第19話 光の信じるもの
意識が闇の中に消えて鬼人は夢を見ていた。
周りには妖怪も人間も関係なしに座っていた。
そして自分はその中心にいて、自分を抱くようにして二人の男女が微笑みながらいた。
女性はきっと妖怪なのだろう。そう思えるほどの妖艶な美しさを持っていた。
そして男性は人間なのだろう。だがその姿は人間らしからぬ美しさを持っていた。
自分がその二人の子供の目を通して見ていることに気が付いたが状況がよくわからない。
すると二人が何かを喋り始めた。
「妖怪と人間の争いが終わり、こうして私達が結婚できて、子宝にも恵まれて良かったですね」
「そうだな、五百年にも続く妖怪と人間の戦争が終わって三十年、世界も随分と変わったな。こうして妖怪である君と人間である私が結婚できたのだからな」
今、自分がいるのはいる場所は戦争が終わって後の、平和になった世界なのか。
そう理解できた時、俺の頭には多くのことが巡った。
美琴が言っていた妖怪でありながら人間との平和を望む者達。
あの時頭を巡った妖怪と人間が同じ生活を送り、一緒に遊び、談笑する姿。
自分があの時夢絵空事だと言い切った世界が自分の目の前には広がっていた。
それでも自分には受け入れることの出来ないものだった。
悩み続けているといつの間にか景色が変わり、四方八方真っ白な空間にいつもの自分の姿で立っていた。
「霊陰鬼人君、君が願うものは今、どこにあるのですか」
急に声をかけられビクッとした。
声の方を向くとそこには一つの光が浮いていた。
そして輝きが強くなったかと思うと一人の女性が立っていた。
あの時狸の妖怪に見せられた過去にいた妖怪の女性。
「今のあなたは多くの過去と思いに囲まれて自分を見失おうとしています。今、自分を見失えば、今以上の苦しみを自分だけでなく周りの多くの人も味わうことになるのです」
「あなたも美琴なぜ奪われていながら奪った相手を思えるんだ。なぜ憎しみを、恨みを持たないんだ。これは戦争なんだ。平和だの共生だのそんな甘い考えは無駄でしかないだろう。勝たなければ何も残らないのだから」
この人も美琴も、それ以外の共存の平和を望む人達はどうしてそんな考え方ができるんだ。今の俺達に全てを救う力はないんだから。
俺が続けてそう言おうとした時
「全てを救うことはこの世界に生きる誰もが出来ません。しかし人間が人間を、妖怪が妖怪を動かし、救うことはできるのです。まだ可能性はわずかにでも残っているのですから。だから、だからどうか私達が作れなかった世界を作ってください」
目の前の女性はまるで経験したかのように俺の心の葛藤の答えを出してきた。
彼彼女らが作ることの出来なかった妖怪と人間の共存の世界。
この戦乱の世でどれだけの人が願っただろう。
きっと共存こそが一番難しい近道なのかもしれない。
「それでも、俺は妖怪と共存を選ぶことは出来ない。俺は戦い、向かってくる妖怪全てを殺し、この戦争を終らせる」
俺の言葉に女性は目を閉じ
「あなたが道を違えぬことだけを願っています」
そう言うと俺の意識は再び闇へと落ちていった。
一人残る彼女はもう自分ではこの戦争を動かすことは出来ないのだと思い至り、一筋の涙を零していた。
それでもこの五百年を見てきてまだ可能性が消えていなのだと感じていた。
あの時、自分達が残した希望は自分が光となり、道を見失っている。
それでもこの時代を生きる人々はその光を道標として向かうでしょう。
そして光はその人々に支えられ、平和な未来へと向かえるだろう。
彼女はその可能性だけを信じて消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます