復讐の記憶
些末
1話【プロローグ】
『頚椎への咬傷、四肢の複雑骨折、網膜剥離、胴体数箇所の裂傷、記憶障害………』
白衣を着た医師の淡々とした声と、ベッドで隔たれた先のコートを着た男の静かなため息が部屋にこだまする。
その中心には包帯で体を覆われた、体格から推測するに男がいた、心電図を見る限り機械を通して辛うじて生命を保っているようだがその体は包帯越しでもわかるほどに大きなへこみが幾多にも空いており、おそらく包帯がなければ到底人間とは認識できないものだった。
『どうにかならないのか?コイツはこの事件の重大な鍵を握っているはずなんだ』
コートの男は医師の話を遮り、弱々しくそう尋ねる、それに対して医師は無情に首を横に振った。
『症状はまだ半分以上残っています、いえ、これだけでも到底不可能だと言うことが理解できるでしょう。もし意識を取り戻したとて、彼に言語能力や記憶能力は残っていません』
医師は一切感情の起伏などを感じさせず、この男の生存の可能性がどれだけ低いのかを物語っていた。
コートの男が残念そうに顔を下げたその瞬間、爆発音と共に無機質な警報音が病室にけたたましく響いた。
『緊急事態だ!奴らにこの場所がバレた!』
医師はそう叫んで走って部屋を離れた。コートの男はポケットから血の滲んだ銃を取り出し、包帯の男のベットに置いた。
『いいか、アンタがもし目を覚ましたらこれが必要になるだろうから置いておくぜ、死ぬなよ』
そしてコートの男もまた、部屋から離れていった。
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