第20話 動くもの

 急に鬼人が倒れてどうしようかとオドオドと困っているところに蔵の扉が開き、一人の人物が入ってきた。

 その人物は妖怪だった。

 紅い髪の毛に黒い着物に身を包んだその厳かな姿は鬼たる威厳を見せていた。

 そしてその人は鬼人を見て

「干渉しすぎだ」

 一言私の向こう、置かれている角に向かって言い放った。

「しょうがないでしょう。彼には知っておいてもらわないといけないことなのだから。妖怪が憎むだけの存在ではないことを理解してもらわないと」

 急に喋る光の玉が浮き出てきた。

 そして浮き出てきた光の玉はやがて女性の姿へと像を作っていった。

 美琴が唖然としているところに女性は近づき

「初めまして。天原美琴さん。そして今までこの場所を守ってくれてありがとう」

 女性は微笑みながら美琴にそう告げる。

 美琴は驚きを隠しきれていなかったがなんとか持ち直し

「いえいえ、それよりもあなた方は一体何者何ですか。見てる限りでは二人共妖怪に見えますが」

 美琴の質問に女性が答えた。

「それについても教えたいことが色々あるのですがここでは場所が悪いので移動をしましょうか」

 女性がそう言うと後ろにいた男性が鬼人を担いで連れて行った。

「さあ、美琴さんも行きましょう」

 そう言われとりあえず美琴も二人の後を追って蔵を出た。


 二人についていって着いたのは街でも有名な屋敷だった。

 屋敷の一部屋で待っていてくれと言われ、そこから見える桜の木を眺めて待っていた。

「きれいな桜。だけどまだ桜の時期には早い気がするけど」

 この時期はまだ春と言うには肌寒く、草木はまだ寝ている。

 そんな時期に満開の桜が咲いている。

 それだけでこの場所が他とは全く別の場所であると言うことが十分に伝わってくる。

 そうしてしばらく待っているとさっきの二人ともう一人、人間であろう人物が入ってきた。

「待たせてすまないな。彼は休ませている」

 それを聞いて美琴は少し安堵した様子を見せた。

「他にも気になることがあるのだろう。とりあえず私達の自己紹介からしておこう。まず、私は鬼影双(おにかげそう)という。見た目通りの鬼の妖怪だ」

 鬼の妖怪が自己紹介をした。

「私は鬼頭霊亜(きとうれいあ)。昔の、この戦争の始まりを生きて、戦争を終わらせるためにこの世界に留まり続けている鬼の妖怪です」

 続けてもう一人の女性が自己紹介をしてきた。

 この女性の正体は数百年前の戦争の始まる現場にいた、そして戦争を止めるために魂だけとなった今でも現し世に残り続ける強き妖怪だ。

「儂は今はあまり関係ないから気にしなくていいぞ」

 二人の後ろに座っている人間らしき人はニコニコと微笑みながらそう言ってそれ以上は何も喋らなかった。

「美琴さん、あなたも色々聞きたいことがあるだろうけどひとまず私達の話を聞いてください。この話は戦争が始まってから今まで妖怪と人間の共存を目指し続けた人々の話です。あなたがそれを目指すのなら知っておくべきでしょう」

 そう霊亜さんは言って話を始めた。

 


 

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