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ハヤシダノリカズ

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「だから、思い出づくりだって」ユージはやっぱり少しはにかんだような笑顔でオレに言う。「免許も車もちょっとした金もある。二十五歳って、いろんな事して遊ばなきゃ、嘘だろ?」重い腰を中々上げようとしないオレに向かってユージは立て続けにそう言った。

「まぁ、そうかも知れないけどさ。ユージって、昔っから『思い出づくり』を言ってオレを誘ってくるよな」

「えー?そうだったか?そんなに言ってる?『思い出づくり』って」

「自覚なかったのかよ。オマエは大抵『思い出づくり』って言ってオレを誘ってくる」

「でも、いっぱい出来ただろ?思い出」

「まー、そうだけどよ。オマエに誘われて出向いた数々のオレの思い出ファイルのヘッダーには必ずオマエの『思い出づくりだぜ、カイト。一緒に行こうぜ!』ってな誘い文句と笑顔がデフォルトで付く仕様になってるのは、なんというか、いかんともしがたい」

「そう言うなよ!楽しい思い出も多いだろ?」屈託のない笑顔でそう言うユージには敵わない。小学校からの腐れ縁で付き合いも長く、馬も合う。オレもユージと過ごす時間は楽しいと思っているし、ユージのおかげで確かに楽しい思い出も沢山出来た。ユージには感謝している。

「ま、そうだな。確かにな。じゃ、行こうか、来週。二人で海へ」

「そうこなくっちゃ!……、あ、今『確かにな』って言ったよな。オレのおかげで楽しい思い出がいっぱい出来たってんなら、感謝してくれたっていいんだぜ。ほら、言ってみな、『ありがとう、ユージ様』って」

「バーカ。誰が言うか」


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「なんて言うか、いいコンビだよね、ユージ君とカイト君って。お調子者のユージ君と、どっしり構えてるカイト君。それに二人ともイケメンだし」

「そんなそんなー。イケメンだなんてほめ過ぎだよー。……って、もっと言ってくれてもいいだぜ?」

 ビキニの水着を着たマーコとユージがじゃれ合っている。出会ってから十分と経たずにこんな風に親しく話せる二人が別種の生物に見えてくる。ユージは確かに小学生の時からだったけど。

「カイト君は、ナンパってよくするの?」マーコとユージが大声で話しているその傍らで体育座りをしていたオレに千夏が声をかけてきた。千夏はマーコとは対照的な地味なワンピース水着で、大きな麦わら帽を被っている。「まさか。女子と何を喋ればいいのかなんて、オレには分からんからな」そう答えたオレに、千夏は「良かった」と言って満面の笑みを見せてくれた。


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「そっか」ユージはただそう言った。


 炎の中で灰になっていく千夏の笑顔をオレは無言で見つめていた。写真って、こんなにも早く燃えてしまうんだな。

「結婚前のケジメとして、やらなくちゃならないんだ。ユージ、付き合ってくれ」と言ったオレに、なんの躊躇もなくついてきてくれた今日のユージは言葉少なだ。「私も過去の思い出は全て捨てるから、あなたも過去の思い出は全て捨ててしまって」婚約者である咲子のその言葉に、『そういうものか』と同意したオレはパソコンやスマホ内にあった千夏のデータは全て消去した。でも、手紙や現像した写真なんかはゴミとして捨てる気にはなれなかった。だから、ユージに電話したんだ。

「二十八にもなって、何してんだろな、オレ」そう言いながら、オレは人通りの少ない河川敷の石畳の上に千夏の思い出を山にして、ライターで火をつけた。そして「本当に好きだったんだよ、オレ。千夏のこと」そう言ったオレに、「そっか」とユージはただそう言ったんだ。


 鼻をすする音が聞こえる。燃え尽きようとしている灰の山から視線を上げるとユージが泣いている。街灯は遠く薄暗いが、ユージの頬に涙の筋が見える。

「泣いてくれているのか」思わずオレはそう言った。「バカ、そんなんじゃねーよ」ユージは鼻声で否定する。「そうか。すまん」いや、そうじゃないだろ、オレ。ちゃんと言え。親友のユージに、今日はちゃんと、言うんだ。

「ありがとうな、ユージ。……いつだったか、ユージの殺し文句である『思い出づくり』について話した事があった。その時にオマエは『オレのおかげで楽しい思い出がいっぱい出来たってんなら、感謝してくれたっていいんだぜ』なんてな事を言って、オレは『誰が言うか』なんて返したけどさ。本当に感謝してるんだ。オマエのおかげで沢山の思い出が出来た。千夏と出会えた。千夏との沢山の思い出が出来た。ほんどうに、ありがどう」そう言いながらオレはボロボロと涙を流した。情けない。声も幼児が泣く時の様にボロボロだ。


「思い出はさ」ユージがやっぱり涙声で声を張る。「思い出ってのはさ、心の中の思い出ってのはさ。誰にも奪う事は出来ないんだよ。だがら!たとえ写真を燃やしても!心の中に持ち続けるのは、ぞれでいいんだよ」


 オレの大切な思い出の始まりには大抵ユージがいる。


 親友だなんて、照れくさくって言えやしないけど。


 とても、とても、ありがたい。

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