王子
衝撃の暗殺者の処理を終え、俺はロズミスティを連れて部屋に戻ってきた。とりあえず彼女をソファに寝かせ、今日の夕飯の用意を始める。まあ、豚しゃぶだし、すぐできるな。
「うし、できたぞ」
「意外ですね」
「なにがだ?」
「ファウダーさんも使用人がいないなんて。それに料理も」
「ああ、使用人は俺が固辞したからな。座れるか?」
「はい」
何とか身を起こしたロズミスティに今日の夕飯を並べていく。豚しゃぶに野菜サラダ、卵スープになんと米。実家ではパンばかりだったが王都では普通に売っていたのでここぞとばかりに買い込んでおいたのだ。
「ありがとうございます」
「おう」
並べ終わって座ると、食べ始めるとそれを追うようにロズミスティも食べ始めた。途端ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「っておいどうした?まずかったか?」
「い、いえ…その、誰かとの食事なんて初めてでしたから。ずっと避けられてきましたし」
「そ、そうか…」
重い。王族だってもんだから多少は覚悟してたが、これは人として重い。…あ、そう言えば入試の時に褒めてたやつもいたけど、あれは何だったんだ?
「なあ、入試の時お前の事褒めてたやついたけど、あいつ等とはかかわりないのか?」
「ああ、あれは教会関係者ですね。学校に来るような者はすでに腐敗してる方の息がかかっていますので」
「ああ…」
教会って王族にもゴミ判定喰らってんだな。んで、レベル上げとかには奴らが必要だから切るに切れないと。ま、それなら仕方ねえか。
『しかし、悪魔ねぇ。ルミィたちはなんか知ってんのか?』
『さあ。ただ、そもそも下界に悪魔なんて現れないから、実験に使われてるのはそれっぽい見た目の魔物かなんかでしょ』
『そうなのか?』
『ええ、悪魔は冥界の業務つきっきりよ。ファウダーの前世で言う地獄の鬼ね。業を重ねた魂の浄化が仕事。数が多いから下界にかまってる暇なんてないわよ。何せ生きるために殺すも業の一つ。しかも虫一匹にだって魂はあるんだから』
『ブラックすぎん?』
『そうね。まあ、最優先で冥界は業務のシステム化が進んでるからそこまでひどくはないけれど』
ほんと天界って何なの。夢も希望もねぇ社畜の世界じゃねえか。
『しっかしどうしたもんかね。止めたほうがいいのか?』
『別にいいわよ。この程度の事なんて今までいくらでもあったし。まあ、イベント的には美味しいけど…今の実力じゃちょっと不安ね』
『そっか。なら、無視できるうちは無視だな。俺もしにたくはねえ』
『そうね』
人間基準で言えば大ごとでも、神基準なら人体実験も些細なことか。こういう時は存在の違いってのを感じさせられるな。普段はラノベとアニメに発狂してるだけなんだが。
「うし、食べ終わったな。…部屋は余ってるから今日は泊めてやる。さすがに風呂は明日自分で入ってくれよ」
「なんというか、申し訳ありません」
「気にすんな。あとこういう時はありがとうって素直に受けとっときゃいいんだよ」
「ふふっ。では、守ってくれたことも夕飯の事も含めて、ありがとうございます」
「おう」
少し恥ずかしそうに礼をいうロズミスティを抱えるとあいている寝室のベッドに彼女を寝かせる。まあ、元は使用人用の部屋だったんだが、俺の部屋よりはいいだろ。
その後は俺も明日の用意などを終えると、いつものようにアニメを鑑賞してから休むことにした。
そして次の日の朝。動けるようになったロズミスティは俺の部屋でシャワーを浴びて身支度を整えると俺と共に部屋を出る。………傍から見たら完全に事後だな。
予想通りそこら中から突き刺すような視線が感じられる。視線の色は平民らしきものからは羨望と嫉妬。貴族らしきものからは憐れみの目線だ。ロズミスティには平民からは変わらないが、貴族からは侮蔑が多い。
「いいのか?」
「かまいませんよ。あなたなら」
「そ、うか」
さらりと答えられたことに、少し言葉が詰まった。そんな俺を見て彼女はクスクスと笑えば、周囲からの視線はますます強くなった。
そうやって広い敷地を教室に向かって歩いていると俺たちの前に立ちふさがる者が現れた。
「酷いうわさが聞こえてきたものだから来てみれば…ずいぶん大胆になったねロズミスティ」
「兄上…」
目の前に立つ金髪に金目のイケメンはどうやらロズミスティの兄らしい。後ろには取り巻きらしき貴族の子供が数人。
「妹が貴族の男に押しかけていると聞いてね。迷惑をかけたね。ファウダー・カオ・ヘウンデウン君」
「そうでもないが?あと、ロズミスティには手を出してないぞ」
「…そうかい?それならいいんだけど」
意外なことに言葉遣いで咎めることはしないらしい。代わりに、俺がロズミスティの名前を呼ぶと王子はほんの一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに元の笑顔に戻る。
「それはそれとして、君すごく強いらしいじゃないか」
「そうなのか?」
「何で私に聞くんですか。まあ、強いとは思いますけど」
「だそうだ」
「そ、そうか」
そんな顔されてもな、自分でも確かに強くはなってると思うけど、他の人間から見ての基準は俺には分からんからな。
「ま、まあいい。今回は君に提案があってきたんだ」
「提案?」
俺あんたとは初対面なんだけどな。だが、王子はそんなこと気にしないとばかりにぺらぺらと提案の中身を離し始めた。
「もうすぐ闘技大会があるだろう?」
「そだな」
一か月後だっけ。学年関係なしに参加希望者が決闘を行う大会。基本は一年は観戦だけだけど自信があるやつは参加するらしい。それがいまと何の関係があるのだろうか。
「闘技大会には一対一だけでなく二対二の戦闘を行うものがあるだろう」
「ああ」
そういえばそんなのもあったな。関係ないと思ってたから完全に忘れてた。ここでこれを言うってことは
「その大会私と組まないか?」
『却下』
『断固拒否』
そうなるよね。ルミィたちもそんな前のめりに言わなくてもいいっての。俺も受けるつもりはないから。流石にあの裏事情聴いた後だと組む気にはなれない。
「断る」
「な、なぜだっ、王族の俺が誘っているのだぞ?貴族にとってはこれ以上ない名誉だろう」
俺が断ると思っていなかったのか、王子どころか周りで聞き耳を立てていたやつらまで動揺している。まあ、普通は断らないわな。けど、俺にはそんな名誉はいらん。ただ、これではいそうですかとはならなそうだしな。どうすべきか。あ、そうだ
「それに先約があるからな」
「へ?」
俺は呆然と王子とのやり取りを眺めていたロズミスティのの方をにこやかに叩きながら言うと、王子は顔を真っ赤にして震えだした。イケメンもタコみたいになれば台無しだな。
「まさか、ソレと組むとでもいうつもりか?」
「ああ、あんたよりよっぽど強そうだしな」
「ほ、ほう。いうではないか。その言葉後悔するぞ?」
「ぜひ」
「ぐッ…行くぞ!!」
最後ににこりと笑ってやれば、王子は全身を震わせながらすごすごと帰っていった。
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