第3話「火のない所に煙は立たぬ」


「……すっかり寝坊よ。昨夜ゆうべは遅くまで起きとったからなァ」


 昨夜は横になりつつ、鎖鎌の言葉“彼女の気持ち”をふまえ熟考していた。途中で寝落ちたものの、考えたからこそ気づけた事もあった。


 刀は大きく伸びをしてから、喧騒に誘われるままフラリフラリと歩き出す。




「随分 賑おうておるが、勇者殿は何処いづこかの? ……ふむ、通行人に尋ねるか」


 昼の商店街は、大勢の人で混んでいる。

 これだけいれば誰かは勇者アッシェを知るに違いないと刀は思った。




「待たれよ、そこの御仁ごじん!」


 すれ違いざまに声をかけられ、男が怪訝けげんな顔をする。


「喋るソードとは珍しい。何だいあんた?」

「拙者は陽紅ノ太刀と申す。勇者殿をご存じか?」

「ユーシャ? あいにくだが知らないね」


 男はスタスタ歩き去ってしまった。




「……まだ1人目、気を落とすには早いゆえ」


 刀は即座に次へ狙いを定めた。







「……99人目……無念でござるッ」


 疲労困憊ひろうこんぱいの刀が壁にもたれかかる。


「妙案と思うたが、そうは問屋が卸さぬかァ……」


 老若男女に聞いて回るが、手掛かりは得られず仕舞い。

 刀は折れそうだった。




「陽紅ノ太刀よね?」


 話しかけてきた女が1人。

 雑多な街に似合わぬ穏やかな物腰。

 派手さこそないが見るからに上質な服。


 先の99人とと刀は感じた。


「如何にも。して貴殿は?」

「たまたま太刀ムッシュの噂を小耳に挟んだ、通りすがりの御令嬢マドモアゼルとでも言いましょうか」

御令嬢まどもあぜる殿、拙者の噂とは?」

太刀ムッシュのでしょう?」


何故なにゆえそれを存じてッ――」

「やだ、太刀ムッシュが触れて回ったって話よ? わたくしはたまたま聞いただけ」

「あいやァ、そうでござった……」


 刀は納得した。

 99人に尋ねた以上、誰かから伝わってもおかしくない。



「――はッ! 御令嬢まどもあぜる殿は勇者殿の居場所をご存知かッ」

「残念ながらそこまでは」

「むゥ……」


 一瞬期待した刀だが、ガックリ肩を落としてしまう。


「ですがわたくし太刀ムッシュの力になりたいの」

「おぉ、貴殿も勇者殿を探してくれるでござるか⁈」

「こう見えてわたくし、それなりに顔は広いほうでしてよ」

「かたじけのうござる!」


 無邪気に喜ぶ刀。

 女はニコリと微笑み、言葉を続ける。


「……教えていただきたいのだけれど、今度の勇者ってどんな人かしら?」

「どんなと申すと?」

わたくしは勇者の顔も名前も知らないもの。それでは探しようがなくってよ」

「一理あるのぅ……」


 刀は頷き、勇者の特徴を話し出した。



 銀がかった灰色の髪。

 燃え盛るほど赤い瞳。

 熱き心で爆炎道を究めんとする少女。

 名前はアッシェ・フリーエン。



「……ウフフ、これだけ聞ければ十分よ。手分けして探しましょう」

「くれぐれも宜しくでござるッ」


 女は笑顔で去っていった。







斯様かように親切な御仁と会えるとは、ツキが向いてきたでござる!」


 再び歩き出した刀は満足げだ。


「はてさて勇者殿は何処いづこに……ム?」




――魔炎具専門店アーティフレイムショップ


 目に入ったのは

 刀は不思議とを抱いた。

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