第2話

「オレは名探偵だろ?だから気付くんだよ」

は、と笑いが込み上げる。

探し物が得意なオレは、よくコイツにスマホだとかイアフォンの片方だとか、そんなくだらないものを探し出してやっては、その度に名探偵だなんて褒め殺されていた。


良く聞くだろ?

猫を探す探偵、だとかそういうヤツ。


だからホントはそんなの関係ないんだけど、オレは知っている。


コイツの携帯に女の連絡先がたくさんあるのを、 その内容の大半がいわゆる夜のお誘いなことも。


首元の薄いキスマークに、普段好まないような甘ったるい匂いのままオレを抱いてることも。

気付かない方が、 きっと幸せだったんだろうけど。だけどオレはそう、名探偵だから、コイツの嘘を見て見ぬふりなんて出来なかったんだ。


皮肉だよな、現彼氏から付けられたその称号を盾にこんな被害者と加害者だけの裁判を開くだなんて。


「だからもう、いいかなって」


傷は浅ければ瘡蓋で塞げる。

この傷が瘡蓋で塞げる程浅いものなのかは分からないけど。

それでもこれから先、この不毛な関係を続けるよりは幾分かマシだろう。

握り締めた手はもうとっくの昔に血の気が引いて真っ白になっていて、鈍い痺れを訴えている。


ともすれば消えてしまいそうなぐらいか細くなる声や、耐えきれなくて溢れた涙が頬を滑り落ちていく感覚が余計にオレを惨めな気持ちにさせた。


「今度は『本当に』好きなやつと幸せになれよな」


ぐしゃりと歪む視界で精一杯微笑んでみせる。

うまく笑えていたかどうかは定かではないけれど、今はこれしか出来ないから。せめて最後くらいは格好つけさせ て欲しかったんだ。

コイツに抱かれていた身だが、一応オレは男なのだし。


クソみたいな過去じゃなくて、綺麗な思い出としての幕引きを望むぐらい許されるだろうと。そう思いながら立ち上がり、今や砂金のように沈んでしまったロマンスの数々に背を向ける。


「じゃ。」


子供みてェに泣いちまう前にと、部屋の扉に手をかけたその時だった。

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