「新皇」の平将門と官軍の平貞盛が、下総の北山で今まさにぶつかり合おうとしていた。しかし、二人は従兄弟同士であり、特に貞盛は将門のことを昔から慕っていた……。平将門の乱に至るまでの道筋と、その顛末までを二人の人物に絞って描いた歴史短編小説。歴史を作り、運命に翻弄された彼らの姿に、胸が熱くなります。現代人からすると、「ここが歴史の転換点」というのは簡単でしょう。ですが、その渦中にいた人物たちは、悩み、苦しみ、それでも未来を見据えていたということが、強く伝わってきました。
かつて大河ドラマ『風と雲と虹と』で描かれた「平将門の乱」(承平天慶の乱、天慶の乱)…その物語を、将門と対立した貞盛を主役の一人にして描いた物語です。平安時代中ごろの「坂東」世界の広がりを感じさせてくれる物語です。「戦う」とは、理想郷を実現するとは、いったい何か?将門の乱後の関東や武家政権の歴史と重ね合わせつつ読んでも、また、難しい時代に否応なく選択を迫られつつ生きる若者たちの物語として読んでも、感慨が深まります。ぜひご一読ください。
『平将門』公。名前は聞いたことがあっても、この方の物語(小説)に触れる機会は滅多にありません。それだけでも貴重な作品ですが、読んでいて、当時の関東地方の雰囲気や、当時の武士たちの葛藤を感じられる作品です。世間では、今年、源平合戦(平家物語、大河ドラマ等)に関する創作物に多く触れる機会がありますが、いわば、そこへと至るルーツがこの物語の世界にはあります。短編ですが、読み応えはありますので、ぜひ一読を。
四谷軒様の描く歴史作品は、どれもこれも毛筆で、墨の濃淡や毛先のばらけ具合、整い具合で陰影を描き出すような、力強い読後感をもたらしてくれます。まあ、あまり格式高い文章で紹介できる力量は私にゃありませんが、読んで損なし。声に出して詠んでもよし! な作品です。
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