風の歌
佐藤大翔
ゼロ
いつも痛いはずの胸が高鳴っているんだ。
空を風がかける。
耳元で風の音が鳴る。
風はきっと、歌っている。
目の前を少年が駆けた。
グラウンドの土を蹴る。
スタートラインに手をついてから合図もなしに力強く1歩を踏み出した。
前傾姿勢を保ったまま歩幅を広げ、足の回転を速める。
ゼロ、イチ、ニ、サン。
ハードルを超える。
腰は高い位置のまま。大きく腕を振り、身体の軸はぶらさないで、そのまま、そのまま。
スパイクのピンが土を削る。
80メートルを過ぎた頃ぐんとギアが上がった。
横を通り過ぎた時、一瞬目が合った。気がしただけかもしれない。
それでも少年は微笑んだ。
ああ、彼はなんて楽しそうに走るのだろう。
走ることに愛されている。
気付いた時には100メートルの白線を越え、減速していた。
目が離せなかった。
あの時夢中だった全て。
君となら風になれる気がしたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます