第23話 繋がる軌跡

 光達が明けていく夜空へと吸い込まれていくのと同時に俺の意識も共に夢の世界へと消えていた。

 

 気がつけばそこは一つの屋敷の大広間だった。

 そして俺の正面には座布団が二つ、机を挟んで置かれていた。机の上には湯呑にお茶と金平糖が置かれていた。

 俺が戸惑っていると部屋に一人の男が入って行きた。

 その男が只者ではないことは一目でわかった。

 ただ同時にその男が敵でないことも何故か理解していた。

 心の中には

「あんたは一体何者なんだ」

 俺が問いかけるとその男は

「俺の名前なんかどうでもいい。俺はただ鬼人君、君に伝えたいことがあってきた」

 そう答えて座り、俺に座るように催促してきた。

 目の前の男は一口お茶を飲んで、一息ついて話し始めた。

「簡潔に伝えておこう。君は生まれ変わった私だ」

 初めの一言。それはあまりにも衝撃的な一言だった。

「は、どういうことだ。今あんたは俺の目の前に存在してるじゃないか」

「そう、本来なら同じ魂は同じ時間、空間には存在できない。私は君を形作る最後の一欠片なんだ。ただ君がこの力を受け入れるに足る状態になるまで待っていたんだ」

「心が闇に飲み込まれた時、その力が暴走しないようにするためか」

「よくわかっているね。君が全てを受け入れ、闇に立ち向かう心が出来上がった時、君の魂は完成し、力を手に入れる。そして私は消えることになる」

「あんたが過去の自分なのはよくわかった。だがどうしてそこまで用意周到な準備をしているんだ。あんたは一体何者なんだ」

 俺の質問が予想外だったのか目の前の男は目を見開いた様子だったが、すぐに微笑んだ。

「君は僕が思っている以上の成長をしてくれたんだな」

「戦争が始まったときのことはある妖怪から聞かされた。だから今、自分にとって何が敵で何が守るべき者なのかはわかっている。そして背負うべき思いも。だから聞かせてくれ。あんたの辿ってきた道を」

 俺の言葉を聞いた彼は首を振った。

「それは私の役目じゃあない。私の役目はもう終わった」

 予想外の答えに驚いた。目の前の男は言葉を続けた。

「後は君たちが生きてさえいれば運命が導いてくれる」

 その言葉に俺はそれ以上言葉を出すことができなかった。

「本来は私達が背負うべきだった思いを君たちに背負わせることになってしまって申し訳ない。後は頼んだよ。私であり、子孫でもある霊陰鬼人君」

 そう言葉を残して彼は俺の中へと吸い込まれていった。

 それと同時に俺の意識も現実へと戻されていった。



 彼が鬼人に吸い込まれると同時に、美琴の中にも力が流れ込んできた。

 それと同時に美琴の目の前にいた霊亜の姿が薄くなり始めた。

「これは」

 美琴が霊亜に聞こうとしたとき、霊亜は涙を流し始めた。

「そうですか。ようやく時が来たのですね。美琴さん、突然で戸惑うかもしれませんが時が来たようです。別々の軌跡が繋がり、新たな可能性への始まりが」

「約束の時が来たか。ここまで繋いできた君たちの全てが次へと繋がれる。ここまでありがとう」

 後ろに座って今まで全く喋らなかった男が喋りだし、そして美琴に話しかけてきた。

「君たちは過去を知った。今まで繋がれてきたものを託された。先人たちが作り上げた軌跡がたった今繋がり完成した。ここから先の道を作り上げてくのは過去を知り、託された天原美琴、そして霊陰鬼人、君たちだ。今答えはいらない。ただ必要なのは覚悟だけだ」

 今、言葉はいらない。ただ強く頷き、覚悟を見せる美琴だった。

 美琴の姿を見た霊亜は静かに微笑み、消えていった。最後に一言

「私達の過去を背負わせること申し訳ありません。本当ならもっと幸せな人生にしてあげたかったですが。ですがあなたならきっと困難を超えて、幸せを作り上げてくれると信じています。本当にありがとうございました」 

 そう言って彼女は光となって空へと消えていった。

「ようやく昇ってくれたか」

「そうだな」

 残された二人は使っていた湯呑を上へと掲げていた。

 

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