第2話



 「アサガオの花弁は波のよう」


 彼が語る夏の思い出は、植物のことばかりだった。そうした涼しい語りの中に、子供の時から大人になるまでの、観察を培ってきた眼の特異な感想を聞かされる。夏にはよくアサガオを描いていた。その一枚を切り取って、今の私の手元にあるのは、白と黒がくすみかけた花弁のスケッチ。文字の入れられていない、花だけが描かれ た画用紙は、誰かの手に渡れば日付すら覚束ない無意味なもの。しわで徐々に形を崩したアサガオは、それでも丁寧な造形をとどめている。手にすれば鋭いまま、脈の端から水が垂れそうになるほど、そして照らされた画用紙の上には影が薄まり、私はこの絵を眺めていた。使いかけになった鉛筆は、緑を焦がした地の上にアルファベットを刻まれ、引き出しの奥に横たえる。スケッチの上辺に翳る穂のような線が、幾重にも沈む黒色で滞っていた。

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私室幻想 フラワー @garo5

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