メリーさん、帰路に着く

「もしもし、私、メリーさん。今……」


 また昭和基地だろ、と思ったら違った。


「『しらせ』の中なの」


「マジか! 帰れるの、やったじゃん! あれ、隊員達も一緒なのか」


「ううん、全員じゃないの。交代で基地の維持する人は残るの。田中さんも山田さんも残ってたわ」


「通信は衛星電話かな? じゃ、船上だと時間もバラバラになるな」


「で、氷だけど、ごめんなさい。大きすぎて切り分けられない」


「ああ、いいよ、いいよ。メリーさんが無事に日本に帰ってくれれば」


「なっ! わ、私はあんたに復讐しに行くんだからねっ! 南極の氷宅配人じゃないから! つ、ついでに運べないかなって思っただけだから!」


「わかった、わかった。まあ、無理して体壊すなよ」


「べ、別に心配しなくていいわよっ! 切るわよ」


 日に日にツンデレ度が上がっている。この数ヶ月毎日のように電話していたから、生身の人間なら好意のフラグ立つが、相手は復讐を狙う人形だ。


 俺、新しい禁断の扉を開いてるのか?


 そして更に月日が経った。そろそろしらせも戻ってくる頃だ。あとは横須賀から竹橋ふ頭へなんらかの移動していよいよ小笠原ここに復讐にくるのか。


 お棺に入れた時の姿なのか、それとも南極の厳しい環境で逞しくなっているのか。後者だと、ジャパニーズホラーではなくてアメリカンホラーになってしまう。


 そう考えたとき、着信があった。いよいよおがさわら丸に乗ったのか。


「もしもし、私、メリーさん。今、さんふらわあ号に乗ってるの」


 ……俺は頭を抱えた。ドジっ子通り越して致命的な方向音痴じゃないのか?


「あのな、さんふらわあ号は茨城県の大洗から北海道の苫小牧までの船だ。どうやったらそんな間違いをする?」


「ええっ!? また間違えたの? ヒッチハイクで港までってお願いしたのに! 『君もイベント往くんだね』と人形なのに意気投合してくれて親切に乗せてくれたのに、私は騙されたの?!」


「いや、多分某戦車アニメのイベントと勘違いされたな、それ」


「イヤああ、小笠原がどんどん遠くなるぅー!」


 メリーさんはパニクッて話にならない。


 まあ、南極ほどではないが、小笠原に来るのはまだまだ先のようだ。そういえばばあちゃんも極端な方向音痴だった。そこは主に似たのだな。俺はホッとしたような残念なような気持ちがした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしもし、私、メリーさん。今、南極にいるの 達見ゆう @tatsumi-12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ