4人の居住者

@kakumomo420

1 闖入者

 部屋に戻ると知らない人達がいた。


 昨日僕が運んだ荷物は乱雑に隅に追いやられ、その前を立ち塞がるかの如く3人の男女が何やら揉めている。


「出ていってくれないかしら?!」


「ふざけんな!!ここは俺の部屋だ!!」


「はぁ〜?みゆの部屋だし!」


 この部屋のことで何か揉めているようだ。


「あの〜」


 三人が一斉にこちらを向く。驚いたその表情から、さっきこの部屋に僕が入ってきたことに気づかなかったようだ。


に何か用ですか…?」


 *****


 ど田舎のアパート2階の一室に男女四人が座っている。決して住みたいとは思えないほど腐敗し、薄暗く、小さな部屋で、燃えている蚊取り線香を中心に静かなる攻防戦が始まろうとしていた。


「なんで、4人も居るんだろう……」

 

 沈黙を破り僕は口を開いた。それに驚いたのかフードを被った男の体がびくりと動いた。


「あ?こっちが聞きてぇよ」


「部屋間違えてるんじゃな〜い?」


 ツインテールの少女が名案だとばかりに声を上げる。


「それはあり得ないでしょう。この部屋は角部屋でしかも、他の部屋とは違う赤い扉。それに他の部屋はそもそも部屋と言えるかも怪しかったじゃない」


金持ちそうなマダムが静かに少女を制した。


「そっか〜」


少女は残念そうだ。


「…よかったらみなさんのお名前、教えて頂けませんか?」


僕が声をあげるとフードの男が噛み付いてきた。


「は?なんで見ず知らずのあんたに教えないといけねーんだよ」


「いやほら、呼び名が無いと不便じゃないですか!それにここでずっと4人で居座ってても埒が明かないし……、話し合いをしましょうよ」


少女がウンウンと頷いた。男とマダムはまだ不審な顔をしている。


「話し合いだぁ?無理だろ。この部屋が自分の部屋だって言い張ってるヤツらが、話し合いだけではいそうですかと引き下がると思うか?少なくとも俺は引き下がらねぇよ」


男の目に焦りと決意が浮かんでいる。


「話し合いが無理なら何する〜?殴り合い?殺し合い?」


少女がまるで好物を前にした幼子のようにキラキラとした目で語りかけてきた。


「やめなさいよ。野蛮だわ」


マダムが少し青白くなった顔で制した。

本当に埒が明かない。


蚊取り線香がジリジリと音を立てている。


「情報が欲しいんです。なぜ皆さんがここに居るのか、どうして今日、同じ時間この部屋に集まったのか。教えてください。そうすれば、嘘をついている人が絞れてくるかなと」


「はっ、自分はあくまで嘘はついてません〜っ

てか?」


男の言葉をあえて僕はスルーした。


少女が手を挙げる。


「このまま喋ってても埒あかないしね〜」


少女は、は〜いと声を上げ自己紹介を始めた。


「みゆで〜す!1年前にここに来ました〜!都会に住んでたんだけどね〜。疲れちゃってこっち来たんだぁ〜。田舎はいいよ〜自然がいっぱい緑もいっぱい!…ほんとに自然しかないケド。それとこの4人の中で1番最初に部屋にいたのも私だよ〜!」


何が誇らしいのか少女、もといみゆは自慢げに話している。


「質問、いいか?」


フードの男が声をあげる。

どーぞーとみゆは言った。


「都会に疲れたって言ってたが具体的にはなんだ?」


「…人間関係、お金関係色々」


今までの可愛らしい声とは一転、マジな声だった。


次の自己紹介でマダムが手を上げた。


「わたくしは財前ざいぜん麗奈れいな。この部屋は、そうねもう20年ほど前かしら。不要物を入れる小屋として使わせて頂いていたわ。ですがもう不要物はないので解約させて貰おうと今日訪れたのよ。この部屋の借主の名義を見れば財前と書かれているはずよ」


「いかにもって感じの名前だなぁ…。っていうか」「小屋?!ひっどぉ〜い!!」


みゆが僕に重ねて大声をあげた。ごもっとも、人が住んでいるって言ってる部屋を小屋呼ばわりはひどい。


しかし財前はここで暮らすなんてとんでも無いと言いたげな憎らしい顔をしている。


「…不要物ってなんですか?」


僕がそう聞くが、財前は沈黙を続ける。


フードの男がおい、と低い声で怒鳴ると少し震えながら声を出した。


「私たち財前家にとって不要な異物、お父様の大事な大事な財産を賭博に使ったあげく!私の財産にまで手をつけて死んだ醜い醜い弟よ」


まさか弟のことを不要物扱いだなんて声が出ない。財前が震えているのはどうやら怒り出だったようだ。僕にはきっと理解できない世界なのかもしれない。


男もみゆもそして僕も財前の言葉にドン引いている。辺りに重々しい雰囲気がただよっていた。


「んん…。僕は優希ゆうき。さっき、みゆさんがこの部屋に最初にいたのは自分だと言っていたけど、多分それは僕が出ていった後の事だと思う。

僕が一番最初にこの部屋に入ったんだ。その証拠に、ほら、それ僕が昨日置いた荷物で、僕は昨日このアパートに引っ越してきたんだ」


「荷物…?あー!あれって優希君のだったんだぁ。玄関に置かれててぇ、置き配の住所間違えてるのかと思ったぁ」


置き配…。少し乱暴な言い訳のようにも聞こえるみゆの言い分は、どうやら財前も怪しいと思ったようだ。


「みゆさん、あなた怪しいわね」


財前は険しい顔で彼女を睨み続けている。そしてまだ何か言いたげだったが、フードの男が手を挙げたためそれは聞けなかった。


男が口を開く。


「昨日…引っ越しただぁ?ふざけんなそれこそ有り得ねぇ」


男が立ち上がって、近づいて来た。


男が手を挙げる。


?!


殴られる、と思ったが男が手を下ろす前に

少女の言葉がそれを遮った。


「ダイキくんって動画外だとかなり怒りっぽいんだねぇ〜」


男の振り上げていた拳が止まる。?ダイキ??


「?!!てめっ、なんで俺の名前を!」


「この前ネットで見たんだぁ、その目元のほくろと金髪の感じが似てるなぁってだけだったんだけどまさか本当にダイキくんだったなんて…びっくりw」


ダイキと呼ばれたフードの男は自分で墓穴を掘った事が悔しかったのか顔を青ざめ震えている。


みゆは墓穴掘ってて笑うんですけどなどと男を煽る発言を繰り返している。ダイキはプルプルと震え続けていた。


何だか可哀想になってきて僕が何か声をかけようか迷っているうちに落ち着きを取り戻したのか、はたまた観念したのかぽつりぽつりと自己紹介を始めた。


「俺は、ダイキ。動画作ってる。登録者数はそれなり。ここには用があって来たんだ」


「……来た?」


「…お前らもはここに用があって来ただけで

本当はんだろ?」


「は?」


ダイキはヤケになってるようだ。


「ちょ、ちょっと何いってるのよ!私の話を聞いていたのかしら?ここの部屋の借主を見れば分かるはずよ?大家の部屋から紙を借りてこようかしら?そこにはちゃんと、財前と書かれているはずよ!」


財前がパッと立ち上がり扉に手をかけ外に出ようとする。


「大家なんかいるわけねぇーだろうが」


それをダイキは許さなかった。


「だいたい、部屋に知らねぇーやつがいるなら警察呼んだりすればいいじゃねぇーか。なんで揃いも揃ってそれをやらずに雁首揃えて仲良く喋ってんだよ。警察に知られちゃならねぇ用事がこの部屋にあるからだろ?」


ダイキの喋りは止まらない。


「明日、このオンボロアパートが取り壊される。だから危ない用事を抱えた4人がこの部屋に同じタイミングで集まったんだ。だろ?」


言い切ったと彼は一息ついた。恐ろしいほどの静寂が4人にまとわりつく。


蚊取り線香の先がボトリと落ちた。


「……空気読んでよぉ。つまんなぁい」


少女が大きくため息をついた。


財前も先程弟さんの話をしていた時のような冷たい目線をダイキに投げつけた。


「悪いな。俺ぁ急いでんだ。正体がバレちまった以上さっさとてめぇらの用事を暴かねぇといけねえ」


「用事ですって?」


財前が聞いた。しかしダイキは無視をして


「おい、お前」


「えっ僕?」


「お前が一番謎なんだよ。百歩譲って住んでいる、住んでいたはわかる。…引っ越してきただぁ?何年も前に捨てられたこのアパートに引っ越すやつなんかいるわけねぇよ。お前何隠してやがる」


ダイキと呼ばれた男の鋭い視線が僕を突き刺す。もし、視線で人を殺せるなら僕はとっくに死んでいただろう。しかし、彼はなぜそう焦っているのだろうか。


「…やっぱり引っ越してきたってのはあからさますぎますよね。うん、僕は引っ越して来たわけでも住んでいたわけでもない。でもこの中で一番正当な理由でこの部屋にいると思う」


「正当な…理由?」


男が呟いた。


「それは「ね〜財前さぁ〜んもう帰るの〜?」


少女が不自然な形で僕の言葉を遮った。


「!?」


ふと財前の方に目をやるとなんとドアに手をかけ今にも出ようとしている。


「ようやくまともな話合いが始まったってのにもう帰っちゃうの〜?みゆ寂しいなぁ〜。てかさっきからビクビクコソコソキョロキョロ何探してんのぉ?みゆも手伝ってあげようか〜?って言うかダイキくんもなんか探してるよねぇ?何探してんのぉ?」


その言葉にダイキは、先程の財前よりもずっと大袈裟にビクリと体を揺らした。ダイキの顔色がみるみると青白く染まっていく。


「?探し物?」


「2人ともみゆに内緒で何か企んでるでしょ。もしかして裏で繋がっててみゆとユウキ君を追い出そうとしてるとかぁ?」


「なっ、!そんっなわけあるか!!!なんでこんな婆ァと手を組まなきゃいけねぇーんだよ!!つうかお前達こそ裏で繋がってんだろ。不自然にそいつの言葉を遮りやがって」


そいつと僕の事を指さす。


「組んでないなら言えるよねぇ?何探してたの?」


「お前らこそ組んでないならその証拠を見せてみろよ!!」


「はぁ?先にみゆが聞いたんだからあんたが答えなさいよ!」


「ふざけんな!!お前が先に言え!!」


2人が怒鳴りあっている。平行線の会話。しばらく続きそうだ。


ガタンッ



……部屋の前で物音がした。


ダイキとみゆは言い合っていて気づいていなさそうだが財前は聞こえたのかドアの方を凝視している。


誰だ?まだいるのか?


ピンポーン


部屋中に響くか細いチャイムの音はみゆとダイキを黙らせるのに十分な音量だった。


ピンポーン ピンポーン


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


鳴り止まないチャイム。


これまで4人だった世界に現れた闖入者に僕は動けないでいた。


チッ


チャイムに紛れて舌打ちが聞こえた。ダイキだ。ダイキが立ち上がり、ポケットに右手を突っ込んでドアの方へ向かって行った。


ガチャ


ダイキがドアを開ける。


チャイムが鳴り止んだ。


彼の右腕がピクリと動いた。


「誰だよおっさん」


ドアを少ししか開けていないのでこちらからは見ることが出来ないがどうやらおじさんがいるらしい。


「……うるさいんだよ。君達。痴話喧嘩なら外でやってくれ。下の階までギャーギャー聞こえてくる。迷惑だ」


知らない人の声が聞こえた。


下の階の住人のようだった。まさか他にも住んでいる人がいるとは思わなかった。ていうか痴話喧嘩?


「……っす」


ダイキが静かに会釈した。てっきり反発するのかと思っていたがそうでもないらしい。


「君達2人だけ?部屋にいるの」


どうやらさっきのみゆとダイキの怒鳴り合いが聞こえてクレームを入れに来たようだ。


ダイキはチラッとこっちを見たあと


「…はい、すんません」


と言いドアを閉めた。僕と財前のことは無いものにしたいらしい。


ダイキがこちらに戻ってくる。しばらくの間沈黙が続いた。


…下に人が居るとなると早めに終わらせた方がいいのかもしれない。


「んん」


咳払いをする。


全員がこちらを見た。


「2人が探しているのは」


「この部屋にある死体でしょうか?」


財前がビクリと震えた。


みゆが顔を顰める。


「し、死体って?というか、あなたなんで知って……」


目を見開いて財前は尋ねてきた。


「言ったじゃないですか…、僕は正当な理由でこの部屋にいるって。」


「僕は明日、ここの解体工事を担当する者で前日から泊まり込みでこの部屋にいます。そして死体の件などで警察の方とここで待ち合わせていました。」


ダイキがピクリと反応する。


「警察の方からもしこの部屋に誰か居たらこの部屋に引っ越してきたと言ってください、と言われていたので、嘘をついてすみませんでした」


財前の顔がみるみる青くなっていく。


「優希くんは悪くないよ」


みゆが言った。そして


「いやぁ、まさか本当にこの部屋に来るとはね」


と笑った。


「ど、どういう事よ!警察?意味がわからないわ。なんで警察なんか呼んだのよ!」


「それは「私が説明するよ」


取り乱す財前に事を説明しようとするとみゆが割って入って来た。


「10年前にこのアパートにある事件が起こったの。この部屋の床におびただしい量の血液が流れていてね、凶器と見られる刃物も床に落ちていた。DNA鑑定の結果からその血はこの部屋に住んでいた財前直也ざいぜんなおやのものだと判明した。そう、そこの財前麗奈の弟。ただ、明らかに失血死に相当する量だったんだけど、肝心の死体がどこにも無かったの。そのせいでいわく付きのアパートとと言われちゃって、ただでさえ人が居ない地域なのに人が住まなくなりこのアパートは経営困難になった。こっちの捜査では大方細切れにされてこのアパートのどこかに埋まっていると思ってたんだけど、悲しきかな殺害時に大家さんと連絡がつかなくてね。まだ死体見付かってなかったんだよねぇ。でも先週ようやく連絡が着いてね。 明日、念願アパート解体捜査が始まる。だから死体が見つかるのを恐れて犯人が戻ってくるんじゃないかなと一応に備えて昨日から張り込みしてたんだけど、本当に戻ってくるとはビックリ」


「こッちの捜査って…?」


僕は尋ねる。


「みゆが、私があなたと待ち合わせしてた警察なんだよね」


部屋中に、衝撃がはしる。


「み、見えない……」


思わず声に出てしまった。警察の方とは電話越しで

しか話してなかったから、女性が来るという事しか知らなかったが、まさかみゆさんだったとは…。


「ははっ、よく言われる笑まぁ今回はそれが目的だからね」


「?」


「解体工事をすると発表したのは先週。先週から昨日にかけては機材の運び等で常にこの部屋には人がいた。でも今日だけは作業員の人達は明日に備えて休日になっている。そして、解体前に住んでいた住人が忘れ物がないかチェック出来て自由に出入りできる最後の日でもある。といってももう住んでる人なんて下の階の山田さんだけなんだけどね。まぁ、書類上は財前直也もまだ住んでいることになっているけど。彼死体が出てないからまだ行方不明者扱いなの。誰が解体工事の人かわかるように、犯人にこの張り込みの事がバレないようにこの部屋は自分の部屋だ、ここに昨日引っ越して来たんだって言ってもらう合図を決めてさ」


みゆが、財前麗奈の方に向き直る。


「って事で財前麗奈さん、住居侵入並びにこの部屋に来た理由も聞きたいので署までご同行願えますか?」


「なっふざけるんじゃないわよ!私はアイツの残してった物を取りに来ただけよ!!私は殺ってないわ!!それに私は親族よ!」


「親族でも該当する場合がありますぅ〜。それに

このタイミングでここに来るのはどう考えても黒。言い訳は署で聞くからね〜」


みゆはようやくしっぽを現したであろう財前を捕まえようと躍起になっている。


僕の頭の中で1つの疑問が浮かんだ。


このタイミングでこの部屋に来るのは黒…。ダイキはなんでこの部屋に来たんだ……?


僕はダイキの方を見た。


ダイキは右手をポケットに入れゆっくりとみゆの方へ近づいて行く。


「私は……本当に殺ってないのよ」


「だーかーら言い訳は署で聞くって」


財前が首をふる。


「このタイミングでこの部屋に来るのは黒…?

もう1人居るじゃない。警察でも工事の人でもない、完全な部外者が……」


ダイキがポケットから


「私は殺ってない……」


ナイフを取りだした。


みゆがダイキの方に視線を向ける。


ダイキはナイフを大きく振り上げた。


財前が悲鳴を上げる。


みゆが


「優希くん逃げ」


言い終わらないうちに



ダイキの持つナイフがみゆの

心臓深く突き刺さった。


足先からから頭のてっぺんへ恐ろしいスピードで虫が這い上がって来たような、つかの間の感覚。



僕は脱兎のごとく駆け出した。



蚊取り線香がぼとりと落ちた。


 


*****




3人の笑い声がアパート中に響いている。


「見たか?!アイツの間抜けな顔www人間って本当に怖ぇ時あんな顔するんだなw」


大輝くんが口を開け大声で笑っている。


「やめなさいw行儀が悪いわよw」


麗奈も笑いがこらえられないようだ。


「しっかしよく騙されてくれたよな。このナイフなんか100円ショップで買った偽モンだし。先が収納されるやつ。よ〜く見れば分かるっつうに」


大輝くんが言う。


「雰囲気だよ雰囲気。完全に騙されてたからね笑」


私、みゆは口を開いた。


「さっさとアイツの残した遺産を頂いて帰りましょう」


麗奈はそう言うと優希くんが忘れていった工具セットの中から適当な物を選んで床を壊し始めた。


「しっかし本当にあるのか?財前直也の遺産」


「当たり前よ。私が貰えるはずだった財産のうち1部は床に埋めてヘソクリにしたって酒と共に自慢げに話してたもの」


「優希くんが居なければねぇ〜もっと楽だったんだけどなぁ〜」


「芝居をうつって聞いた時はすげぇびっくりしたぜ。よく警察だなんて信じて貰えたな」


「この前夜に盗みに入った家がちょうど警察さんの家でね、色々と使えそうだから貰ってきたんだぁ」


「お前…やっぱやばいやつだよな」


「ありがとぉ」


「…つーか、みゆ。下の階に人がいるなら言ってくれよ。途中、すげぇビビったじゃねぇか」


「知らなかったの!!まさかまだいるなんて思って無かったから…咄嗟にって言ったけど、、みゆだって怖かったんだからね!」


大輝くんが少ししかドアを開けてなかったから顔は見えなかったけど、あれは本当に怖かった。


「話はいいからあなた達手伝ってくれる?!」


麗奈が怒ったから私も大輝も作業を手伝いながら話し続ける。


「なぁ、それで財前直也はなんで死んだんだ?」


「知らないわよ。興味無いわ。ろくな死に方していないと思うけれど」


「さぁーね、死体が見つかってないのは本当だよ。床に血痕があったのも本当。ほら」


床を壊していくと、リフォームしたのだろうか、綺麗な床の下に微かに血痕が残っている生々しい床が現れた。


「あなた達、ちょっと壊しすぎじゃない?」


「いーだろ別に、明日には解体されるんだから。

それに財前直也の事件は行方不明扱いで終わりだろ?警察なんざ最初からここには来ねぇよ」


大輝くんが頭を搔く。


「おバカ。優希さんがきっと今頃警察を呼んでるわ。さっさと遺産見つけて高値で売り飛ばすわよ」


「この床の下かなぁ?」


ガッガッガッ


ガキッガガガッ


工具で床を破壊する音がアパート全体に響いている。





ガチャ


突然後ろのドアが開いた。



「あれ?2人って言ってたよね、3人じゃん」


聞き覚えのある声がした。


「あ?さっきのおっさんじゃん」


あぁ、さっきうるさいってクレーム入れに来た下の階の人か。


まずったなぁ、どうやって言い訳しようかな。



麗奈が後ろに1歩下がった。顔を見ると先程の演技とは比べ物にならない、まるで私が刺されたのを見た優希君のような恐怖でいっぱいの顔をしている。


「前の住人もねぇ、酒癖が酷くてねぇ、僕が何回も何回も何回も言ってもまるで取り合ってくれなかった。でも、所詮は肉の塊さ」


おい、と大輝君が男の方を指さす。


男の手には大きなナタがしっかりと握られていた。


「痛くても叫ばないでくれよ。僕はうるさいのが嫌いなんだ」






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