第3話
「.........お前は何一つ分かっていない」
「は、なにが...う"ぁ"ッ""!!」
暫くして、あの妖艶な声音がいつもより低く冷たく響いた。短く簡素な筈の言葉に、ゾクリと背筋が凍るみたいだった。
硬直した身体でオレが疑問を投げかけるよりも早く、首筋に歯を突き立てられる。予想外の衝撃とジクジクした痛みに 思わず情けない声を上げてしまうと、それを咎めるようにまた噛まれた。
そのまま舐められて、軽く吸い付かれて、舌先で転がされる。
なんだこれ、なんだ、なんなんだ!!
さっきまで傷心を抱いて、それこそ悲劇のヒロイン気分で去ろうとしてたって言うのに。
オレを狂犬みてェにガブガブ噛んでくるコイツの唐突すぎる行動に、オレの灰色の脳細胞が警報と混乱を知らせる。
それでも何とか抵抗しようと胸を押し返そうとすれば、オレの唇は柔らかなものに塞がれた
「っん、ん~~~!!」
乱暴に顎を掴まれて、荒々しいキスをされる。ドンドンと目の前の胸板をぶん殴っても体格差と力の差で何の意味もなしてない。
せめて舌を入れられるのを拒否しようと唇を固く引き結んでみても、鼻をつままれ、酸素を取り込もうと少し口を開いただけで意図も容易く侵入を許してしまう。
「っ、ふ、…んぅ、つぁ」
「ハッ、まるで発情した犬だな」
タラリと顎を伝う涎が、首筋に一筋の線を引く。
瞳を潤ませ、ガクガクと足腰を震わせるオレをコイツが鼻で笑う。
誰のせいだと!そう悪態をつきたくても、思考も口内も乱されまくったせいで呂律が回らない。
クソが、何でこんなにキスが上手いんだこの野郎。
経験の差なのか、それともただ単にオレが弱すぎるのか。どちらにせよムカつくことに変わりはない。
「今更他の男で満足出来るのか?無理だろうな、私に調教されたお前の身体では」
美しさが罪となる世界であれば、確実に〝美刑”の判決を下されていただろう程に艶美な微笑みと共に告げられる。屈辱的で、羞恥心を煽られるその言葉に カァッと顔中に熱が灯す。
そもそもオレ何でこんなことになってるんだ。さっきまで別れる気まんまんだったのに、合鍵を叩き付けて家を出てこうとかも思ってたのに!
つーか、まだ何も言われてねェ!!
そうだよ、誤魔化されて流されるところだったけどまだあの浮気の数々に関して何も言われてないじゃんか。
このまま絆されてなあなあになるのだけは絶ッッッ対に避けないと、気をしっかり持つんだ。
お前は灰色の脳細胞を持つカッケェ名探偵だろ。
「ちょ、ス、Stay!!!」
一瞬の隙を突いて慌ててストップをかければ、今回の加害者は分かりやすく渋るような表情をしたものの、顔は近いものの!止まってくれた。
オレを包むガッシリとした手は退かしてくれないから逃げれたりはしないけど、取り敢えず一呼吸置くことが出来たので目の前の肩をガシッと掴む。
「結局アレは何だったんだよ!!」
吐くまで離さないぞと言わんばかりに、肩に置いた手に全身の力を込める。いやまあ、オレの全力なんてたかが知れてるし、ほどこうと思えばすぐにほどかれてしまうし、なんなら俺自身抱え込まれているし、けれど。それでもオレの意志は強く堅固なんだぞと示すように睨みつければ、その鋭かった瞳がスッと細められた。
「そうだな、アレは…うん。まあこうすれば心配は無くなるだろ」
「ハァ?何が」
オレが何も理解しちゃいないうちに、テーブルに置かれたコイツ自身のスマホを手に取り、そのまま手でカウントダウンを始める。
一、二、三
ガシャン!!
核心をつかない言葉に噛みつこうとしたきっかり三秒後、オレの真横の壁にそのスマホがそのままが叩きつけられた。
「これで良いだろうか」
「…は、え、なにして、?」
勢いよく壁に叩きつけられて最早原型を留めていないひしゃげまくった携帯と、何故か満足気な表情の目の前のコイツを交互に見やる。
え、これって女の連絡先とか入ってるやつだよな。
いやオレ的には良いことなのか?よく分かんないけど、 いや本当に意味が分からない。
オレの天才的頭脳を持ってしても理解に苦しむ状況すぎて、ひたすら困惑しっぱなし。
「私が愛してるのはお前だけだよ、私の愛しい子」
「……あっそ、このクソ野郎が」
オレを見下ろしながら、ニヤニヤと意地の腐ったような笑みを浮かべるソレに精一杯の悪態を吐く。
絶対に後日事の次第を問い詰めようと心に誓いながら、 粉砕された携帯を見て少し満ち足りた気分になっている時点で、オレは既この男に毒されているのかもしれない。
【完結済/BL/短編】彼氏の浮気が発覚するも結局はイチャつく話 @huwawa_wahuhu
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