最終話「月に叢雲、花に風」


「うそ、四天王ってむっちゃ強い魔物じゃん……」


 少女アッシェから血の気が消えた。


「拙者を抜けッ勇者殿ッ」

「だから勇者やんないって」

「なら爆弾だいなまいとぞ、植物は炎に弱く――」

「街中で爆破できる訳ないから! あのだよ⁉」

「それは――」



――ビュォッ


 蔓鞭つるむちが言い争いをさえぎる。




「……わたくしを無視するなんて、随分余裕ねェ」


 魔物ルルムが激しく鞭を振るい始めた。

 右に左に逃れつつ刀は叫ぶ。


「迷う暇などござらぬッ、死にたくなければ抜くのだッ」

「わかったよォ」


 渋々抜刀する少女。

 陽光を反射しきらめく刀身。


「どーしよ、あたし戦った経験なんか――」

「適当に斬りつけなされ、後は拙者が動くでござるッ」

「ええいもうッ」


 次々迫りくる鞭。

 少女は自棄ヤケ半分で刀を振るうッ。



――スパッ


「あ、斬れた……」


 蔓鞭は呆気あっけなく真っ二つ。

 切り離された先端は、粒子となりサラサラ消滅。



 だが魔物側に焦りはない。

 フフと笑みをこぼすと、鞭が断面から再生し元通りになったのだ。


 再開する鞭の嵐。

 2人は回避の一手に戻ってしまう。


「ンなのアリ⁈ 倒せるわけないじゃん!」

いな、魔物はを斬れば消し去れるッ」

「核ってどこさ?」

「外装を壊せばじかに体内の核を斬れるぞ。例えば爆弾だいなまいとのように高火力なら――」

「だから街中じゃムリッ……


 ニヤリと笑い、少女は刀をさやに戻した。


「こっからねっ♪」


 ……あたしは街の門の外にいる、そこまで魔物を連れてきて。

 小声で刀に指示すると、少女は取り出した二輪駆動バイクで走り去った。




「勇者殿ォ!?」

「あらぁ仲間割れかしら」


 1人残され慌てる刀を鞭が襲う。

 回避しつつ、刀は周囲を見渡した。


 ここは街中。

 人々も異変に気付いたが避難は未完了。

 魔物をこのまま街で暴れさせ続ければ甚大な被害に繋がるだろう……


 ……勇者アッシェの策に乗る以外、選択肢は無い。




「貴殿の相手は拙者なりッ!」


 刀は覚悟を決めたのだった。







 必死に鞭を避けつつ、人の少ない道を選んで魔物を誘導。

 ようやく街の門を出ると、遠くで少女が手を振る姿が見えた。


「こーっちーだよぉーーっ」


 パッと顔を輝かせた刀が、足取り軽く近づきかけた瞬間。

 弾ける笑顔の少女が箱型装置のT字ハンドルを押し込んだッ!




――ちゅど~~んッ


 刀と魔物の足元から吹き上がる




 か、刀は一瞬理解できず。

 だが追体験のごとき既視感爆炎と爆風の暴力で揉みくちゃにされるが、をかっちりめた。



「酷いでござるッ」


 半泣きで駆け寄る刀。

 少女は慰めるようにさやを撫でる。


「ごめんごめん、この方法しか浮かばなくて」

「せ、拙者ごと爆破なんて……せめて一言欲しかったのだ」

「君の頑丈さなら大丈夫と信じてたさ。それより見て!」



 少女が指したのは爆破跡地。

 煙が残る大穴で立ち尽くすは巨大な魔物。

 その体は半分近く消滅し、隙間からが見えていた。



「あれはッ……勇者殿、再生前に奴を葬るぞ。拙者を抜いて魔力を籠めよ!」

「OK」


 少女は刀をさやから抜く。

 魔炎具アーティフレイムの要領で魔力を籠めると、刀身がまばゆく発光し始めた。



「うりゃァッ!」


 助走の勢いそのままに、魔物へ斬りつけるッ!




――パリィィッ


 砕け散る核。

 魔物は絶叫と共に消え去った。


 初陣にて四天王・艶花のルルムという超強敵を撃破した少女と刀は、踊り狂わんばかりに喜んだ。







「こんなもんかな♪」


 嬉々として爆破跡地を調査していた少女が、メモを取る手を止めた。


「ご苦労でござる!」

「君もお疲れっ。にしても魔物の諜報能力って凄いね。刀を抜いたのは昨日なのに、もう襲ってくるなんて……あたしの名前も知ってたし、どうやって調べたんだろ?」

「単純よ、拙者が教えたからでござる」

「……どういう事?」


 少女の顔が曇る。


「実は拙者、街の御仁達に『勇者殿を知らぬか?』と尋ね回っての。それが魔王軍まで伝聞したらしく、ルルムに勇者殿の名を聞かれたでござる」

「バカッ、何で素直に教えたのさ!」

「仕方なかったのだ。彼奴あやつは人間に化けていての、まさか魔物とは露知らず――」


 いらついた少女が、ぴしゃりと遮る。

 無言で魔炎具アーティフレイムを片付けると、二輪駆動装置大型バイクをふかし急発進で飛び出していった。




 数秒後。

 ようやく刀は気が付いた。

 勇者アッシェ1に。



「おいてかないでッ! 勇者殿ォ~~!!」


 どんどん小さくなる二輪駆動バイクを、刀は死に物狂いで追い駆けたのだった。

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おいてかないでッ!勇者殿!! ~聖なる刀は爆炎少女を今日も追う 鳴海なのか @nano73

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