第4話「魚心あれば水心」


「……き、緊張するのぅ」


 魔炎具アーティフレイムの店を見つけた刀。

 店の前まで来た所で、不安に押し潰されかけていた。


「だが此処で諦められる訳なかろう……ええいッ虎穴に入らずんば虎子を得ずッ」


 自分を叩いて気合い注入、バンと扉を開ける!




「失礼致すッ」


 刀は慌てて店内を見渡す。




「「」」


 刀と少女アッシェの目が合った。


「君っ、何でここに――」

「うおォオォん勇者殿ォ~~ッ」


 少女が面食らった瞬間。

 刀はゲリラ豪雨みたいに男泣き。



 突き刺さる店員や客の視線。

 咄嗟に刀を掴んだ少女は、店から逃げ出した。







 商店街の外れ。

 階段の端に座る2人。


「……落ち着いた?」


 頃合いを見て、少女が声をかけた。

 刀はしゅんとうなだれる。


「かたじけのうござる……」


 ハァと溜息をつき、少女は言葉を選んでいく。


「でさ、どーして街を歩いてるわけ?」

「武器屋から脱出したゆえ」

「何であたしの居場所が分かったの?」

「貴殿の魔炎具専門店アーティフレイムショップについての話を思い出し、試しに入ったのだ」

「ちッ、余計なこと言うんじゃなかった……」




 プツンと途切れる会話。

 重苦しい沈黙。




「……どーして何も言わないの?」


 痺れを切らしたのは少女。


「いやはや何から喋れば良いやら……」

「昨日あんなに騒いでたのに?」

「そ、その点は申し訳のうござる! あれから気づいたのだ。拙者はおのれを押し付けてばかりで、貴殿の気持ちを完全に無視しておったとな」

「おっ昨日と別人じゃん。どしたん?」

「知り合うた者に秘訣ひんとを貰い熟考しての。すると反省点ばかり出てきたもので、拙者、申し訳ないやら情けないやら……誠に御迷惑をおかけしたでござる」


 すっかり平身低頭な刀。

 少女が気まずそうに口を開く。


「……あたしもごめん。いきなり売り飛ばすのは……ちっとやり過ぎたかな、って」




 しばしの無言の後、刀は言った。


「ならば手打ちよ! 拙者、貴殿と争いたくないでござる」

「OK。あたしも別に喧嘩したいわけじゃないしね」


「……それと、ひとつしたいのだが」

「勇者業ならやんないよ⁈」

「流石にそんな提案する訳なかろう!」

「じゃあ何?」




 刀は大きく深呼吸。

 心が決まったところで真正面から少女を見つめる。




「爆炎道を究めんとする貴殿の夢、拙者に手伝わせてほしいのだ」

「へ?」


 拍子抜けする少女。



「……貴殿を探す上で、拙者は沢山の御仁に世話になり申した。そして学んだのだ。1人では出来る事に限界があるが、誰かが協力すればその限界を超えられるとな」


 脳裏に浮かぶは、世話になった者達。

 武具達は囚われの身から逃がしてくれた。

 御令嬢のお陰でまた立ち上がれた。


 彼らがいたから勇者アッシェと再会できたのだ。


「そりゃあたしも最近伸び悩んでる感あるし、『ここらで誰か頼るべきかな?』って思ったりもしたけど……でもっ君のやりたい事はどうすんのさ?」

勿論もちろん忘れてはおらぬ。だが拙者の本領発揮には勇者殿との連携が必須。仮にたもとを分かてば、どのみち使命は果たせまい。ならばせめて殿と考えての……勇者殿、旅に同行させてくれまいか?」


 これこそ鎖鎌のヒント――勇者と行動したければを考えなさい――をふまえ、刀が出しただった。




 少し考え、少女は答えた。


「……じゃ、お試し同行って事で」

「お試しとな?」

「だって会ったばかりの武器に背中預けるの不安だもん」

「拙者は由緒正しき神話級ぞッ、怪しい者では――」

「怪しいか決めるのはあたし。しばらくよろしくね♪」

「むゥ……」


 思ってたのと違うがまぁ良いか、と刀は胸をなでおろす。

 ここで何気に腕時計を見た少女が気付いた。


「あ、もうオヤツの時間じゃん」

「ならば拙者が茶でもてようぞ」

「武器って飲み食いすんの?」

「食わずとも飢えはせぬが、食うのは好きでござる」

「ふぅん」


 並び歩き出そうとした瞬間だった。





――ギャウッ


 死角から伸びる




 刀が少女をかばい、倒れ込む2人。


 少女の声にならない悲鳴。

 先程まで座っていた階段が鞭で壊されたのだ。




「ウフフ、ざ~んねん」


 背後から響く笑い声。


 振り返った彼らが見たのは、

 女の右腕は太く長い蔓鞭つるむちで、明らかに



「なッ何故御令嬢まどもあぜる殿が――」

太刀ムッシュ、道案内ご苦労様。お陰で探す手間が省けてよ。わたくしは魔王軍・四天王が1人、艶花つやかのルルム……勇者アッシェ、ここでお命頂戴しますわ」


 女は不敵な笑みを浮かべ、変化へんげした。

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