2話「再誕」
ーおーい、生きてる?ー
「ぐ………ぅう……」
包帯の男は何者かに肩を揺すられなんと奇跡的に意識を取り戻した。体に力は入らず目を開けることすら叶わない。しかし薄れゆく意識の中、その何者かの声だけは鮮明に男の鼓膜に届いた。
『良かった、記憶を失っても根性は残ってるね』
「………ぁあ……あぁあ……」
男は自分の置かれている状況が理解できずに錯乱状態に陥り、ベットを揺らしながら途切れ途切れの叫び声を上げる。しかしいくら叫ぼうとも周囲に人間の気配は感じられず、声だけが鮮明に聞こえていた。
『落ち着いて。大丈夫だから、大丈夫……』
「……………あぁ……」
『よし、ゆっくりと目を開けて。』
「…………………」
男は重い瞼を少しずつ開いていく。薄暗い病室のベットの上、男は声の主を探して視界をベットの外へ持っていくと、そこにはブロンドの若い女が居た。と言ってもただの人ではない、体が不明瞭で後ろに手向けられている花が透けて見えている。とてもこの世のものとは思えない不思議な雰囲気がそこにはあった。
『あなたは一度死にかけた…いや…一度死んだって表現の方が正しいかな?体にいくつも大穴が空いて、喉元も噛み切られ…』
「ぁあああ………ぁああ……」
彼女の話を聞きながら男は視線を自分の体に向けていく、包帯に巻かれたその体は到底人のものと呼べるものではなく、不恰好な人形のように歪なものになっていた。それを見て再びパニックになり、心拍音が一気に跳ね上がったのを心電図が知らせて大きな音を鳴らす。
『病人にこんな話をするのは酷だけど、目の前の現実が答えだよ。さて、話を続けるよ。あなたは刑事だった。とある事件を追っていたが事件が絡んでいる組織に目をつけられてこうなった、脳をバットで1発ぶん殴られたからロクに昔のことを思い出せないでしょ?』
「ぁああああああぁ……」
『落ち着いて、そんなあなたを助けたいの。』
彼女の声を聞くと男は次第に落ち着きを取り戻し、ゆっくりと深呼吸をして心拍を整えていった。
『私はその事件の組織に殺された被害者の幽霊、刑事のあなたに一つ頼みがあってこの世界に残ってるの。
あなたの体をもう一度動けるようにしてあげるから、私と一緒にあの事件を追って』
「ぐっ………」
男は静かに首を縦に振って頷く。
『よし、ありがとう。』
彼女は男に近づき、男に抱きついた。その瞬間無数の穴や傷跡は全て炎で焼かれたかのような痛みが走り、肉や皮膚が構成されていった。その痛みに耐えきれず男の視界は暗転し、再び意識は闇の中へと落ちてゆく。
次意識を取り戻したのはけたたましい爆発音と銃声と悲鳴…先ほどよりも明確に意識を保っており、徐々にだが手足を動かす感覚を掴むことができた。しかし彼女の姿は何処にもなく、男はとりあえずベッドから起き上がった。
『おはよう、よく眠れた?』
彼女の声が頭の中を響き、男は当たりを見回したが誰もいない。
『ここだよ、ココ、あなたの頭の中。』
「おい…どう言うことだ?俺は誰で、俺は何を追っていたんだ?」
『それは私の口からは言えないよ、それがあの世のルールなの。でもよかった、もう喋れるなんて』
「…死にかけたってなら、俺は何で生きてるんだ…?」
『生きている…ってのはちょっと語弊があるね、あなたの体を「動かせる」ようにしただけよ』
「お前………」
『大丈夫、全て終わったら生き返らせてあげるから。』
「…分かった」
その瞬間だった、轟音と共にドアが蹴破られ、外から暴徒が1人入ってきた。その手には拳銃が握られていて明らかな殺気が感じられている。焦点が合わない目で男を一瞥した。
「まさかアンタが本当に生きていたとはな、まぁいい。これでアンタもおしまいだ!」
暴徒は醜い笑顔を浮かべて何の躊躇もなく銃を構えた、きっとこの暴徒はあと数秒で平然と発砲して男を撃ち殺すだろう。
『これがあなたを殺した組織の一員よ、ベットの上の銃をとって戦って』
「ッッッ………!!」
男は銃を手に取ろうとしたが、暴徒は何の躊躇いもなく心臓に向けて3発銃を発砲した。至近距離で避けられるはずもなく、銃弾は全て心臓を貫いた。
「……………?」
しかし、男はなぜか生きていた、それどころか痛みを一切感じることもなかった。
『あなたはもう死んでいるの、一回死んでいる人間はもう死なないわ』
「はぁ…!?それじゃまるでゾンビみたいじゃないか」
『まぁ実際そうだしね、それよりも目の前の敵に集中して』
「チッ……クソが…」
「おい…!?なんで生きてるんだ!?!?」
暴徒が狼狽えているうちに男は血の滲んだ拳銃を手に取った。その瞬間、記憶が断片的に湧き出てきた。
「そうか、俺の名前は」
『さぁ、引金を引いて復讐をはじめましょう』
男は銃を暴徒に向け、頭に向け引き金を引いた。
「ジャック・ラリー」
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