第4話 とある図書室で

 しっかりと内側から施錠はしたみたいだね。


 さあ、こっちに来て。

 ふふふ、えらいえらい。


 放課後の誰もいない図書室ってなんかいいよね。

 私も学生時代、こんなふうに好きな人と一緒に過ごせたらよかったんだけど……。

 ううん、なんでもないよ。聞こえなかったのならば別に気にしないで。


 え、『内側から施錠したくらいで大丈夫なのか』って?

 うん、問題ないよ。


 だって、そもそも今週から図書室では本の整理することになっているでしょ?

 だから今日から生徒は図書室に出入り禁止になっているの。


 それに、急に体調を崩してしまった司書さんの代わりに、私がわざわざ立候補したから、職員室にあるはずのスペアキーも預かっているんだよね。


 ほら、あそこのテーブルに置いてあるでしょ?

 だから安心していいんだよ。


『そ、そうだよな』って、なんで急に焦ったように私から顔を逸らすのかな……?ほら、こっちを見なさいっ。


 あーもしかして今週から図書室に出入り禁止のこと、ホームルームでのお話聞いていなかったのかな。


『と、とりあえず、本の整理をする』って、何を勝手に話を進めているのかな。


 本の整理ならばお昼休みにすでに他の男の子たちに手伝ってもらったから、大方整理し終えちゃったよ。だから君にやってもらうことはないんだよね。


 ふふ、『少しだけ手伝って欲しいな……』って、つぶやいたら勝手にクラスの男の子たちが引き受けてくれたんだよね。


『悪魔みたいな女だな』って、もう、ひどい言い方だなー。

 それをいうならせめて小悪魔でしょっ?


『いや男を惑わす、淫魔』って……シクシク、私は傷つきましたっ!


 だからそんなイケナイ子には、おしおきが必要だね。


 ふふ、今の君、期待しているって顔しているよ。

 ……いやらしいっ。


 そんな変態の君にとって、やるべきことはわかっているでしょ?

 ほら、まずはいつも通り私の前でひざまずいて——んっ。


 ちょっと強引にストッキングを脱がせないでよ。


 くすぐったいよっ。


 もう、がっつき過ぎっ。

 急にスイッチが入ったみたいに目つきがいやらしいんだからっ。


 あれ……なんで急に止まっちゃったのかな。


 え?


 今、『もう……やめる』って言ったのかな?

 

 へー、そんなこと言っていいと思っているのかな。

 君は、自分がどんな立場だかわかっているのかな。

 私の言うことを聞いていればいいんだよ、それくらいのことわかるよね?


 ねえ、聞いているのかな?

 ほら、こっちを向いてよ。


 なんでスマホなんて取り出しているの……?


 その画面に映っているのは、私だよね。

 それに、お父様……もいるから、一昨日、食事に出かけた時に撮ったものなのかな。


 『あんた、青倉財閥の関係者だったんだな』


 ふーん。君、私の後をつけていたんだね。

 安心してよ、その白髪の男性は、私の父——お父様。

 

 もしかして、君の知らないところで、男性といたから嫉妬したのかな。

 ふふ、そうなのだとしら、私としてはすっごく嬉しいんだけどね。


 それとも君は単なるストーカーさんだったのかな?


 ふふ、冗談だよ。

 そんな怒った顔しないでよ。


 はあ……そうだよ、君が察している通り、私は青倉財閥の関係者。

 だけど、それがどうかしたかな。


 『この高校の教師たちは知っているのか?』


 ううん、この職場の人に私が青倉財閥の関係者だなんてことは伝えていないよ。

 でも……そのことが今、何の関係があるの?


 『まさか日本有数の青倉財閥の御令嬢様だとは思わなかったが、俺に今までしてきたことをお父様とやらが知ったら、どうなるんだろうな』


 もしかしてそれは……私のことを脅しているということなのかな。


 そっか……うん、君の言いたいことはわかったよ。


 この学校中に私と青倉財閥の関係を暴露して、そこから私と君との噂でも流すつもりなんでしょ?


 それで噂が拡散された結果、マスコミがかぎつけてきて、お父様の会社やそのグループ会社の株価に影響するんじゃないのかって、そう言いたいんだよね。


 『……』


 はあ、だんまりってことは、それもう肯定しているってことだよね。

 自分の手の内を明かすような態度をとるなんて、よっぽど自分に自信があるんだね。


 何よりも君にそんなふうに抵抗されるとは思わなかったから、驚いたかな。

 

 ふふふ……いいよ、やってみなよ。

 

 でも……私と君との関係性が、噂されても誰も信じないんじゃないかな。


 ほら、私、学校のみんなの『憧れ』なんでしょ?


 ふふ、それこそ、君が他の先生や友だちから慕われているように、私もまたみんなから信頼されているんだから……みんなはどちらの主張を信じるんだろうね。


 何で笑っているのかな。

 その顔……なんかムカつく。


 い、今制服の内側から取り出したのは……ボ、ボイスレコーダーだよね?


 へ、へー。

 そ、それがどうしたのかな。


 え?『これまでの音声が全て入っている』って言ったのかな……?


 今までのやりとりは全て——

 ぶ……文化祭の演技の練習でしたー。


 ははは、面白いよねー。

 演技するってことは、奥が深いことなんだねー。


 やっぱり、文化祭で教師と生徒の禁断の愛を題材にすると、教育上よろしくないよねー。うん、さきほどまでの演技で確信しましたっ!


 みんなに変な誤解されてしまうかもしれないから、ダメだね。

 うん、この脚本は却下にしよっ。

 そもそも、生徒のみんなが主役の文化祭で、わざわざ教師役として私が参加するのもおかしいよねー。


 でもそも前にそのボイスレコーダーも消去しておこうよ。

 万が一その音声が流出して、誰かが今までのやり取りを聞いてしまったら、絶対に私と君の関係性を誤解する可能性が高いでしょ?

 

 『言いたいことはそれだけか……?』


 ごめんなさい……。

 

 『ごめんなさいじゃないだろ?』


 ——っ!?


 も、申し訳ありませんでした。


 えっ!?

 『土下座して、今から言うことを復唱しろ』ですって!?

 

 い、いえ、口答えなどしていませんっ。


 これまで、蓮くんがしてきたことは全て私が指示しました。

 だから、蓮くんは全く悪くありません。

 全て副担任である青倉さくらが蓮くんをたぶらかしたことが原因ですっ。

 私は蓮くんのことが大好きで、勝手に暴走してしまいましたっ。


 ——っ、これで認めたからいいでしょっ!?

 だからその音声データを消してよっ!


 『ああ、もちろんいいよ。このボイスレコーダーのデータだけな。ちなみに、クラウド上にもバックアップしているから。だから、これから俺の——』


 は、はい。

 私のご主人様……。


 あなた様に一生、ご奉仕させて頂きます。


 ……少し予定外だけど、ふふ、これはこれでありかもっ。

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【短編】美人教師に「バラされたくなかったら言うことを聞きなさい」と脅されてからドロドロの関係になってしまった。 渡月鏡花 @togetsu_kyouka

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