第23話 隊長会議
最後の一人が部屋に入り、残っている席に着いたところで声がかかった。
「全員揃ったな。では全部隊合同隊長会議を始める」
各部隊の隊長、副隊長が一堂に会する定例会議。
その部屋の空気は重々しく、張り詰めていた。
(これが…各部隊の隊長達。妖怪たちとの戦いで最前線を張り続けている人間の最強の人達。一般人から見れば妖怪と大差ないのではないだろうか)
防衛隊の本部に入ったばかり新人は重圧に押しつぶされそうになりながら内心そう思っていた。
本来、相当な規模の戦争が起こりでもしない限り集まることのない隊長、副隊長。
第一部隊「鬼神」隊長:天原凍夜
第二部隊「陽炎」隊長:赤星宗介
第三部隊「閃光」隊長:三雲光
第四部隊「飛龍」隊長:桐生吉影
第五部隊「闇狩」隊長:轟蒼也
ある意味でこれは異常なことなのかもしれない。
「さて、今回の異例の招集を行ったのは他でもない妖怪達の進行が徐々に大規模、激化していることについてだ。その情報についてまずは情報部隊の「陽炎」から説明、先日攻撃を受けた第一部隊より説明を行ってもらおうか」
その合図を聞き、陽炎の副隊長が立ち上がった。
「ここ最近の妖怪達の動きからわかるように現在妖怪達は戦線の拡大、激化を進めているようでそれに伴い戦力も増強されていることが確認されています。また隊長級と呼べる戦力が存在しており、数は不明ですが各部隊に一体以上はいると予想されています。ここまでが第一部隊襲撃前までの話になります。第一部隊襲撃後、妖怪達から大きく攻め込んでくる動きが一気になくなりました。がそれに伴い中央に大規模な行軍を行うための物資を運び込んでいる様子が確認されています。今後一気に動き始めると予想されるのでそれまでに対策を各部隊で行うべきです。以上が第三部隊の集めた情報になります」
「では次に第一部隊の報告を」
「は、」
そう言い、第一部隊の副隊長が立ち上がり説明を始めた。
「先日の襲撃にて第一部隊に人的被害はありませんでした。が襲撃してきた時期、都合、などがどうもこちらに詳しすぎた。半数以上の小隊長、そして隊長、副隊長が不在の時を狙い、現れた。偶然とは言えません。」
そこまでの説明を聞き声を上げたのは第二部隊の隊長だ。
「それはこの防衛隊の中に裏切り者がいると予想しているのか?だとしたらそれを想定するのは早すぎるんじゃないのか」
各部隊の中でも特に安定した強さを持つ第二部隊。
その安定した強さは互いを信頼することに重きを置いているからだ。
彼から出たのはそれ故のものだった。
「宗介。お前の意見ももっともだが我々は常に最悪を想定しなければならない。最悪が起きてからでは遅いんだ」
「お前がそう結論づけているのならばそれ相応の事実があるのだろう。第一部隊はどこまで調べがついてるんだ」
そこで凍夜の口が一瞬言い淀んだ。
「我々が調べた限りでは第一部隊の小隊長の中に妖怪との内通者がいると予想されている」
その場にいる者達の反応はそれぞれだった。
小隊長級に内通者がいることの驚く者。
予想していたのか納得している者。
答えを聞き、思考を巡らせる者。
そんな中一人の男が声を上げた。
「凍夜、お前は内通者をどうするつもりだ」
第四部隊の隊長である桐生吉影だった。
「俺としてはこのまま泳がせ、情報を集めるつもりだ」
「手遅れになるぞ。現状のままにすれば必ず妖怪共はお前の想定を超えてくるぞ」
「そのために我々は蓄え続けている。想定を超えたとき対処するために」
そこまで聞いた吉影の足元が砕けた。
そして凍夜の目の前に拳があった。
だが凍夜と拳の間には一本の糸が置かれていた。
「やめておけ。ここは話し合いの場だ」
「ちっ。もういいだろう。するべきことは一つしかないんだ。妖怪共を殲滅する」
そう言い残して吉影は部屋を退出した。
それに続くように副隊長も一礼をして出ていこうとした。
「すまないな、これからそれぞれに部隊を連動して任務を進めていくつもりだ。彼を動かすことお願いする」
凍夜は出いてく副隊長にそう言った。
「心の底にあるのは平和を願う想いです。すれ違いがあれど最後には必ず一つなってくれると信じています」
隊長への願いと期待を込めた微笑みを見せ副隊長は部屋を出ていった。
「小さな乱れ、されど大きな亀裂を生みかねない。まして今の状況ならば。ここは一つ部隊間合同訓練でも開いてみるのはどうかな」
そんなとんでもない提案を飛ばしてきたのは防衛隊を統括している本部長だった。
「本部長、その考えは良いですが下手に部隊を動かすのは危険ではないのですか」
「嵐が動き始めるとき、予兆は必ずある。今も予兆はあれどそれはまだ嵐の風ではない。嵐から逃げる前にできることをしていこう」
「「はっ」」
繋ぐ運命を 白い扉 @tokibuta325
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