第21話 紡がれる思い

「あの蔵に置かれている数々の品は三百年ほど前から置かれているものがいくつかあります。私が目覚めてから戦争を終わらせようと戦った仲間たちの遺品です。しかしあそこにあるのは物だけではありません。多くの夢半ばで散った者達の思いも多く残っています」

 そう言って彼女は一つの小刀を取り出した。

 小刀は黒色に金色で龍のような模様とその反対に鳥のような模様が彫られていた。

 だが美琴が感じ取ったのは小刀にこびり付くようにある残滓のような黒いモヤだった。

「これは一体どういう物なんですか」

 美琴はそう聞くと彼女は

「これはある人間の方が神をその身に宿す巫女に作った神器とも呼ぶべき物です」

 と、そう答えた。

 それと同時にこうも言った。

「今あなたの目にもこれに黒いモヤがあるのが見えているのでしょう」

 その言葉に美琴は静かに霊亜を見つめ返し

「どう見ても異質過ぎます。まるで呪いが込められているかのように感じます」

 その美琴の答えに対して霊亜は

「流石はこの時代の巫女となった方ですね」

 一言ポツリと零した。

 それを聞いた美琴は「どういうことだ」と言うふうな顔をしていた。

「あなたに直接関わるのはこの小刀だけですがこれは戦争を大きく分ける物です。だからこそ話さねばなりません。私が見てきたこの世界について」

 そう言うと霊亜は語り始めた。



 この世界は妖怪も人間も同じだった。

 考え方も、生き方も、社会のあり方も、互いを憎んでいるということも。

 ただ一つ違ったのは妖怪達には未来が残されていなかったことだ。

 もう千年もしないうちに妖怪全てが滅びに向かうだろうと言われていた。

 これはまるで呪いの如く妖怪たちを蝕んでいた。

 その原因は一人の死んだ男だった。

 人間でありながら妖怪の力をその身に宿す男は死後、その思いを呪いとして妖怪を滅ぼす形で戦争を終わらせようとしていた。

 だがその思いは次第に暴走していった。

 始めは自分とその恋人や周囲の大切な人達に危害を加えた者達だけですんでいたが次第に無関係な者達を巻き込んでいた。

 そしてその呪いの炎は次第に人間たちをも巻き込んでいた。

 ただ、ただ、その炎は憎悪を撒き散らし、戦争はより一層激しくさせた。

 だが、その思いの中に憎悪に飲まれていなかった光があった。

 その光はあの時の八相との約束を思い出し、自分にも出来ることはないかと闇から離れていった。

 そして数百年を経て、自分と同じ体質を持つ人間を見つけた。

 そして自分の力と一つの武器を希望として消えていった。

 そしてその希望は今、また憎悪に飲まれかけている。

「そして、その希望を救うことが出来るのは過去を知り、憎悪に飲まれていない私達だけなのです。希望を憎悪に飲み込ませないように今まで繋いで来たのですから」

 

 彼女が話してくれたこと、そしてそれを話している時、彼女の周りには妖精が飛ぶかのように光達が飛び回っていた。

 それも一つ二つじゃなかった。

 今、この部屋に見えているだけでも数十と、そして部屋の外を見ればそこには数百、数千と光達がそこにはいた。

「きれい」

 そう一言声を洩らす美琴に霊亜は言った。

「これだけ多くの妖怪や人間が戦争を終わらせるために生き、その願いを次を生きる人達に受け継いでいるのです」

 そう言う霊亜の顔は悲しみ溢れていた。

 後ろの二人もうつむいていた。

 本来犠牲になるはずのなかった人達、そしてこの人達にとってはその犠牲を強いたという罪悪感が心にあるのだろう。

 それでも自分たちが感じ、体験した事をこれからの人達に感じさせず、平和に生きれる世界にするために心に固く、自分の全てをかけて誓っていると美琴にはそう感じられていた。

 だからこそ自分も出来ることをするべきなのだと、強く誓い、そっと目を閉じた。



 目を覚ますとそこは見覚えのない天井の部屋だった。

 美琴と共に蔵の中にいたはずなのに気が付けば和室にいた。

 記憶は精神の中で過去の女性と話したところで途切れている。

 とりあえずこの部屋を出て、どこか確認しようと部屋を出た。

 そして目の前に広がっている光景に息をのんだ。

 数百、数千の光の玉が飛び回っていた。

 辺りはいつの間にか真っ暗な暗闇だった。まるで希望が消えた世界のように。そんな世界に光る希望の光のように飛び回る光達。

 あの女性が言っていた事、が頭をよぎる。

 きっとあの時あの女性は人間も妖怪も同じなのだと、ちょっとした考え方の違いを認めあえていなだけのだと、そう言いたかったのだろう。

 世界を変えようと生きていた彼女を含めた光達、それは次の世代へと継がれ続け、そして今その希望は俺や美琴、今を生きる人間や妖怪にあるのだろう。

 あの時、俺が全てを否定したこと、それは憎悪に囚われ、一面しか見えていなかったことでしかなく、今、この世界を見渡してみれば人間だけの話では無く、妖怪達にも同じことが起きていた。 

 ただ、偶然風が吹き、そのに巻き込まれただけの俺。

 しかし、その風が遠い未来、世界を揺るがす大暴風となる。 

 後の世界でバタフライエフェクトと呼ばれるこの現象と同じようなこの現状はただ一歩横にずれるだけで全く無害なそよ風となる。

 そして今、俺はその狭間に立っていると、そう気づいた時、世界は激変した。 

 そこいた光達ははっきりとした像を形作った。

 武器を手に持つ者、言葉を持つ者、力すら持たない子供、そこには妖怪も人間も関係なくいた。目の前にいる者達に共通することはあまりにも少ない。

 だがひとつだけ共通することがあった。 

 皆、この戦争を終わらせ、共存の世界を作り、同じ世界で楽しく暮らすことが出来る世界を願い、戦った人達であることだ。

 気がつけば目の前にいた光達は消えていた。

 広い庭に一人残された俺は縁側に座り、桜の木を見上げていた。

 

 その時、鬼人は気づいていなかったが桜の木の下には一人の人間が立っていた。

 彼は鬼人を見て、微笑んでいた。

 彼が願い、届かず、未来へと託した思い。

 鬼人に自分の勝手な思いを呪いの如く重荷として載せてしまっていることが彼の思い残すことだった。

 けれど今の鬼人にはそれが重荷ではなく、未来への生きる希望となり、知らずとも繋いでくれていることに感謝をしつつ、その姿は鬼人に気づかれること無く桜の花びらと共に少しずつ明るんでいく夜空へと消えていった。

 


 

 

 

 

 

 

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