第7話 <愛すべき彼女>そして
ねぇ、あなた知ってる?
私達が、会社でなんて呼ばれているか。
冷温カップル
ですって。
全く、よく考えるわよねぇ、みんな。
というか。
いつの間に知られたのかしら?
あなたと私の関係。
・・・・あなたを見ていれば、皆に知られるのは時間の問題とは思っていたけれど。
本当にあなたは、なんと言うか・・・・まぁ、いいわ。
隠すようなことでもないし。
でも、
冷温カップル
って、どうなの?
私は冷泉だし、あなたは温井だから、頭文字を取っただけとも言えるけど。
頭文字だと言うならば、
透明カップル
の方が、まだいいわよね。
私は透子で、あなたは明なんだから。
私達って、とてもクリアな関係なんだし。
残念ながら・・・・誰も呼んでくれてはいないようだけれど。
でも。
冷温カップルって、ね。
どうやら、冷たい私と温かいあなた、の意味もあるらしいのよね。名前を抜きにしても。
で、ね。
温かくて優しいあなたが、冷たくて怖い私に無理矢理付き合わされてるんじゃないかっていう、噂もあって。
ほんと、失礼しちゃうわ。
そう思わない?
冷たいのはこの際認めるとしてもよ?怖いって何よ?
私、怖い?怖くないわよねぇ?
それに、無理やり付き合わせるなんて、今時どんだけセクハラなのよ?そんなこと、私がするわけないじゃない。
それに最初は、初対面のあなたがいきなり私に抱きついてきたのにねぇ?
えっ?
最初は私からの逆ナンだった?
あなたは酔っ払って倒れそうだった私を、ただ抱き止めただけっ?!
・・・・言われてみれば、確かにそんな気も。
でもそれはほら、私酔ってたから・・・・ああもう、忘れてよそれは・・・・
えぇっ?!
ヤダ?!
それも大事な出会い、だから?
ほんと。
変わってるわね、あなたって。
でも。
そんなあなたが、大好きよ。
私実はあの日、あなたと出会った日、付き合ってた年下の彼に振られて、自棄酒飲んでたのよ。だからいつもよりも余計に、酔ってたの。
え?
いつも変わらないって?
うるさいわね、少し黙ってて。
あの日は、本当に最低の日だって、思ってたわ。
人生最悪の日。
結婚まで意識した彼に、あんなにもこっ酷く振られるなんて。
人格変わりすぎて気持ち悪いって、言われたのよ。
シラフの私と酔った私の差が、あまりに激しすぎるって。
ショックだった、本当に。
それも含めて私を受け入れてくれてるんだって、思ってたから。
だからね、浴びるほど飲んで、飲んで、飲み続けて。
もう私は、男なんて要らないって。
そう、決めたのに。
まさかそんな日に、あなたと出会うなんて。
人生って、本当にわからないものね。
私を振ったあの彼に、今では感謝したいくらい。
お陰であなたに、出会えたのだから。
ねぇ、分かってる?
私を怒らせたら、怖いのよ?
会社でさんざん見てるから知ってる、って?
・・・・甘いわね、あんなの怒ってる内に入らないわ。
いいこと?
私は、冷凍庫と呼ばれている女よ?
・・・・浮気なんてしたら、一瞬で身も心も凍らせてやるから、覚悟しておきなさい。
えっ?
私の方が、浮気をしそう?
何を冗談を・・・・
心配?
何が?
私が酔っ払ってまた、誰かをナンパするんじゃないかって?
・・・・あなたいったい、私をなんだと思っているの?
あなたがいるのに、そんなことをする訳、ないじゃないの!失礼ね、本当に。
それにね。
私、決めたの。
あなたの居ないところで、お酒を飲むのはやめようって。
あなたがいないと、つまらないし。
安心して、飲めないじゃない?
ん?
そうよ?
だってあなたは、酔っ払った私の、介抱役だから。
分かってる、って?
ふふっ、良い心がけね。
って。
まさかそのために、お酒控えてたりは、してないわよね?
ダメよ?
一緒に、飲みたいから。
あなたと、一緒に。
だから・・・・ね?
シラフの時も酔った時も。
共に過ごし、互いに想い合い、支えあって・・・・
って。
これじゃまるで、結婚の宣誓みたい、ね。
え?
宣誓の言葉はこれがいい?!
イヤよっ!私、こんな宣誓するのっ!
まるで私が飲兵衛みたいじゃないの。
みたい、じゃなくて飲兵衛でしょ?って…もうっ!
ん?
もしかして今私、プロポーズされた・・・・?
ダメよ、こんなどさくさ紛れのプロポーズなんて。
私は、認めません。
冷たい?
そうよ、私は『冷凍庫』ですから。冷たくて当然でしょ。
でも。
あなたはそんな私を好きになってくれたのよね?
冷たくて、飲兵衛で、シラフと酔った時が別人のようになる私を。
ほんと、おかしな人。
ふふっ。
ありがとう、温井くん。
ねぇ、知ってた?
私はね。
そんなおかしなあなたが、本当に大好きなのよ。
チュッ☆
まったく、どうかしてるわね。
あなたも、私も。
【完】
シラフはクールな冷凍庫、飲めば可愛い酔っぱらい 平 遊 @taira_yuu
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