ダイヤモンドが嫌い

硝水

第1話

 ダイヤモンドが嫌いなんだ、というと彼は声をあげて笑った。

「うんうん、きみはストロンチオオーソホアキナイトとかが好きそうだよ」

「それは宝石ではない気がするけど」

「知ってるし、好きなんじゃん」

 そういうものか、と思う。目の前の優男はダイヤモンドが好きなタイプだし、それを極めて正々堂々と宣言できる。

「だからきみのことも嫌いなんだ」

「ひどい」

「きみはきみの嫌いな玉ねぎが情に訴えてきたら食べるんだね」

「ごめん」

 彼は詫びのつもりか、あんまんを半分にちぎってこちらへ差し出してくる。

「要らないけど」

「要らないの……?」

 全人類あんまんが好きだと思ってるのか?

「みんなに好かれるようになれば、きみにも好いてもらえると思ったのに」

「みんなに好かれるのは無理だってこと」

 彼のいうみんな、の中に自分が入っていないことを、喜ぶべきか悲しむべきか。

「あーじゃあ、偽りのダイヤモンドだからおれはキュービックジルコニアってことにならない?」

「別にキュービックジルコニアも好きじゃない」

「そっかー」

 唇をとがらせながら、噛んで潰れたストローを吸う。彼は冬でも冷たいものしか飲まない。なんて心底どうでもいいことを、僕は知っているし忘れられない。

「おれにとってはきみがダイヤモンドなんだけど」

「うわクサ」

「今シンプルに傷つきましたよ」

「そこは欠けたが正しい」

「なんの話……?」

 冷たいレモンティーであんまんを流し込む彼を横目に、だからダイヤモンドは嫌いなんだって言ってる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダイヤモンドが嫌い 硝水 @yata3desu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ