♪ 二夜 ♪
★場面4――学校。(朝)
彩香、教室に恐る恐る入ると、いじめっ子の男子2人が近づいてくる。
F「お前、どうして帰ってるんだよ」
E「入ってろって言っただろ。なに約束やぶってんだよ」
彩香「ごめんなさい……でも、約束って……私は嫌だって……」
F「なんだよ。歯向かうのかよ」
彩香「……そんな」
E「ボコろうぜ、こいつ」
F「ああ」
先生が入ってくる。
E「あ、やめとけ。先生来た」
F「まじかよ。……お前、放課後、トイレで待っとけよ」
彩香「……」
ちらりとそんな様子を見た先生。
彩香(助けて、先生……)
しかし彩香と目があった先生は、すぐにそらす。
先生「出席取るぞ~」
彩香「……」
★場面5――五年生のトイレ。(放課後)
花子さんは、トイレを見回している。うち、一つのトイレに入って。
花子(……なにもいない、か。そんな気配もしない)
トイレの入口の戸がキィと開く音。
花子「――っ!!」
花子戦闘モード。右手の爪がピンと長くのびる。
すると「三丁目~の~花子さん♪」と声が聞こえる。
――あ、この声。と花子さん。
そっとトイレから顔を出す。
彩香と目があう。
花子さん、笑顔になって。(戦闘解除)
花子「は~あ~いっ♪」
彩香「よかった、いたっ。まだ時間早いかと思った」
花子さん、くすくす笑って。
花子「幽霊みつけて、よかったって」
彩香「なにか、いた?」
花子「……ううん、いないみたい。気配もしない。きっと彩香ちゃんの、見間違いね」
彩香「あれが錯覚、か」
花子「白昼夢かしら。人間は怖い存在の錯覚を見るって聞くわ」
彩香「――確かに無我夢中で走って家に着いた後、まるで夢だったような気すらしたなあ」
花子「さて、点検おわりっ。彩香ちゃんは、もう帰り?」
彩香「あ、ううん、まだ」
花子「ん? もしかして、また男子になにか言われたの?」
彩香「えーと、ちがうんだ。ちょっとね」
花子「――そう?」
彩香「あーあ。それよりも錯覚だったってわかってよかった。じゃあね花子さんっ」
花子「あ、うん。またね」
花子さん一息ついて。
花子「さて、と。念のため校内のトイレ、見回ってみようかな」
★場面6――学校。(彩香)
彩香、廊下を歩く。
彩香(言えなかった。……だって花子さん、もう泣かせたくないもん)
……でも、怖いよ。 と彩香。
★場面7――学校。(花子)
静かな校舎。そろそろ日も沈む頃。
見回り中の花子さんは廊下を歩いている。
すると「……花子っ」と呼ばれる。
花子、ビクッとする。
呆れた様子で。
鏡「おいおい、幽霊のお前がビビッてどうすんだよ」
花子「……なんだ、鏡か」ほっとして。
鏡「どうだったよ。例の幽霊は」
花子「……それダジャレ?」
鏡「ちげえよっ!」
花子さん笑う。
花子「ごめんごめんっ。大丈夫。なにもいなかった。一応、見回り」
鏡「そか。まあ安心したよ。ありがとな」
花子「うん。……鏡はこれからリセット? でももう生徒いないと思うよ」
鏡「ちっ出遅れたか。――先生おどかすのもつまらないしな。しかたない、俺も見回るわ」
花子「そう? ありがとう。じゃあこの校舎、あと一カ所だから頼もうかな。私、六年生のほうに」
鏡「はいよ。おわったら知らせにいくわ」
花子「うんっ」
お互い左右に別れる。
鏡、立ち止まる。
鏡「――花子」
花子「……ん」
鏡「なにかあったら、呼べよ」
花子「……? ああ、うん。ありがと」
再び歩き出す。
★場面7――六年生校舎。
花子「……?」
なにやらトイレのほうから声が……
花子さん、近づいていく。
のぞいてみると、中には彩香と男子2人。
E「謝罪がたりねえよ。なに俺達より後に来てんだよ。待ってろって言ったよなあ」
彩香「ごめんなさい……ごめんなさい」
Fが彩香をなぐる。
F「心がこもってないだろ。人待たせといて、なに被害者ヅラしてんだよ」
E「ムカツクんだよお前。今日は朝までトイレに入ってろよな」
F「はははっ。お似合いだなあコイツに」
花子さん真剣な顔で、ギリッ、と歯をかむ。
しかしその時、向こうから彩香の担任教師が歩いてくる(一応、戸締まりをしている設定)。
花子さんは、さっと身を隠す。
先生、トイレの中に気づいて。
先生「お~い、なにしてる」
D「あ、ああ、なんでもありません先生」
E「もう帰るところです」
彩香、頬を腫らした顔で先生を見つめる。
先生「……そうか。早く帰れよ」
彩香「……!!」
D「はい先生。さようなら」
先生、ブツブツ言いながら廊下を歩いて行く。
先生「教師は忙しいんだ、ガキの喧嘩にかまってられるか。ったくイジメられるなんて情けない。可愛い子ならともかく、わざわざあんなの助ける理由もないしなあ」
花子さんの表情が変わる。
D「ぎゃはは、これって公認ってことだよな? 先生もお前が悪いってわかってんだよ」
E「とにかく朝まで、トイレでるなよ。便器に水だってあるんだから死にはしないだろ」
D「夜中、トイレの花子さんに、食い殺されたりしてなっ。あはははっ」
彩香、ドンと男子の肩を押す。
D「……な。てめえ」
彩香、唇を震わせて。
彩香「花子さんは、そんなこと……しないっ」
前髪で目を隠すようにうつむいた花子さん。
花子「ありがとう……でもね……わたし限界みたい」
……ニヤリと不気味笑う。
★場面8――学校。(階段前)
先生、階段をおりようとしている絵。
後ろに、まるで形相の変わった花子さん。
先生は背中を押され、階段を転がるように落ちる。
気は失っておらず、下から階段の上を見上げる。
花子さんが見下ろしている。
花子――霊王モード。
睨みつけるような目に、不気味に笑う口。
花子「死ねよ…自分で舌を…噛み切って。それとも私が抜いてやろうか…その舌を。縫いつけてやろうか…その口を。潰してやろうか…心臓を」
先生「わ……わ……うわああああっ!!!」
花子「…くすくす。気持ちいい歌ね、それ」
教師、走り去る。
鏡が、そんな光景を見る。慌てて花子に声をかける。
鏡「は、花子おまえ……また」
花子さん、無視するように歩き出す。
鏡「花子っ!! 待てっ!! ……ちっ、意地でも止めるぜっ!!」
鏡――戦闘モード
花子「ふふふふ……とめる? わ・た・し 、を?」鏡を見る。「……オマエ消すよ?」
鏡、衝撃波のようなもので跳ね飛ばされ、壁にぶつかる。
鏡「……くそ……っ」
★場面9――六年生校舎。
再びなぐられる彩香。
E「膝ついてあやまりやがれっ!」
F「だれに逆らってんだよっ! もう許さねえぞっ!」
彩香、泣きながらトイレから走って逃げる。男子、それを慌てて追う。
――やけに世界が暗い。
出たところで、彩香は足をとめている。
男子も足をとめる。
異形の花子が廊下にいる。こちらに近づいてくる……
彩香、呆気にとられながらも花子さんを避けるように壁側に寄り、ペタリと座りこむ。
花子さんは彩香を気にかけることなく通りすぎ、男子に近づいていく……
彩香(――アレは去年、私が見た……幽霊)
でも……今日はわかるよ……
あれは……花子さん……
★場面10――音楽室。
フラフラしながら鏡は音楽室へ。
中には由紀と兵隊さんのところへ。
由紀「あ、鏡おはよー……って」
兵隊「か、鏡さんっ。どうされましたか」
鏡「できるだけ幽霊を集めてくれ。花子が霊王モードにはいった……とめねえと」
兵隊「なんとっ」
由紀「霊王?」
鏡「お前はまだ知らないな。彩香ちゃんが去年見た赤黒い幽霊は、花子だ」
由紀「……!!」
鏡「花子がなぜ死んだか知ってるか」
由紀「う、ううん」
鏡「――イジメだ。花子は、残虐なイジメで、トイレの中で死んだ幽霊だ。今でこそあんなだが、初期の花子は、それはそれは怖い幽霊だったらしい」
兵隊「ええ。憎悪でおぞましいものでした。……でも、長くこの世界にいることで、本当に少しずつですが落ち着いてきました」
鏡「しかし近年、社会的にイジメが増えた。花子はそれで、昔の憎悪を思い出しはじめてる……」
兵隊「我慢はしているみたいですが、ある日……突然の暴走状態に陥るようになりました。もっとも本人に記憶はありませんので内緒にしてますが」
鏡「霊王モード。黒霊の奴がそう教えてくれた。くわしくは知らないが……その状態でいる時間は寿命を消費するらしい……だから誰かが……とめなきゃならねえ」
由紀「でも、どうやって」
鏡「わからん。いつも暴走する花子と戦いながら、呼び掛けることしかできない。効果があるのかないのか、しばらくすれば、それでおさまる」
由紀「じゃあ、はやく……はやく行かなきゃ」
鏡「ああ。だが由紀、お前は待て。お前は音楽室の地縛霊だ。離れられないだろ」
由紀「行く。行くよっ。私も行くにきまってるじゃんっ!」
兵隊「しかし由紀ちゃん。無理に離れれば、ペナルティが……。寿命はあと2日。それではダメージにたえられません」
由紀、一度ぐっと唇を噛んで――
由紀「ばかっ! あんた達知らないの! 花子は私達のリセットのために、自分を犠牲にしてんだよ! こっくりさんだってね、必死に助けようとしたんだよ! だから私、言えないんじゃない! ここにいたいって! 花子が無理すんのわかってるから言えないんじゃない!」
鏡「ま、まじかよ」
由紀「なにがペナルティよ! 一度死んだ私が、そんなの恐れるわけないじゃない! ……ねえ、はやく花子助けようっ! 花子の寿命、あまりないような気がするの」
兵隊「た、確かにそれが本当なら、花子ちゃんはずいぶんペナルティを背負ってるでしょうね」
鏡「由紀」
由紀「なによっ」
鏡「わるかった。来いっ」
★場面11――六年生校舎。
男子は走って逃げるが、扉に行き止まる。扉は開かない。
花子さんは後ろにせまっている。
男子はガクガク震えている。
E「やめろよっ、くるなよっ。お、お母さあああんっ!」
F「し、死にたくない、死にたくないよっ。助けてっ」
花子さん、にちゃりと笑う。
花子「ああ…いいのよ。それでいいの。もっと歌って」
近寄ってくる。
E「うわあああっ!!」
花子「そうよね。ご褒美が必要よね。四肢切断、内蔵破裂、眼球突出、関節破壊……くすくす……さあ選びなさい……気持ちいいわよ……どれも……本当よ? 本当だから……ねえ……はやく……くすくす……はやく!!!」
F「くるなよおおお!!!!」
何人かの幽霊が駆け付ける。
全員――戦闘モード。
しかし全員が跳ね飛ばされされる。
由紀「花子……」
そこに彩香が来る。
彩香「花子さんっ」
花子、反応を見せる。
彩香「死んじゃうよ……それ以上やったら死んじゃうよ。わかるよね花子さん」
花子「……」
彩香「ずっと噂で知ってた。花子さんのこと。学校怪談の最恐幽霊、トイレの花子さん。……でもね、おばあちゃんが小さいころから何度も教えてくれた。――花子さんは人を殺さない。人の死は、それだけで終わらないから。殺したほうも殺されたほうも不幸になって、その周りの人達さえも飲み込んでしまうから」
花子「……」
彩香、涙を流す。
彩香「……自分の親が心を病んだのを知ってるから。自分をイジメていた人が、その後、自殺したのを知ってるから……みんな知ってるから……って。だから私、花子さんに会いたかったんだよ。平気で死ねって、殺すって口にする人間よりも素敵だと思ったよ。放課後の暗くなった校舎だって、花子さんに会えると思ったら、怖くなかったよ」
回想
彩香が握手のために手を差し出しているシーン。
――花子さん、普段の姿でその場に倒れる。
各々、花子っ、と近づく。
兵隊「……!! 息してませんっ」
彩香「うそっ」
鏡「死んでるからな」
兵隊「ああそうか。ややこしい」
鏡「……一応、大丈夫みたいだな」
由紀「ああー……よかったあ」涙目
彩香「――っ!! みなさん……これ」
彩香が2人の男子を見ている。
皆も忘れていたが視線を向ける。
男子は恐怖をうけた時のままの表情で、空中を見つめたまま、まるで氷のように固まっている。反応はない。
彩香「どうなったの? 死んだの? これはなに?」
鏡「まじかよ、花子の奴やりやがった」
彩香「え? え? 死んだの?」
兵隊「いいえ、死んでいません。じきに回復します。ただ、超えたのですよ、恐怖を……」
鏡「……オーバーテラーだ」
★場面12――音楽室。
花子さん、目を覚ます。彩香と色々な幽霊が集まっている。
由紀「起きた起きた。よかったあ、夜明けまでに起きてくれて」
花子さん、起き上がる。
花子「――私」
彩香「花子さんっ」
花子「彩香ちゃん。――私」
彩香「いじめっ子、こらしめてくれてありがとう」
花子「ああ……そっか。でもなんでだろう。覚えてない」
鏡「リセットがんばりすぎなんだよ。疲れてたんだろうな。終えたらバッタリ倒れたんだってよ」
花子「……そう。疲れたのか。幽霊なのに、私って変ね」
絵画「でも、ずいぶん張り切ったみたいじゃないか」
由紀「花子、今日のリセット、オーバーテラーだって」
花子さん、大きく反応して由紀を見る。
花子「オーバーテラー。私がやったの?」
「ええ、あなたです」と声。
黒霊が現れる。
水野「黒霊……いつも急だな」
黒霊「見事なリセットでした」
花子、はっとする。
花子「じゃあ、由紀は助かるのね。消えなくていいのね」
シーンとなる。皆、少し悲しい顔をする。
鏡「花子が忘れてるわけじゃないだろ。オーバーテラーは本来、階級が上の奴らを助けるためにある。リセットされるのは上から順だ。……確かに見事な突破だったが。E級の由紀までは届かなかった」
花子「そんなっ……嘘よ」
黒霊「嘘ではありませんよ。本日のオーバーテラーで由紀さんがリセットされることはありません」
花子「なんでっ……じゃあ私はなんのためにっ」
黒霊「そこの人間を助けるためでしょう? これには逆にペナルティが発生しますよ。花子さん」
花子「……そんな。由紀」
由紀「何度も言ったでしょ花子。私は大丈夫。これがルールなんだもん」
花子「……嫌だよ……由紀」
黒霊「――しかし」と人差し指を立てる。「由紀さんはまだ消えませんよ」
花子「え?」
由紀「は?」
黒霊「寿命はあと半年ありますから」
鏡「なんでだよ。確かにあと2日だぜ」
黒霊「確認済みです。確かに昨夜はそうでした。しかし由紀さんは深夜のうちに、リセットに成功しています」
一瞬、シーンとなる。
はっとする花子。
花子「――あっ」彩香を見る。
彩香「――そうか、私だっ。私、音楽室に来た時、由紀さんがいきなり戸を開けたから、怖かった……」
回想
由紀が戸を開け、きゃあ、と彩香が叫んだ場面。
由紀「あ……ああ、アレか」
水野「いやでも、文句はないが、そんなのアリなのか。あれは怖いっていうより、驚いたって感じだった。人間が来たのも、花子が呼んだようなものだ」
黒霊「いいえ、確かに恐怖の感情が強く含まれてました。まあ、確かに判断が微妙なレベルでしたが……今回はよしとしましょう。人間の件にしても、花子さんからはペナルティを回収済みです」
由紀「や……やったあっ。まだいれる……まだみんなといれる……やった」
鏡「もうリセットさぼるなよ」
由紀「うんサボらないっ! 鏡イケメン大好きっ! 兵隊さん鉄砲イカしてるっ! 絵画さんも芸術的っ! 水野で泳ぎたいっ!」
鏡「なに感情爆発してんだよ」
花子さん、黒霊を真顔で見つめたまま動かない。
絵画「どうした花子。うれしくないのか」
花子さん、立ち上がって。
由紀「は、花子?」
花子「――黒霊」
黒霊「……は、はい?」
花子「じゃあ! 朝! 屋上でいいなさいよ! なにこんな乙女をもてあそんでるのよ! ばかっ! 黒っ! 黒んぼ星人!」
黒霊「……星人って……小学生ですか」
花子「小学生ですっ!! だてに何十年も生きてませんけどねー!!」
水野「落ち着け花子。自分で乙女とか言っている」
花子「最っ低! 帰れ黒んぼ!」
黒霊「え……ええ? いや今回は、人間と夜中に一緒にいるのはいかがなものかと忠告しに……」
花子「知らないよっ! 心まで真っ白くなってから出直してきなさい!」
鏡「確かに黒霊、今回のはヒドイぜ」
水野「S級鬼畜だな。」
由紀「彩香ちゃんも言ってやれっ!!」
彩香「く……黒んぼ星人っ!!」
黒霊「――やれやれ。真っ白にはなれませんが、出直すとしますか」
鏡「よーし花子、オーバーテラーでずいぶん稼いだだろう? 今夜はお前のおごりだ」
花子「うんっ。好きなもの言って。内蔵売ってでもお金用意するっ」
水野「花子、怖いことを言っている」
兵隊「由紀ちゃん。彩香さんにピアノを聴かせたいと言っていましたね」
由紀「まかせてっ。得意な曲やるから」
鏡「お、なんだよ」
由紀「ショパン、別れの曲♪」
絵画「今夜は別のにしとけっ!!!」
貞子「……ふふふ。なかなかの出来よ」
花子さん、優しく微笑む。
★場面13――学校のトイレ。
――夕方。
男子小学生がトイレに入ってくる。
トイレの戸、ひとつは閉じている。
G(……おかしいな。こんな時間なのに)
すると……
キイィィ……と開くトイレのドア。
G「……わっ」
花子「……私は花子。トイレの花子さん」
G「あ、そう。ここ男子トイレだぞ」
花子「リセット失敗っ!!!(泣)」
~ 了 ~
RESET GHOST♪ ~リセットゴースト~ ウニ軍艦 @meirieiji
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