第22話 これからの未来
過去を知り、繋がり、未来への覚悟を託された二人は別々に屋敷を出ていた。
それぞれにやるべきことを行うために合流するのはその後の基地でのことだった。
鬼人と美琴が去った屋敷に残された二人は桜の木の前で静かに盃を交わしていた。
「これから数十年程度か。大きな争乱を迎えることになるだろうな。全ての最後となる戦としてどんな結果であろうと後世に残る戦であろうな」
双がそう語りかけるように目の前にある数十もの盃に言った。
「これだけ多くの者達が繋ぎ続けてきた思い。それを最後の希望へと託すことが出来たのだから儂らはそれで十分役目を果たせたと言えるだろう。後は見守っていよう」
自分達の時代は終わり、次の時代へと変わっていき、もう自分達に出来ることはないとそう言いたげに八相はゆっくりと盃を空にしていた。
彼、彼女らは自分達の強き思いを守り続けた。
時代を超え、繋げ続けた。
そして次の時代に過去を知らせた。
そして次の時代を作る者たちにそのための力を渡した。
もう、ここにいる者達に出来ることはなかった。否、この者達がするべきことは全て次の世代へと渡されていた。
「二人はこの先で幸せになることは出来るのだろうか」
争乱の世で体が滅びながらもその思いを次へと繋ぐため戦い続けていた二人、そんな二人が幸せになること。それもまた関わってきた者達にとっての願いであった。
「それはこの時代では難しいのかもしれない。が、きっとその先の時代で笑っていることだろう」
八相がそう言い、双も静かに「そうだな」と、一言を溢して、盃を飲んでいた。
そこでは一人が妖怪を上座のような場所に座っており、その前に十数名もの側近達が深妙な面持ち話をしていた。
「なぜあんなにも早く奴らは戻ってきたのだ。あの時、奴らは中央に出ていたはずだ。他にも特異なことが多すぎる。一体どうなっている」
上座に座っている者、それは鬼陰連。第一部隊基地襲撃時、鬼人と対峙していた者だ。
「奴から聞いていた情報では一週間程度は戻ってこないものだと予想されていましたが。おそらくはあちらの部隊の一つに隠密や情報に精通する部隊があるとか。あれだけ大規模な動きだったので読まれていたのかもしれません」
あの時戻ってきたのはほんの十名にも満たない数だったがそれでも戻ってきたのは隊でも指折りの人間達だった。
父から妖怪の長の座を継ぎ、人間どもを滅ぼすために色々なことをしてきたがここ数年は偶然が重なりすぎている。
初めの気がかりは基地襲撃の時だった。
あの村から凶兆の気配を感じ、皆殺しにしたはいいがまさかその凶兆となる人間が生き残っていた。
そしてその者が鬼の力を有していた。
他にも人間達の里から神の気配や自分と同じ鬼の妖怪などの様々な気配。
そしてあんなにも増援が早く到着したことも不自然に感じた。
まるで何者かによってこの時を待っていたかのように一気に事態が予想しえない方向へと進んでいる。
前数十年にはなかったことだ。
「長よ。これは人間達の総本山とも呼べる防衛基地本部をそうそうに落としてしまうのがよろしいのではないでしょうか」
そう進言してくる一人の側近。
連も初めはそうしようかと考えたがそれは焦り過ぎではないのかと感じ、監視に止め、いつでも動けるように戦力を整えておくことにした。
「いや、今は戦力を蓄えておくべきだろう。中途半端な戦力で返り討ちにあっても仕方がない。それよりも監視をそれぞれ強化し、情報を集めることに尽力しろ」
連の言葉を聞いた側近たちは一斉に「「はは」」と言い、部屋を出ていった。
部屋に一人となった連はこれからに思考を巡らせていた。
(遅くとも五年、早ければ二年人間達の戦力強化を考えてもこの辺りか。それよりもあの霊陰鬼人。あやつには何か我々にとって嫌なものになる予感を感じるな。あの力もそうだ。これは私が直々に動くべきか)
これからのことを考えながら静かに連は部屋を出ていった。
「混、先日の襲撃どうみる」
「基地での物に関する被害情報は上がってないし、おそらくは戦力を削ぐことが目的だったと考えるのが自然かな」
「考えすぎか」
凍夜は襲撃に関して過剰な警戒を示していた。
それも当然のことだろう。
ここ数十年はあっても十数人規模で小隊同士の小競り合いのようなものしかなかった。
だが突然百人規模のしかも防衛拠点の襲撃だ。
警戒しすぎるのも当然のこと言えるだろう。
そしてこの事件は防衛隊の中でも重要視され、今まであまり気にされていなかった地方の方にまで警戒が及ぶようになっていた。
「まあその話もこの後あるんじゃないか」
「そうだな」
二人は話しながら一つの部屋に入っていった。
今までにない互いに動きの変わり方に警戒を強め、互いに戦力と情報を集めることに力を注いだ。
そしてその時は皆の気づかぬうちにゆっくりと確実に近づいていた。
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