第18話 繋がれる思い
「これはね、私がある人から言われたものなの。次へと繋ぎ、平和な世界を作り上げて、平和になった時、これらを二度と目に入らない場所に隠してくれと。
平和を願い、夢半ばで命を無くした人たち。今でもその子孫たちが戦い続けている。そしてその人達から言われたんだ。手を取り合おうって」
夢だと、絵空事だと皆が言った。
そしてそれを証明するがごとく挑戦した者はひとり残らず敗れ、命を落とした。
それなのに今尚妖怪と人間が仲良くなる未来を求める者達がいる。
そして
「これを見せたってことは俺にも協力してほしいってことで良いのか」
本来、仲間であろうと妖怪と仲良くするものは処罰の対象となる現在でこれを見せたということは覚悟を決めているに他ならない。
美琴は人間でありながら妖怪と仲良くし、共存の世界を目指す一人なのだ。
「うん、私はずっと信じてる。妖怪も人間も仲良くなれる未来があるって。そして鬼人にはその一人になって欲しい」
美琴の目は真剣でその中には自分の全てを賭けて戦い抜くという熱い、堅い意志が見えた。
俺にはそれが我慢できなかった。
「どうして、どうしてこの世界でまだ妖怪と仲良くなれる未来があると思えるんだ。人間も妖怪も奪い、殺し、争い続けてるんだ。数百年も。その中には今の美琴みたいな考え方をした人達は大勢いただろうけど一度でもそれが成功したか。現状がその答えだろ。妖怪と人間は仲良くなれない。それがこの世界の答えなんだよ」
俺は美琴の考え方に激怒した。
俺の答えに美琴は静かに目を閉じ、背を向けてこう言った。
「私はさ、一度だけすっごい遠くにこの国の最果てとも言えるような場所に一度だけ遠征したことがあったんだ。そしてそこで一人も道に迷って森を彷徨ったことがあったんだ。途中で疲れて怖くて泣き出した時、その人達は来たんだ。その人達は妖怪だった。でもさその人達は私に食べ物をくれた。道案内をして近くの人里まで送ってくれた。今でも覚えてる。温かい心を」
「その時思ったんだ。妖怪と人間何が違うのかなって」
美琴の言葉に俺は思い当たる記憶があった。
頭の中に自分が見たことのない、だけど細部までしっかりと情景される記憶が巡った。
妖怪と人間の親に囲まれて生まれてきた子供。
妖怪も人間も等しい扱いの学校。
妖怪も人間も一緒に遊ぶ子どもたち。
妖怪も人間も一緒にお酒の席で談笑する姿。
そして俺に問いかけるように
「少年が信じるものは世界のごく一部でしかないのだよ。少年は何を信じるか。少年にはまだ選ぶことができるのだから」
そうして俺の意識は闇の中へと消えていった。
急に鬼人が頭を抑え始めたかと思ったらそのまま意識を失い、倒れてしまった。
「鬼人、大丈夫」
美琴が駆け寄って状態を見ると何か問題があるようには見えなかったが明らかに何かにうなされている様子だった。
美琴がどうしようかと迷っていると蔵も扉が開き、一人の人物が入ってきた。
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