三十六話:ライブ鑑賞は温泉で

 ダンジョン・シャビル。


全五階層のちっぽけなダンジョンの待機エリアに、大量のプレイヤーが集結していた。 




「はぁ……多すぎだろ」




「これじゃ、入れそうにないね」




「あぁん。 ライブで良い画が撮れると思ったのに!」




 時刻は二十四時五十五分。


ダンジョン戦の三十分前から、占領ギルドと応援以外は内部に立ち入り禁止となっている。




「おい! お前ら雑魚どもは大人しくしてなっ! 俺たちがこんなクソギルドぼこぼこにしてきてやるからよぉ〜〜」




 へらへらと笑う集団。


集まった者たちからの痛い者を見る視線に気づかない。


 三本牙のエンブレム、ギルド『牙の傭兵団』の者たちのようだ。


全員がプレート装備に身を包み、杖を持つ魔術師たちですら防御力重視の装備である。




「リンクスさん、おねしゃっす!! まじ卑怯な奴らなんすよ! 仇、おねしゃっす!!」




 小者臭のする金髪を後ろで縛った男が、わざと周りに聞こえるように大声で『暁の月』の悪評を流していた。 ほとんどが嘘である。 しかし、一部。 鉄仮面にボスを掻っ攫われたとか、コルルを買い占められたなど、事実も含まれていた。




「ふん! 任しとけっ!」




 『牙の傭兵団』ギルドマスター・リンクス。


 若い男性。 熱く、ゲームは本気でやるタイプであり、たしかな実力者。 積極的なギルド活動に来る者拒まずな運営方針。 コルルオンラインの大手ギルドとして、普段は大規模ダンジョン戦を戦場としているギルドだ。




「俺たちだけでぶっ潰してやるぜ!!」




 とはいえ、大所帯であるが故にメンバーの質は高くない。 マナーとプレイヤースキルの両方ともである。




 二十五時ジャスト。




「――行くぞ!!」




「「「オオオオ!!」」」




 シャビルへと『牙の傭兵団』三百人がなだれ込んだ。




 シャビル内部は塔の中だと言うのに天井が高く明るい光が降り注いでいる。 緑の多い遺跡タイプのダンジョン。 現れる敵は亜人型モンスターやゴーレムなど。 高レベルプレイヤーであれば一対一であっても、さして苦戦する相手では無い。




「防衛いませんね?」




「最上階だろう。 サクッと解除して先に行くぞ!」




「はい!」




 一層ごとに次の階に行くためのスイッチが存在する。


それは文字通りボタンであったり、キーパータイプのモンスターであったりと多様だ。




「――――ッッ!?」




 味方が、遠くにいた味方が一瞬でやられた。




(……モンスター?)




 人型の何か、得体のしれない影を纏う仮面の何かを見た気がした。




「どうしたんすか?」




「ちっ、……まぁいい。 先を急ぐぞ……」




 放置することは危険だ、そう思いつつも姿が見えない以上どうにもできない。 リンクスは先へと急ぐ。




 上位クラス。




 今回の騒動の元凶であるその可能性を考えながら。






◇◆◇






 俺は急いで最上階へと戻る。




「どうだった?」




「いっぱいいましたよ」




「いや、新クラスの感想だよ〜」




「……凶悪ですね」




 ユニーククラス『シャドウウォーカー』。


それはハイド、隠身に特化したクラスだった。




 ハイド状態の場合、移動速度上昇。 揺らめき、効果音の減少。 特定スキルの強化――バックスタブを闇属性ダメージとして与えるという、凶悪な効果付きなのだ。 光と闇は耐性がないので大ダメージ確定。




 それにクラスチェンジで基礎能力が大幅にアップしていた。




 スキル確認と偵察に一階層に行っていたのだけど、あまりの敵の多さに一人倒してすぐに引き返してきた。 やっぱりダンジョン入場制限ギリギリまで進入してくるんだろうな。




「へぇ〜! ねね、私にも見せてよっ」




「あれ? 一華。 なんで?」




「決まってるでしょ? ――助っ人よ!」




 無い胸を張る一華。 いつもの勝気な笑みを浮かべている。 元気になったようで何より。




「サンキュ」




「んんっ……ふにゃぁ……」




 おっと。 つい嬉しくて頭を撫でてしまった。 しかし、助っ人に来てくれるなんていい奴だなぁ。 変な格好の癖に。




「ノリオ……」




「え?」




「ん……はょ」




 何故か鉄仮面を突き出してくるレフィーさん。


撫でろってことか? 鉄仮面を優しく撫でろと? 


 一応、撫でておくけど……。 ひんやりしてる。




「ほら、遊んでない! そろそろ来るよ!!」




 下の階で見張っていた人が駆け上がってきた。






「来たれ燃やし尽くす者、精霊の息吹よ吹き荒れたまえ。 紅蓮の旋風――ファイヤーストーム!!」




 炎の渦。


システムにより階段にいる敵には、階段の外からの攻撃は当たらない。


 しかし、狭い場所から出てくる敵は狙いやすい。


 階段前に簡易陣を敷き、そこで迎え撃つ。




「小賢しいんだよぉおおおお」




 大盾を構えた体力自慢たちが無理矢理突っ込んでくる。




「メテオ!」




「ストーンバレット」




「アイシクルランス」




 スキルの応酬。


こちらだけで無く相手からもスキルが大量に飛んでくる。




「休ませるなっ! 放ち続けろ!」




 盾を構え大声で叫ぶ敵のリーダー。


 ゴテゴテしたプレート装備の集団が盾を構えて階段を上がった場所に半円の陣形を構築しだす。 


 


「ファランクス!!」




 並ぶ盾。 青く盾のエフェクトが描かれ、スキルを弾き飛ばす。


 徐々に前に進み始める集団。 壁際に潜んでいた俺はゆっくりと動き出す。




「あっ?」




「バックスタブ」




 古龍討伐で得たレアドロップから信さんに作ってもらったドラゴンダガー。 その赤黒い刀身は紫紺の輝きを放ち、敵のリーダーらしき人物を背後から穿つ。




「がっ!? き、貴様かぁあああ!!」




「クロススラッシュ!!」




 一撃で倒しきれなかった。


相当にHPが多い。 俺は慌てつつ、ドラゴンダガーで相手の顔にクロスを描く。




「リンクスさんっ!」




「おらああああーー!」




 こちらにタゲが移る。


盾を構えていた者も、後ろからスキルを放っていた者たちも。


 これは、やばい。 俺はさっと胸に手をやった。






「今だよっ!」




「んっ……」




「行くぜぇーー!」




 乱戦。


アルマの号令でこちらもなだれ込む。




 アルマの大鎌が敵を切り裂き、レフィーさんの雷撃が連鎖する。


こちらにも被害は出るが、復活地点は最上階の後方にある小部屋。


 どれだけこの階段エリアで敵を押しとどめられるかが勝負のポイントだ。




「んあ!? タマゴモンスターっ!?」




「ぐっ……なんだぁ? 体が重い……」




「デバフ……! 解除っ」




 俺は胸ポケットにしまっていたチビシトリを放つ。


空中で大きくなっていくシトリは、俺の前で敵プレイヤーに立ちはだかる。


 


 高速振動し硬殻で斬撃をガードするシトリ。 さらにふるえながら怪音波デバフを放ち鼓舞を発動させる。 




 シトリさんマルチチートすぎ!!




 俺はシトリの影からハイド状態で飛び出し、敵の後方部隊に襲い掛かる。




「バックスタブ!」




「ひゃんっ!?」




「バックスタブ!!」




「んほぉおおお!?」




 女プリーストと男プリーストに背後からバックスタブを放つ。


『シャドウウォーカー』の特性として、ハイド状態からのバックスタブで対象を仕留めると、ハイドのCTとバックスタブのCTが初期化される。


 さらにハイド状態で敵をかき乱す。




「どこ!? なんで感知できないのーー!?」




 そして凶悪なのが感知不可だ。 正確には感知の上位スキルである看破が必要なのだよ!




 まさにゲームの始まった初期、ハイド無双していたアサシンの悪夢再来だ。






「ふぅ……!」




「はぁぁ……一旦落ち着いたか?」




「第一波撃破ーー!」




「楽勝ね♪」




 なんとか敵を押し返す。




「ほら! 油断しない。 次はたぶん、一気に突っ込んでくるよ!」




 攻めてきた敵を全て倒した訳ではない。


半数には撤退された。 もちろん時間制限まで守り抜くことが目的ではあるので、殲滅する必要はないけど。




「今のでこっち戦力バレちゃったものね。 ごり押しで来られたら乱戦は免れないわ」




 時刻は二十五時十五分。


すでに最上階までは走ってくればいいだけ。 バフを受けた高レベプレイヤーなら五分も掛からないだろう。




「シルフィーは?」




「……どっか行った」




「ありゃ。 まだ言うこと聞かないのか」




「うん……」




 そういえばレフィーさんのコルルも連れてくるって言ってたな。




「どんな感じなんですか?」




「筋肉……」




「へ?」




「精霊型だけど……筋肉……」




 うわぁ……。 嫌な予感がする。 絶対会いたくないぞ。






◇◆◇






 シャビル・三階層を駆け抜けるPT。




「ふん、やっぱあいつら大したことないよな」




「はは。 速攻でやらてるもんな」




 倒され戻った『牙の傭兵団』に変わりダンジョンアタックしている。




「まぁ、油断せずに行こうぜ」




「おう、新クラスにすでになってるなんて情報もあるからな!」




「ライブの準備もばっちりよーー!」




 すでにスイッチが押され後は最上階まで走ればいい。


彼らのPTは油断していた。




「っ!」




「なっ、――突風!?」




「うぁあああああ!?」




 一陣の強い風。


 PTメンバーの一人がその風に攫われる。




「なんだぁああ?」




「新クラスかっ!?」




 風、いや、上半身は緑色の筋肉達磨の坊主頭。


下半身は風のように雲が渦巻いている。




「――」




 緑の筋肉達磨はPTに向きかえり、その無駄に白い歯をキラリと見せ笑った。 それはもういい笑顔である。




「っ直政ぁあああーー!」




「今助けに行くぞぉおおお」




 ダンジョン攻略どころではない。


仲間のピンチを救うためそのPTは緑の筋肉達磨と追いかけっこを始めるのだった。




 


 シャビル・四階層。


三階層側の階段近くにて。




「同時に行こう」




「遠距離も補助も全員で一気に突っ込む、その後左右に散開して囲みこめ」




『牙の傭兵団』とその他のギルドが合流、簡単に作戦を伝えていた。




「ハイド?」




「感知系誰も持ってなかったのか?」




 感知スキルではなくとも、装備のオプやエンチャントなどでも確保できる。 三百人もいれば持っていて不思議ではない。




「持ってたにきまってるだろ? それでも見えねぇんだよ!」




「うーん、気配も全く分からなかったね」




 気配。 第六感的なものではなく、空間的な揺らめきのシステム、それに足音や呼吸音に服ずれの音もするのだ。 戦闘中ということを加味しても、まったく感じることができなかったと後方部隊のメンバーは言う。




 言い争いをしていてもダンジョンは攻略できない。


ダンジョン戦の時間は後四十分を切っている。


 最上階への階段。 盾持ちを先頭に列をなす攻め側のプレイヤーたち。




「【魔法少女】は最優先で潰そう。 あれを自由にさせたら、人数差なんてひっくり返るぞ」




 それだけ言い終えると、彼らは元旦の福袋戦争の如く突撃敢行した。


 放たれる無数のスキルにひたすら耐え、散開。


 遺跡型フィールドの中央広場に座するガーディアン。


それを倒せばダンジョン攻略は完了だが、かなりの耐久力と戦闘力をゆうしている。 しかし、三百人もいれば十分ほど時間で削り切れるだろう。




「マナクリスタルはどこだ?」




「見つからない!」




 防衛側のマナクリスタルから潰すのがセオリー。 しかし、見つからない。


変わりに大きなタマゴが揺れているのだが、彼らの視界には映っても理解には至らない。




「ハイド野郎はどこだっ!?」




 後方からの奇襲を警戒し固まる後方部隊に、燃え盛る隕石が落ちる。




「メテオ!」




「クリムゾン・スラッシュ!」




 高火力。


アルマと鳳凰院一華の強烈な一撃が、戦場から脱落者を大量に排出する。 




「ビームっ!?」




「んっ……!」




「ぐえっ」




 レフィーは殴る。


手に持つ小さなハンマーで。


相手の攻撃を受け止める盾から、ビームがお返しとばかりに放たれる。




 戦況は一進一退。


そして、徐々に防衛側が押し始める。




「くそっ、増援はどうした!?」




 階段を上がってくる気配のない増援。


 一階層から走るのだ、それなりに時間は掛かるが一向に来ないというのはどういうことなのか。




 緑の筋肉達磨がみんな攫っている。


いや、そんなことは無い。 みんな急に現れては消える謎の相手にやられているのだろう。








 シャビル・三階層。


重装備の男たちが走っていた。


速度アップのバフにより、重装備の遅さを感じさせない走りだ。




 ナイト1、スレイヤー2、レンジャー1、プリースト1とバランスのよいPT。




「クソっ! このまま落とせなきゃ赤っ恥もいいとこだ……!」




「リンクスさん……」




 遺跡の迷路を進む。


迷路と言ってもマップを見ながら進めば迷う心配はない。




「ぎっ――」




「?」




 角を曲がった時だ。 リンクスと呼ばれたナイトは変な声に振り返った。




「あ? プリはどうした?」




「え? ……迷ったんすかね?」




 そんなはずはない。




「……構えろ!」


 


「え、えっ?」




「ぎゃああ!?」




 レンジャーが襲われた。


襲う瞬間、確かに見えた。




「ハイド野郎!」




 最上階で背後から襲ってきた汚ねぇ野郎だ! とリンクスは憤慨し身構える。




「気をつけろっ。 襲ってくるぞ!!」




「っ!」




 見えない敵。


その恐怖から彼らは動けず、ただひたすらに剣と盾を構える。




「はぁっ……はぁっ……ふぅっ……」




 まだ来ない。




「うああああああ!!」




 長い金髪を束ねる男ががむしゃらに剣を振るう。




「やめろ……」




「うあああああああっ!!」




「やめろって言ってんだろ!?」




 姿を現さない敵を待ち続ける。






◇◆◇






「ふっ!」




「ヒギッ!?」




 またつまらぬものを突いてしまった。


 


 最上階へと向かう敵プレイヤーをハイドでストーキング。


PTの場合は角を曲がるたび、一人ずつ体力の低そうな奴からバックスタブで仕留める。


 HPの多いめんどくさそうなのは放置。 勝手に疑心暗鬼で移動が遅くなるから、時間稼ぎにはなっていると思う。




ピロロン。




「おっ、終わり」




 メッセージはダンジョン戦の終わりを告げるものだった。


結果は無事に防衛成功。 ダンジョン・シャビルは【暁の月】の所有のままだ。 




 特別な報酬があるわけではないダンジョン戦。


けれど、結果は特別だろう。




「五千人対二十人とかなぁ」




 勝ってしまったことでさらに悪目立ちしそう。




ピロロン。




++++++++++++++++++++++++++


 


 お疲れ様!


 ライブ映像見るから


 温泉集合だよ〜〜♪




+++++++++++++++++++++++++




 アルマからだ。




「温泉でライブ鑑賞……急げ!!」




 俺は知らなかった。


この後に撮影した新クラスとシトリ公開の為のライブ映像のせいで、大量の男性プレイヤーから命を狙われることになることを……。






◇◆◇






――――――――――――――――――




コルルオンライン掲示板


>雑談版


>>【エッグマン】ノリオスレ part1【刺すべし】




――――――――――――――――――




546:ゲジゲジ




 ラサースで見かけた


 


547:トマホーク




 あんなとこで?




548:ゲジゲジ




 巨乳神官と仲良く喋ってたけど




549:元旦駆




 あのクソ野郎


 次は巨乳神官だとっ!?




550:魔弾の王・オカン




 ノリオって誰?




551:ゲジゲジ




 最近、知名度急上昇している新規プレイヤーで


 いきなり新コルルゲットにクラスチェンジを果たす大物ルーキー




552:魔弾の王・オカン




 そうなんだ




553:元旦駆




 それだけじゃねぇえええ


 あの野郎が、あのクソ野郎がぁあああ




554:魔弾の王・オカン




 >>553


 え? なに、どうしたのさ??




555:ゲジゲジ




 新コルルがぶるぶるで


 鉄仮面がぶるんぶるんで


 魔法少女がふにゃふにゃ〜〜ん




556:魔弾の王・オカン




 ?????????




557:ゲジゲジ




 ttp:****************


 このライブ映像のせいでノリオ狩りが始まった




558:トマホーク




 いや、俺はただ戦ってみたかったんだが




559:ちっぷ




 ハイドされたら見つけられないけどな




660:ワンダ




 クラスチェンジ出来た


 これで新フィールドも戦えるかな




661:魔弾の王・オカン




 なるほど


 モテモテなノリオ君にみんな嫉妬してるのか?




662:ゲジゲジ




 いや、ちがう


 まるでコルルを子犬のように使って


 おこぼれ貰っているノリオに殺意が沸いているだけだ!




663:魔弾の王・オカン




 えぇ?


 でもノリオ君顔が可愛いから


 別にコルルがいなくても……




664:ワンダ




 >>663


 それ以上は言っちゃダメだよ


 可哀そうだから




665:ぱらっち




 >>664


 酷い!!




666:ゲジゲジ




 世界がはやく滅びますように!!






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コルルオンライン――廃人様に連れられて、タマゴとふるふる狩りざんまい―― 大舞 神 @oomaigod

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