闘技に向けて

 王子が見えなくなるとロズミスティが勢いよく振り返る。


「き、聞いてないんですけど!?」

「すまん。勢いで言った」


 いやホントすまん。体裁ってやつは確かに気にしてんのか言葉自体は大したことないんだが、雰囲気がな。ついイラっとしていってしまった。まじですま―――


『やっるじゃない、ファウダー!!』

『今のあおりは最っ高よ!!』


 うおおっ!?急に叫ぶなよ、頭に直接来るからきついんだよそれ。こう、なんか

 キーンて感じでさ。痛くないんだけど痛いみたいな。


『これはロズミスティのざまあがはかどるわよ!』

『こうなったら徹底的に育成してこの国の王族貴族に無能って返してやりましょう!!』


 …ロズミスティほんとすまん。まあ、育成してあげてもいいよ。みたいな感じだったのが絶対育てますになっちまった。


「ファウダーさん?」

「ほんと、申し訳ありません」

「え、ええ?急にどうしたんですか!?」


 神妙な態度で謝る俺にロズミスティは困惑している。事情を知らなけらば急に態度が変わったように見えるのだろう。だが、今の俺にはそんなことを気にする余裕はない。


『そうと決まれば早速鍛錬よ!!闘技の申し込みはあさってからだったから、今行っても問題ないはずよね?』

『さ、早く人のこない場所に行くわよ!!案内するからそれに従いなさい』

『いや授業は!?』

『大した内容やってないんだからさぼればいいのよさぼれば。不安なら大体の内容なんて天使にでも聞かせといて後で聞けばいいでしょ』

『出席日数!!』

『最低限でいいじゃない。どうせテストなんて簡単なんだから』


 こっちの事情を何を言っても無理だ。ルミィたちはすでに訓練モード。何とかしなければ。常にギリギリを責められ続けるアレは地獄以外の何物でもないのだ。いくら意地でついてくるぐらい強くても、身体はともかく心が持つとは思えん。俺の時は幼く体力も少なかったから時間も短かったが、ロズミスティ下手に体力がある分、行き過ぎいかねない。


『そ、そうだっ。そんな最低限だと必死になりすぎてるように見えないか?それじゃスマートなざまあじゃないだろ?』

『はっ!それは確かに…』

『危ないところだったわ。面白そうなイベントだから暴走するところだったわね』


 …何とかなったか?ルミィたちの興奮度合いも少し落ち着いているような気もしないでもない。


『そうね。でも今日はやるわよ。さっさと連れて行きなさい。作戦は伝えないと。明日からは授業に出てもいいから』

『……わかった』


 ここが妥協点、かな。少なくとも連日休みなくブートキャンプは避けられそうだ。


「ロズミスティ。巻き込むようなやり方をしてすまんが、少しだけ付き合ってくれ」

「えっと、もともと闘技には参加する予定でしたからいいんですけど」

「そう言ってくれると助かる。じゃあ、早速なんだが作戦のために今から昨日の場所に行くぞ」

「今からですか!?」

「ああ、ちょっと事情があってな。これからの一か月を最高効率に、ね」

「わ、分かりました。強くなれるなら文句はありません」


 少しだけ微笑んで頷く彼女に少し気まずく感じる。まるで俺が考えて実行しているように言っているが、頭ん中に叫ぶルミィたちの受け売りをしてるだけだからな。


「ではいきましょう」

「ああ」


 そうしてやってきた訓練場所。騒ぎはそれなりに大きく、人目を巻くのは大変だったがメリイナビのおかげで何とかなった。


『ファウダー、ちょおっとお姫様の手を握ってくれるかしら』

『いきなりだなっ』


 ちょっとハードル高くないかな?一応年ごろの少女よ?彼女。


『いいからいいから。あなたにもあの子にもメリットはあるから。いいでしょ?』

「……」

「ファウダーさん?」

「手を貸してくれ」

「はい?いいですけど…」


 ロズミスティは首を傾げつつも意外と素直に手を差し出してくれた。…もしかして気にしてんのは俺だけなのかね。ちょっぴり悲しくなりつつもそっとその手を握ると、


『おっけー、つながったわ!!聞こえるかしら?』

「ひゃッ!?頭に声が!?」

『おいッ!?いいのかよッ!!』

「今度はファウダーさんの!?」

『聞こえてるみたいね。じゃ、手を離していいわよ。ちょーと私たちはこの子とお話しするからファウダー待っててね』


 目を白黒させるロズミスティにかまうことなくルミィは話を強引に進めていく。何度か思い直すように声をかけてはみたが、意味はなく結局俺は彼女から手を離して様子を見守ることになった。


「ええ!?る、る、るみ、めが…めりッ……!!」

「で、ですがッ!?」


 何を話しているのかは分からないが、ロズミスティから漏れる声から察するに自分たちが女神であることは伝えたのだろう。目を見開いてあわあわとしながら、跪こうとしている。


「えええッ!?は、はい…そんな、私なんかが…分かり、ました。その、ありがとうございます」

「おわったか?」

「い、一応は。ファウダーさんすごい人だったんですね」

「そんなことはないと思うぞ」


 基本ルミィたちに振り回されてるだけだからな。とはいえ、いやそうな顔をしていないのは救いか?いや、女神だから押し殺してるだけとか?


「変なことは言われなかったか?」

『ちょっと変てなによ、変ってッ』

「それは大丈夫です。その加護と、何時でもお話しできたりレベルを上げれるようにしていただいただけですから」

「…それならいいけど。しんどくなったら言えよ?結構振り回してくるからな」

「大丈夫ですよ。今まで話し相手なんていませんでしたから、むしろうれしいくらいです」


 そう晴れやかな顔で言うロズミスティに少しホッとする。さらに聞けば、レベルを上げること自体も完全に妨害されていたらしくメリットしか無いようだ。


『これでわかった?私だって気に入った子にはちゃんと配慮するのよ、全く』

『悪かったよ。俺ん時は最初、酷かったからさ』

『…それはそれよ。じゃ、早速プランを発表するわ』


 なんかごまかされたような気がするが、計画は必要なため黙って聞く。


『まず今から体を作っても闘技には間に合わないわ』

『女神様!?』

『落ち着きなさいロズミッ…長いわねロズでいいかしら』

『もちろんです女神様。私相性なんて初めてです』

『そう?じゃ、私の事はルミィでいいわ』

『私はメリイね』

『は、はい!!ルミィ様、メリイ様』

『それで計画なんだけど―――


 ルミィの話によれば、これから一か月はとにかく魔力操作、特に魔法発動速度と実戦訓練だそうだ。身体を作るのはその後で追いつかせるとして、今は、即戦力となる技術を身につけ、それを実践で確実に使えるようにすることが目標。普段は放課後に訓練を行うが休日は外に出て魔物相手に戦闘を行う模様。運が良ければ盗賊も狙うらしい。


『というわけよ。わかったかしらロズ』

『はい!よろしくお願いします!!』


 愛称で呼ばれたことにとてもうれしそうな顔をしながら彼女は頭を下げると、ルミィたちから満足そうな気配を感じた。


『じゃ、早速魔力操作からよ』

『ならここからは私ね。最初にやるのは―――』


 ルミィの後を引き継ぐようにメリイが説明を始める。それを一つも聞き逃すまいと、ロズミスティは真剣な顔をして聞いていた。

 こうして俺たちの闘技大会に向けての訓練は始まった。

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女神様はラノベをしたい 柚子大福 @yuzudaifuku

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