とある開戦(はじまり)の風景 2
脳の拡張領域を利用して物理的なコンピューター媒体を駆逐したOS『アドブレイン』は、度重なるアップデートで高い完成度を誇っている。なにせ俺たちが生まれる前から続いているくらいだしな。
……だが、何事も完璧などは無い……たまにこういったトラブルも起きる。
俺はまだこの時、音声付き迷惑メールがセキュリティーの隙間を抜けて数人届いてしまっただけだと考えていた。
異常だと感じた切っ掛けは、突然クラスメイトがぶっ倒れた所だったか? 前の席の男子、小野寺が突然机から床に崩れ落ちた。クラスが騒ぎ出す……とりあえず保健委員に保健室に連れて行ってもらいたい所だが、その保健委員は今
「あー、俺が連れて行くよ、保健室近いし」
もう一人の保健委員である女子生徒が、意識の無い小野寺を連れて行く事は難しいだろう。俺は隣の席のよしみで名乗り出ると、そのまま連れて行く事にした。
普通の学校なら補助ドローンを呼び出して連れて行けば良いのだが、あいにくこの学校は『古き良き校風』とやらで大昔のような環境で運営されているため、今では当たり前の設備が無かったりする。
その割には中途半端に最新技術を使っている部分もあり、現在の授業は教師が自宅から『アドブレイン』を使用するリモート授業だったりする。
……話が逸れたが、そういうわけで俺は小野寺を背負うと保健室に向かった。
さすがに保健室には養護教諭がいる……これはリモートでは無理があるからな。事情を説明して小野寺をパイプベッドに寝かせる。ちょうどそのタイミングで新たな訪問者がやってくる……生徒が生徒を背負いながら。
話を聞くと俺のクラスと同じ状況で倒れたようだ。そのうち更に追加の生徒もやって来て、やがてベットはいっぱいになってしまった。明らかに異常な事態だ……異常な事態に頭の片隅に追いやられていた先程のメールの事を思い出す。
何だったか……あのふざけたデスゲームの能力とやらが、あの瞬間に使えるようになったとして、それを試しに使った奴がいたら?
デスゲームなだけに相手を攻撃するような能力を与えられた奴が、試しにそれを誰かに使ったら?
ルールの一つにあった『ペナルティ』に抵触したんじゃ無いか?
馬鹿馬鹿しいとは思いつつも念の為と思い、倒れている奴の顔を『アドブレイン』のカメラアプリで写真を撮っておく。保健室の養護教諭は職員室に連絡、すぐに救急車の手配をすると、校内放送で保健室は満員なので倒れた生徒はそのまま教室で待機と流れた。
他のクラスの倒れた生徒を確認したくはあったが、さすがに怪しいので教室に戻る事にした。あんな事が起きた後に、あの校内放送だ……授業にならないのか自習になっていた。
「海ちゃん、小野寺くんどうだった?」
すぐに幼馴染みの真奈美がやってくる。
「うーん、わからん。保健の先生に任せて帰ってきた」
実際に何も分かっていないので、ありのままを告げると、真奈美は不安そうな顔をしている。
「あのね、海ちゃん、さっき変な……」
俺は慌てて真奈美の口を塞いだ。真奈美は顔を赤くして慌てて手をどける。
「言いたい事はあるかもしれないけど、今は自習だからな。あとでな」
この場で能力やデスゲームの話をするのは色々危険だと感じて強引に話を止めた。この調子だと休み時間に話をされそうなので、真奈美が席に戻ったタイミングでチャットアプリを立ち上げると、すぐにチャット要請をする。
『海ちゃんどうしたの?』
『いや、確かに自習だけれど、別にやる事無いしな。何か真奈美は話したい事があるんだろう?』
『ありがとう、海ちゃん!! あのね……』
予想通り真奈美は能力者同士によるデスゲームの事を打ち明けてきた。さて、どう答えたもんだろうか?
俺は念の為に色々警戒した行動を取っているが、実際はただの迷惑メールで、倒れた生徒は偶然だったという可能性だってある。どちらであっても問題ない行動を考えないとな。
だが真奈美はあまり腹芸は得意では無い……うまく俺が立ち回らないと二人とも危険にさらされる可能性がある。
……考えた末に俺の出した答えは……
VS ABILITY -ヴァーサス アビリティ- ヒロセカズマ @E-N
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