋の最高の調理方法やとうちは思うねん」


「そ、それはどうだろうか…探せば煮込まない牛筋料理なんていくらでもあるかもしれないじゃないか」


「マイノリティの話はやめようや。シチューにしろ土手焼きにしろ煮込む言う過程は必ずしも入るで」


「それではあなたが先程言った様に牛筋も大根同様沢山牛筋料理がある事になるではないか」


「あくまで数の話や、煮込むと言う調理方法、圧倒的におでんに適しているのは牛筋や」


「より多く食べられているのは牛筋ではなく大根料理だ!」


「多数決で決めるなら我々はいらん。とにかくあのプリプリとした食感、ホクホクとした舌触り、心地のいい歯応え、それらはおでんこそ100%引き出せる思います」


この議論の結果少女は牛筋を口にした。

それもそのはずだろう。食べた事のないものを今から食すのだから今必要なのはネガキャンではなくその食材へのプレゼン力。


桧鏡咲子は話の節々に食欲を掻き立てるワードを散りばめていた。

それに少女に小難しい話はかえって退屈させるだけ。いかに彼女がそれを口に運びたくなるかを考え演説しなくてはならない。


まあこの勝敗は妥当だろう。


敗北した私は会議室を出てツカツカと廊下を歩いた。

負けると分かっていた分、勿論心身共にダメージはない。釣り堀に放たれたフナは釣られる運命なのである。


「小芭梨君!ちょっと待ってえや」


今しがたまで聞いていた声が背後から轟く。

後ろを振り返ると先程議論を交わしていた桧鏡咲子がみるみる駆け寄り、私の向かいまで来ると肩で息をする様に呼吸を整えた。


「まいどおおきに、ほんま小芭梨君。君には感謝の念が耐えへんわ」


彼女は歯を見せ薄気味悪いとさえ言える笑みを浮かべていた。


「一騎当千の小芭梨君に勝ったとなったらうちの名前にも白が作ってもんや」


「いえいえ、若手の私に勝ったからと言ってそれはあまりにも大袈裟ですよ」


「何を言うとんねん。うちより年下やのにこうも勝ち星ばっか上げて、ほんま言うてる間にすぐ理事になるんとちゃうか?20代で理事の椅子に座れたら委員長の座も言うてる間や。そんときはお眼鏡かなえてやあ」


「またまたご冗談を」


私は笑顔を貼り付け桧鏡咲子のよいしょをあしらう。


「ほんまこれで童貞なんて、世の中の女はどこに目つけとるんやろなあ」


絶世の美女とまでは言わないが見れば見るほど癖になるような桧鏡咲子の古風で奥ゆかしい顔が私の顔にグッと近づいた。その大和撫子な容姿とは裏腹に内面の方はしたたかで邪悪なものすら感じるが反射的に私は顔を赤らめた。


「このような取引は今回で最後ですよ」


「わかってるがな。くれぐれも今日の事は内密に頼むで」


「勿論ですとも」


そう言い交わし私達は別れた。

頭が痛くなるほど時間がかかる書類の整理と提出を終えれば、今日の仕事はこれで最後なわけだが、せっかく議員会館に来たのだから他議員のディベートを少し傍聴していこうと部屋の扉の貼り紙を見あさっている時だった。


『飯間寺満一・阪形翼 争議合い室』と書かれた貼り紙が目に止まった。




阪形さんが言っていた決戦の日は今日であったのか。

と私は躊躇う事もなくその部屋のドアノブに手をかけた。


既に扉の向こうでは2人の議論が白熱しており、いよいよ局面と言ったところであった。


「自殺や職務中の死亡事故は男性の方がはるかに多い」

「男女問わずに聞いたところ。男性が優遇されていると答えた人間の割合は高い」

「男女平等に同意すると答えた日本人男性は36%しかいない、男性のアライが少ない。」

「昇格チャンスが…」

「親権が…」

「資金格差が…」

「女性ファーストと言う風習が…」

「セクシャルハラスメントが…」


両者譲らぬ激戦。何と聞き応えのある事か。

どちらかと私が対戦する事を考えるとゾッとする。


「国会における女性議員の比率を考えてみろ。この数字を見てまるで女性と男性の間に平等と言うものがあると思うか」


「諸国のジェンダーギャップ指数は高いとは言えませんがその割合は今緩やかにのぼってきています。それに人間開発の達成度では我が国は実績を残しているではありませんか」


「たらればではあるが、女性議員が経済活動や意思決定に参加する機会がもっとあれば今より高い水準を保っていたかもしれんぞ」


「机上論はおやめ下さい」


「ならば問おう。政治的な側面のみならず一般的に見ても女性は冷遇されている」


「その件については先ほども言った通り価値観の違いや、男性にとっての不利な面も申したはずです」


「価値観と言ったか。例えば共働きの夫婦であっても家事や育児をする時間が女性が平均4時間なのに対し男性は平均30分程度となっている。これについては?」


「それは家庭感の話であって」


「女性はみな、喜んでしてるしてるとでも?

根強く蔓延った悪しき風習にしたがわざるを得ないだけだと思うが」


「例えば人とは異性に好かれたいと思うものです。男性は家庭的な女性を好む傾向にあり、女性は男性に経済力を求める傾向があります。ならば相手を思えばこそ女性は家事を頑張ろうと得てして好んで家事をしていると過程でき、男性も経済力を向上させる為に仕事に性を出しその頑張りが認められ昇給や昇格に繋がっているものだと考えるのが適当かと思います」


「俺は共働きの家庭の話をしているのだが、共に働き共に家庭を築くべきであるにもかかわらず家事や育児を蔑ろにしても違和感をさほど抱かない風潮は決して正しいとは思えんがね」


何とも付け入る隙がない。それは両者共にであるが。

2人の会話はまるで、小さい穴に細い糸を互いに通しあってるようなもの。

しかし、通した本数は飯間寺の方が多いと見受けられる。


「考え方によっては男性優位な世の中こそあるべき姿と考えられませんか?世の動物達もオスが強いと言う生き物の方が遥かに多くそれが地球のあるべき姿だと」


「自然界においてはそうだろう。群れをなして行動するからには長は必要だ。まあハイエナなどの例外も多くいるが、文明を持つ前ならば狩猟に行く為に力が強い人間は必要だ」


「では何故神は男性の方が女性よりフィジカルや力があるように作ったと思いますか?それはある程度神が男性優位な世の中を想定したからではないでしょうか」


「神だの何だのを持ち出すのは論理的ではないが敢えて君の意見を噛み砕いて言わせてもらうと、では何の為に神は我々人類にだけ、ここまでの知性を与えたのかを考え教えていただこう」


ここで議論の時間は終わった。

私は何とかかんとか阪形さんが勝ってくれているよう願った。


判決の結果は飯間寺の勝利となった。


そう告げられた後、2人は握手を交わし飯間寺は阪形さんの耳元に顔を近づけると何か耳打ちをした。


その瞬間阪形さんは資料も片さず部屋から飛び出して行った。

私は考えるより先に阪形さんの後を追った。


部屋を出る際、チラリと見えた飯間寺はほくそ笑んでいた。



「阪形さん!待って下さいよ!」


柄にもなく声をあげ彼女を呼び止める。少ししたところで彼女は立ち止まりこちらに振り返った。


「情けないところを見られたわね」


「いえいえ、僕も今日は惨敗でしたので2人で残念会でもやりますか?」


こうやって戯けて見せるのがやっとであったが、彼女の表情からこれが得策ではないのは痛いほど伝わった。


「彼はやっぱり強いわね」


「ええ、お二人の議論を聞いていましたが、阪形さんもさる事ながら、あいつは一筋縄じゃいきませんね」


先程のおちゃらけた表情から一変して、私は深刻な面持ちに切り替え、明後日の方を向いてそうこぼした。


「1つお願いがあるの」


「阪形さんの願いとあらばなんなりと」


「もし、飯間寺と戦う事があれば、どんな手を使ってでも彼に勝って」


今まで彼女に助言や証拠集めを手伝った事はあったが、こんな土台の部分から他力本願な阪形さんは初めてだ。


「ええ…そりゃ、奴と相対した時は勿論勝つつもりで挑みますが」


「つもりじゃダメなの!何が何でも勝って!」


感情的になる阪形さんに驚きを隠せず絶句してしまうと私の言葉も待たずに彼女は続けた。


「もし飯間寺に勝ったなら。あなたを大人にしてあげる」


私の胸から乾いた万年筆で字を書くようなキリキリとした音が響いたと思ったら、その音は消え突如として、胸の中でパンと何かが爆ぜた音がした。



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