第10話 新たなる王

「私はみのりである!父上はおるか!」

宮殿の中にいた者が続々と出てきた。しばらくしたのち、天皇も顔を出した。階段を一段ずつ慎重に登った。足はもう限界の先に到達していた。

「お前、みっともないぞ。綺麗な服を着させてもらいなさ、、、」

そう言いかけた瞬間、みのりの手は天皇の頬にあった。

「父上、外で何が起きていたのか、ご存知でしょうか。」

蛇のような目で蛙を見つめた。

「し、知るわけがなかろう!」

「ならば、この戦場の有様を、じっくりと、見てください。」

みのりは天皇の手を引っ張り、見張り台へと連れて行った。

「みのり、よくご無事で。」

「姉上、早く手当を、、、」

「あなた達も、上へ来るが良い。外の世界を知った方が良い。母上も。」

「ええ。」

母上はやつれた顔で言葉のままに従った。

「お、おぉ、、、」

さっきまで大勢いた蟻がアリクイに一瞬にして食われたかのような有様を見て、見た人は皆、言葉を喉の奥につまらせていた。

「だからどうだというのだ。早く世継ぎを探さねば。私は忙しいのだ。」

「父上、まだそんなことを言っておるのか!私達が優雅に過ごすために、民がいくら亡くなったとお思いなのです。娘しか生まれない?それがどうした!もっと未来を変えるためにできることはあるだろう!私は、女ということに囚われたくなくて逃げた。しかし、そんなことは関係なかった。私は逃げてはいけなかったのだ。今自分が何をするべきだったのか、外の世界に行ってわかった。」

「何がわかったというのだ、小童が。」

「私が王になる。」

「お、お前が、か。」

「はい。私が王になり、この世界を変えてみせます。いずれ、大きい世界にして差し上げます。」

ギィィィィ

再び門が開いた。

「天皇だ!」

天皇が先頭に立ち、門からゆっくりと出てきた。次々とひざまづいた。しかし、佐伯だけは立ったままであった。

「皆、我らのための戦い、ご苦労であった。亡くなった者にも、この通り、御礼申し上げる。」

そういうと、天皇家一同は深々と頭を下げた。それは、綺麗なものであり、優雅であった。その優雅さに、皆、開いた口が塞がらなかった。佐伯でさえ、その気迫に負け、みのりを殺すことを忘れた。礼が終わると、みのりは前へ出て、佐伯の元へ進んでいった。

「佐伯、私は次の王となることにした。しかし、今までとは違う、皆と頭を並べる王にだ。」

「頭を、並べる?」

「お前の知っての通り、私はお前より強い。対等の位置にいながらも、統率するような強さを兼ね備えた王となりたい。付いてきてくれるか?」

「なんか、面白そうじゃん。おし、ついていくぜ。」

こうして新しい王が誕生した。歴史上、初めての女であり、戦う天皇であったかもしれない。しかし、その歴史書は大火事によって燃えてしまい、跡形もなく消えてしまった。実在したか否かは、読者の想像に任せるとしよう。     

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託された王 市井さぎり @siseisagiri

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