第17話 つかの間の休日

 昨夜は結局あの場所で過ごした。

 考え続けていたらいつの間にか寝てしまっていて起きたら夜が明けていた。

 基地に戻るといつも朝早くから活動しているはずの基地が随分と静かだった。

 特段変わったことはなく、いつもどおり活動する人は始めているので何か問題があったわけではなさそうだ。

 とりあえず自分の部屋に戻ろうと歩き始めるとそこへ朝の自主訓練かなにかをちょうど終えた美琴がこちらに向かってきた。

「あ、鬼人昨日からどこに行ってたのってええ、その汚れ方どうしたの」

 美琴に言われて自分の格好を見ると服はボロボロになり、破れ、汚れ、肌も泥だらけでまるで戦い、山奥に逃げ込んで彷徨っていた、そんな恰好をしていた。

「あれ、別にこんなになる程のことはしてないんだけどな」

 と、言いつつも頭の中には一つ思い当たることがあった。

(もしかするとあの狸の妖怪は記憶を見せたのではなく直接体験させたのか)

 想像で考え込んでいると

「あ、もしかして隠れて一人で特訓してたんでしょ。そのくらい別に隠すことないじゃん」

 そう元気そうに声をかけてくる。

 その声に俺は不思議と元気をもらえた。

 とりあえず昨夜あったことは秘密にしておくことにした。

「まあ、少し訓練してたのはそうだけど山の中で寝ちゃったからこんなになったのかな」

「そんなことして、危ないとかより何をしたらそのまま山の中で寝れるのかが気になるわ」

 あきれた目でこちらを見てくる美琴。

「まあまあ、それよりもなんで今日はこんな静かなの」

「ああ、昨日からいなかったのなら聞いてないのかな。今日は基地全体で休養を取れって言われてるの」

「休養って急だな。なんでそんなことを」

「なんでも数日後から全部隊合同の特別訓練をやるんだって。それに向けて休んで準備してってことだって」

 たった一晩、別の世界に行っていただけで重大なことが決まっていたようで驚きが重なる。

「そっか。とりあえず今日は特に訓練とかもないから休むなり自由にしてて良いんだよね」

「うん、そうだね」

「じゃあ俺は部屋に帰って寝るとするか」

 そうして自分の部屋に戻ろうとすると

「何もしないなら少し私のお出かけに付き合ってくれない」

 美琴からそう呼び止められた。



 美琴についていって基地から一山越えた場所にある街に来ていた。

 言われた通りについてきたが何をするかもわからず、美琴も出ている店を見て回るばかりでこれといって目的があるようには見えない。

 服を見て「これかわいい」、武器を見て「これ使いやすそう」、様々な雑貨を見て「部屋に置こうかな」と、ずっと色んなお店を見るだけで俺も返事をするだけだ。

 半日はそうして過ごし、お昼ご飯を食べたところで美琴が

「じゃあ行こっか」

「行くってどこへ」

「着いてからのお楽しみ」

 そう言いながら一人歩いていく美琴に俺はついていくことしかできなかった。

 そうして美琴はある、少し古びた蔵のような建物の中へと入っていった。

 窓などはなく薄暗い。

 よく見ると木箱のようなものが所狭しと積まれている。

 そしてその奥には一段上がり、それだけがきれいに置かれていた。

「これは鬼の角、なのか」

「わかるんだね。鬼人の言うとおりこれは鬼の角だよ」

「なんでそんなものがこんな人里の真ん中にあるんだよ」

 妖怪と人間が分断されて久しいこの時代になぜこんなものが人里にあるのか、そしてそのことをなぜ美琴が知っているのか、聞きたいことは山程ある中、美琴が告げてきた。

 自分が歩んできた道を。

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