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エピローグ

人生で五本の指に入るだろう決断をした、あれから。

僕と蘭さんが付き合い始めて、今日で一年が経った。

この一年……凄く短く感じる。

蘭さんとのデートは、僕にとって初めての経験も多かったし……、何より、楽しいことばかり。

付き合う前とあまり変わらない気もするけど……、それでも、毎日が一色、二色変わったと思う。

……一応、彼氏と彼女の関係でしかできないようなことも……しなくもなかったけど……。

その場の雰囲気に飲まれた『勢い』のせいで、事細かくは記憶してないけど……、まぁ、その…………キス……なるものを……って、恥ずかしいから、やめやめ!

今日は、一年目の記念日。一か月ごとにお祝い的なものはしてきたけど、その十二回目。

節目の一周年は……僕の部屋で祝うことに。

……。

……。

実は最初、二人だけで過ごそうという話になっていた。

なっていたけど、蘭さんが「みんなでどう?」って。

みんな……。それは…………。

「ぷっは~~~~! 薔! これうめぇ!」

「いや、飲み過ぎだよ萄真。三缶目でしょ?」

「全く……酒癖が悪すぎるわ」

無事、誕生日を迎えた僕達は、晴れてお酒を飲める年齢になった。

なったのは良いんだけど、萄真の暴飲は凄まじかった。

当分、缶のゴミ出しの日は来ないんだけど……まぁいいか。

今、僕の部屋にいるのは、蘭さんと萄真。

そして……。

「テッテレー! ライブ秘蔵集! この前、蘭に貸してあげるって言ってたやつ~~」

「あ、ありがとう。楽しみにしていたわ」

辞書より分厚いDVDの箱を渡す、千寿。

もう二度と戻らないと思っていた千寿との関わりは、意外にも、そんなことはなく。

気が付けば、いつもと変わらない日常に戻っていた。

やっぱり、この四人でいると何でもが楽しい。

壊れないでくれて……本当に助かる。正直な、僕の気持ち。

卒業までずっとこのままでいられたらなぁ……って思う。

「およ? 薔ぉおお! アイスがねぇぞ!」

「あー、じゃあコンビニに買いに行ってくるね」

「俺も行ってやる! しゃーない!」

「そうだね。丁度、酔い醒ましもなるだろうし」

僕よりも体格が良くなっている、フラフラ状態の萄真の腕を支えながら、玄関に向かう。

その途中、リビングの方から声だけが飛んでくる。

「あっ、私、チョコのアイスがいい」

「うちはハーゲンダッツのストロベリー!」

「わ、分かったよ。行ってくるね」

沢山おつかいを頼まれたけど、まぁ、いつもこんな感じ。


良い感じの風が吹いている夜の外を、萄真と一緒に歩いてコンビニに向かう。

「ねぇ萄真」

「あにゃ?」

萄真と二人きりになる機会も、極端に少なくなった。

お酒が入ってるけど……今くらいしか言えないから、言ってしまおう。

「ずっと言えてなかったけど、ありがとう。萄真が背中を押してくれたから、今があると思う。多分、萄真がいなかったら僕は……」

「勘違いすんじゃねぇ!」

「うぉ⁉」

いきなり大声を出して……怒ってる?

「いいか? はっきり言うが……俺は薔が憎かった!」

「え、えぇ……」

思いもしなかった方向のパンチに、思わず倒れそうになる。

だけど、萄真はきっぱりと告げる。

「憎いけど、羨ましかった! 薔みたいに真っ直ぐ人と関わって、泣ける。そんな薔が……眩しかった」

「……」

「言っとくが! 俺が好きなのは千寿だからな!」

「え…………えぇえええええええええッ⁉ 本当に言ってる⁉」

「もちろん! 薔よりもずっと前からな!」

「え……」

萄真は、僕が千寿を好きになるよりも前から、千寿が好きだった……?

なのに、僕と千寿の間を裂こうとするどころか、ずっと協力してくれていた気がする。

好きの感情が、何たるかをも教えてくれて。

萄真がなんでそんなことをしてくれていたのか、僕には分からない。

「じゃ、じゃあ……なんで……?」

「ん~~となぁ。まず、ここだけの話。あいつが好きになってきた男って、クズばっかだったんだよ。悉く、どいつもこいつも。その度に、俺じゃダメかって思ってたんだ。まぁ思うだけで、薔にデケェ口を叩いてたバカは、一回も自分の気持ちを伝えたことなかったんだけど」

皮肉……。それ以上に、過去の自分に怒る萄真は、何度か口籠りながらも続ける。

「そんな口だけの俺と違って、自分の思いを言葉にでき、涙を流し、つれぇ決断を悩みに悩みまくるやつを、今回、千寿が好きになったんだ。どっちもを応援はしてやれなかったけど……俺にその邪魔をする権利はねぇだろ?」

「だから萄真は…………ずっと、中立だったんだね……」

思えば。

二人を好きになった時も肯定してくれたし、僕の決断にも一切何も言わなかった。

僕が千寿を選んでも、おかしくないように……ずっと…………黙っていた。

やっぱり、涙腺が弱くなった気がする。今にも泣きそう。

「ったく……なんで泣くかね?」

「だって……。萄真がそんな重荷を背負ってたなんて……気付かなかったから……」

「ばーか。自分のことでいっぱいいっぱいだったやつが、何をほざいてんだか」

やれやれと肩をすくめる萄真は、コンビニ前の点滅している信号を走って渡る。

それに気付かなかった僕は、横断歩道を挟んで萄真と対峙する形になってしまった。

今の時間は車なんて滅多に通らないから、多少の信号無視はしても大丈夫だろう……けど……。

いつの日か。萄真とこうして向かい合った時のことを思い出す。

あの時の萄真の複雑な表情……。今なら、分かる。

確かに、自分のことでいっぱいいっぱいだった僕に、萄真の心情なんて分かるわけがない。

色々と無知過ぎた。それに、余裕なんてものも、なさ過ぎたんだ。

……でも。

今は一歩でも成長できたかな?

立派に、なんて考えてはないけど、一人前には……なれたかな?

いや、なれたと思う。

萄真とこうして、笑って恋愛話を話せるのだから。

「薔! はっきり言って、千寿を選ばなくてサンキューなぁ! 俺も……薔を見習って、ちゃんと言うからさぁ! 大好きだぁああああああって!」

「うん! それがいいと思う!」

十歩もいらない横断歩道を挟んで、僕達は何を言っているのやら。

でもこれで、萄真も自分の気持ちに正直になれるんだ。

今の萄真に送る言葉は、「ごめん」じゃなくて「がんばれ」になっちゃった。

「がんばれーー!」

拳を掲げて、全力エールを萄真に…………。

「大声で……な、何言ってるのよ!」

背後から聞こえてくる千寿の声と、一緒に向かって来る蘭さん。

どうやら、心配して来てくれたらしい。

「遅いと思ったら、こんな所で油を売って……」

「ご、ごめん……」

「ほんと、目が離せないわ。薔も、あの二人も……」

いつの間にか、わちゃわちゃと言い合っている萄真と千寿。

お世辞抜きで、お似合いだと思う。

千寿がどう思っているかは分からないけど。

「あ、早く買って帰ろっか」

「えぇ。早くチョコアイスが食べたいわ」

「だね! お~~い! 二人共~~…………」


それぞれの道。

間違いかなんて、選んでからじゃないと分からないけど……。

選ぶことを怖がっていたら、ダメなんだ。

その気持ちに、本気なら。

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恋の『好き』を知るまでの、大切な物語 ゆーせー @you_say

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