3話「メタロへようこそ」

銃弾は暴徒の眉間に的中し、脳天を抉りながら貫通し天井に血飛沫を舞わせた。


少しは昔のことを思い出せた?「ジャック」


「あぁ…」


ひと時の余韻に浸ってジャックは肩を落とすが、そんな暇も残っていないらしい。音を聞きつけた暴徒の仲間と思しき人間たちがこちらに走っている足音が聞こえてきた。


『増員が来るよ、今のあなたじゃ太刀打ちできない、逃げて。』


「どこに逃げろって言うんだ、非常出口とかは無いぞ」


『窓から飛び降りて』


「……あぁ…分かったよ!」


ジャックは嫌々ながら窓の淵に立ち、そこから飛び降りた。どうやら自分の病室はかなりの高層だったらしい。脳に血が溜まり、今にも気絶しそうになるがこの体は生憎簡単に気絶できないらしい。


強い衝撃と水飛沫の音が辺りに響き渡る、どうやら運良く川の中に落ちれたらしい。ただ川と言っても高層数百〜数十メートルから落ちるとなると負傷は避けられない、手足が抉れ、自然と岸に打ち上げられるのをゆっくりと待つ羽目になった。


「ゴホッ……ゴホッゴホッ!……手足が取れそうだ」


『大丈夫、すぐ再生するよ。ほら胸の傷も治ってきてる』


彼女がそう言うので胸の傷を見ると銃弾にまとわりつくように血と肉が形成され、最後には弾を押し出してしまった。


「……不気味すぎる」


ジャックは眉を顰めた。次にやってきたのが今後への不安、事件を追うと約束したものの、この後どうすればいいのだろうかと頭を抱える。


「そういえば君の名前を聞いていなかったな、名前は?」


『私の名前はローズ』


「ローズか、下の名前は?」


『下の名前は言えないの、あの世のルールだから』


「その“あの世のルール”ってのは何なんだ?」


『ふふっ、いつか分かるよ。』


「………………俺はこれから何をすればいいんだ?まだ名前しか思い出せないんだ。」


『心配しないで、貴方が事件を追う限り私が貴方の手伝いをしてあげる。きっと記憶も戻っていくわ』


ジャックはローズの言葉を信じ、少し安心したようで一息ため息をついた。


『と……その前に、服を用意しないとね。』


「え?」


ジャックは下を向き、自分の服装を確認して驚愕した。


『その……包帯が崩れちゃってて』


「…………………」


ほら、気を落とさないで。とりあえず服を探そう


「そうだな」


ジャックはバツが悪そうに目を逸らして岸辺を歩き始めた。すると服が詰まったボストンバックが置かれていた。


『ちょうど良いね、あそこから拝借しよう。』


上下と靴が丁度良く入っており、多少埃がかぶっているがサイズもぴったり一致した。しかし服を探している途中、妙な小袋を見つけた。白い砂糖のような粉が入っており、それを包装するように服が巻かれていた。 


ジャックがその小袋を手に取ると記憶が断片的にフラッシュバックしてきた。


「うっ………」


『どうやら麻薬の取引場所みたいだね…ここにいるのは危ない、早く逃げよう。』


「麻薬…」


『何か思い出せたの?』


「おい、アンタ何やってんだ?」


後ろから呼び止められて振り返るとそこにいたのはバンダナを巻いた3人の男、運の悪いことに今が取引の時間だったらしい。。近くに遮蔽物はなく、逃げることは難しいだろう。


「って……ジャックじゃねえか!こいつはジャック・ラリーだ!」


男たちは動揺し、後退りしながらジャックに銃を向けた。


『仕方ない…ジャック、戦って』


「お前ら、俺を知っているのか?少し話を聞かせてもらうぞ」


ジャックは銃を取り出して1番先頭の肌の浅黒いを男を銃で三発発砲した。鈍く大きな音、しかし男は倒れることなくジャックの首に銃の引き金を引く。


「ガッ………!」


「防弾チョッキだ、こんな古典的な手に引っかかるなんてアンタらしくねえなぁ」


「畜生……ローズ、この体は死なないんだよな?」


『えぇ、私がいる限り何度でも生き返らせてあげれるわ。』


「そうかい、じゃあローズ、少し無理するぜ。」


「ケッ、錯乱してんのか?」


ジャックは銃を片手に男たちに向かって走り出した。男たちは銃の引き金を何度も何度も引き、ジャックの心臓や頭を正確に打ち抜いた。常人なら必ず死んでいる、しかしジャックはそれをものともせず突進していった。


「おいおい!どうなってんだ!?」


男がそう叫び、再び引き金を引いてジャックの眉間を撃ち抜こうとしたが、ジャックはそれを無視して猛進し、男2人の喉を手と歯を使って噛み潰した。男たちは恐怖と困惑の顔を浮かべ、もがきながら死んでいった。


「畜生…畜生……!こんなのおかしいだろ!死にたくねえよ」


「お前、どうやら俺を知っているらしいな?」


「あ…あぁ!もちろんだ!だから殺さないでくれ!」


「何を知っているんだ?」


「ヘヘッ…アンタの噂はこの世界じゃ常識だろ?“あの事件”を追って死んだ刑事だって」


「その“あの事件”ってのは何なんだ?」


「詳しいことは知らねえよ…語り継がれすぎて今じゃただの御伽噺だ、だがもう一度死にたくねえならあの事件を追うのはもうやめな、あれはこの街の深い根っこまで入り込んでるって噂だ。


ラッパー、占い師、料理人、アンタの所属している警察にさえ組織の一員がいるって噂だ。さっさと遠い国にでも隠居するんだな」


「生憎それはできないんだ。よし、俺がいた事は忘れろ、恩赦だ、逃してやる。」


「あっ…ありがとよ!ちなみにアンタの目からビームが出るって噂は本当なのか?」


「……………さっさと失せろ」


男はその場を走って去り、ジャックは辺りを散策して川から上がる階段を見つけた。


「そういえば、この街の名前は何なんだ?」


『あぁ、言ってなかったね。』


階段を登り切り、顔を上げて景色を見る。汚らしい道路、ビル群からは朝日が垣間見えてかろうじて当たりを照らしている。


『この街の名前は「メタロ」あなたと私を殺した犯人がいる場所よ。犯人を絶対に見つけましょうね』


「あぁ」


ジャックは銃をポケットにしまい、街を歩き出した

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復讐の記憶 些末 @samatunakoto

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