最終話 それから
あれから、しばらくの時が流れた。
魔族との戦いは、勝利に終わった。
もともと、俺の魔術で本陣を吹き飛ばした後は、数的有利な状況だった。
加えて、魔王が倒されたのを見た魔族の士気は落ち。
まもなく逃亡を始めた。
城壁を登って西の大陸に入り込んだ魔族も少数いたが、その全てが掃討された。
死者32万人超という、途方もない犠牲の上だが。
なんとか、ヒトの領土を守ることができた。
情報が各国に共有されると、大陸全土に激震が走った。
知らぬ間に、ヒトは滅亡の危機を迎えていたのだ。
それを退けた戦線の者達は、英雄として扱われ。
遺族には、手厚い特別年金が配布された。
戦後の処理が一段落した後。
大陸全土の首脳を集めた国際会議が、アバロンで行われた。
なぜ戦線から遠いアバロンなのか。
それは、俺達のせいだ。
俺とユリヤン、クリス、エミリーは、魔王を倒した大英雄として扱われた。
俺達の出身がアルバーナだったので、会議はその首都アバロンで開催されたのだ。
会議の場で、論功行賞が行われた。
中でも俺の功績は群を抜いて高く評価され、勲章だの褒章だのを数えきれないほどもらった。
売れば一生遊んでくらせるほどの量だ。
さらにアルバーナ王から、爵位と領地を与えると言われたので。
思うところがあり、俺はサンドラ村近辺を希望し、その領主となった。
階級は子爵。
一応俺も、貴族の仲間入りだ。
地位に興味があったわけではない。
ヴィルガイアの跡地を綺麗にしたいと思ったのだ。
できればあそこに、またかつてのような街並みを作り上げたい。
それが俺の、今後の当面の目標になった。
……さて、他のやつらについても話しておこう。
まずは、ユリヤン。
戦での功績が認められ、王室内での地位がうなぎ登りらしい。
他の王子よりも他国への名の通りが圧倒的にいいので、次期国王にユリヤンを、という声も挙がっているという。
本人は今一つやる気はないようだが、とりあえず戦線からは離れ、アバロンで王族としての暮らしに戻っている。
次は、クリス。
クリスはアバロンの近衛騎士団に、副団長待遇で迎えられることになった。
王室からの強い勧誘に、根負けしたような形だ。
それでいいのか? と聞いたら。
「まぁ、やりたいことは全て終わったからな」と、笑っていた。
最後に、エミリー。
エミリーは、勘当されたグレンデル家に、再度迎えられる形となった。
エミリーの名は、魔王を倒した者として大陸全土に知られており、置いておくだけで領の益となる。
そのように、領主が判断した結果だという。
しかし当然ながら、エミリーは条件を出した。
一つは、結婚相手を自分で決めること。
もう一つが、魔術協会との確執を埋める努力をすることだ。
少し悶着があったが、それらは受け入れられ。
エミリーはまた、エミリー=フォン=グレンデルとして生きていくことになった。
まぁガドリーノ伯爵は出帆した愛娘が気になって、呼び戻す口実を探していたらしいが。
いいところに収まったのではないだろうか。
……とまぁ、そんな感じだ。
いろいろなことが、少し落ち着いて。
俺は今、ヴィルガイアの跡地にいる。
これまでのことを、両親に報告しにきたのだ。
土魔術で作った墓標に、膝をつき、手を合わせる。
(父さん、母さん。
あなたたちを殺した魔族を、討ち果たすことができました。
俺はこれから、このヴィルガイアの街を再建するつもりです。
――どうか、安らかに眠ってください)
瞼の裏に、両親の笑顔が浮かんだような気がした。
人生の中の、大きな扉が閉じていくのを感じる。
ここに来るまでに、本当にいろいろあった。
つらいことや、悲しいこと。
楽しかったこと。うれしかったこと。
その全てが、一つの物語として、今終わりを迎えたのだ。
しばらく両親に祈った後、立ち上がる。
「……さて、と」
俺は、土に転移魔法陣を描いた。
「よし」
跳び乗ると、魔法陣が輝き始める。
景色が、瞬時に変化した。
目に飛び込んできたのは、一面の花々。
ここは、アルバーナのはずれにある、花畑だ。
「……ふぅ」
ドキドキと、心臓が高鳴る。
ここに、俺が選んだ人が待っている。
彼女に似合うだろうと思い、ここを待ち合わせ場所にした。
ポケットの中には、指輪が入っている。
彼女は、なんと言うだろうか。
喜んでくれるだろうか。
俺は、彼女の姿を見つけて、駆けだした。
――さぁ。
ここからまた、新たな物語を始めよう。
了
ずっとイジメられていた俺が、異世界では最強の魔術師だった件。~俺が異世界転移したことに、なんとそんな理由があったとは!~ @nyaooon
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