後話 オペレーター

 開発は難航した。あれから一日ずっと研究室にこもっていた。

 というか開発して分かったのは、あれはただの太陽フレアだった。

 お弁当の差し入れはあったが、外に出る暇がなかったのでレストランのセールを逃してしまった。

 所々で仮眠は取っていたので元気ではある。疲れはすごいが。

 昨日食べ損ねた唐揚げ定食でも食べにレストランに行こう...。


 レストランに着き、自動ドアが開く。そこからは聞きなじみのある声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませー! あ、タクミじゃん! 開発終わった?」

 ミーシャが今日の従業員だった。

 基地内のレストランは基地所属者の当番制で営業されている。

 給料にレストラン手当が加わるのでウハウハだったり。

「まあ何とか。」

「それならよかった。そういえば研究でセール逃したよね。上からタクミはセール価格で販売してって言われたから割引してあげるよ」

「マジで!? じゃあ唐揚げ定食ごはん大盛の野菜増量で」

「了解! ちょうど唐揚げが揚げ終わったからすぐ出せるよ!」

 どうやら今日は運がいいらしい。やったね。


 思い切って頼んだら、胃が悲鳴を上げている。

 食べ過ぎた。

 食後の運動がてら外を散歩することにした。

 駅から少し離れている出口から出て、少しあたりを散策。


 この辺りは小さいころによく散歩をした道で、よく知っている道だ。

 よく知っている道のはずなのだが、なの、だが。

 どうにも不思議な音がする。

 普通の音は聞こえないから、これは何かしらの特殊な音。

 聞いたことない音。これは何の音だ?

 なぜか聞こえてくる方向がハッキリとしている。

 俺を誘っているの?

 誘っているというのなら、乗るしかないか。


 音の聞こえる方向へ進んでいくと、そこには小さな山があり、上に続く階段があった。

 この上から音は聞こえる。歩けば歩くほど音は大きくなる。ここで間違いない。

 あかりのない階段を昇っていくと、踊り場に出た。

 音は確実にここから聞こえてくる。でも何もない。あるのはベンチのみ。

 コンクリートから音が出るはずもないし、かといって何度見ても何もないし。

 謎。

 ・・・ん? 音が鮮明になってきた。これは、んー?

 文章...?

「ね.........あしt.........oくじょう............て..................まってr......」

 少女の声?

 少しだけ聞こえたけどパーツが少なくて何を言ってるかわからない...。

 屋上って言った? うーん。


 結局何言ってるか結論がつかずに、次の日を迎えた。

 今日はレストランの当番日だからほとんど行動はできない。

 賄いをたくさん食べるだけ。


 疲れた...。

 途中でミサがやってきてめんどくさい注文をされて、作るのがすっごく面倒で変に疲れた。

 唐揚げ定食、揚げたて、サラダトマト入り、ご飯炊きたて、お皿洗い立て、衣多め、お肉大きめ。注文が多すぎる!

 もちろん逆らう権利なんて俺にはないからおとなしく作ったけど、100円手数料取っておいた。

 この基地はいろいろ緩いので、こういうことをしても許される。

 ミサには変な顔されたけど。訓練メニュー過酷になりそうだな。・・・やらない方が良かったかも。

 気を取り直して、今日はいつもの屋上に行こうかな。


 いつも通り近くの出口から基地を出て、屋上につながる階段のドアはロックされているのでIDカードをかざし、階段を昇っていく。

 だが、あと3階上がればというところで昨日聞いた音が聞こえてきた。

 昨日より音が鮮明になっている。

 屋上のドアを開けると、謎の水色のオーラがあたりを照らした。

 進んでいくと一人の少女がいた。

 この世にはないような発光をしている服を身に纏い、少女の周りにはオーラが凝縮されていた。髪は銀っぽく、でも人の髪とは違った光の反射をしている。

 すると気が付いたのだろうか、こっちを振り向き口を動かす。

「ん、来たね。元気? タクミ。」

 少女の声なのだが、やけに体に染みる。

 何かが浄化されていくような。何かが体の中に入っていくような。

 少女はゆっくりこちらに向かって歩いてくる。いや、少し浮いているように見える。

「最近、日本に脅威が近づいてきている。その脅威には普通の攻撃は効かない。だから、タクミ。戦って、くれない?」

 噂で聞いたことがある。

【第六感異常進行病を発症した者の中に、まれにオペレーターと出会う者がいる。】

 と。もしかしたらこの子がオペレーターなのかもしれない。

「まあ、冗談なんだけど。」

 なんだ冗談か...ん?

「戦うって言うのは冗談。ただ、私のあるじになって欲しいだけ。」

 やっぱりオペレーターなのかな...。

『ちなみに私はタクミの思ってる事ぜーんぶ丸わかり。私の主だからわかって当たり前。』

 は、はあ。今のこれは確実に頭の中から聞こえましたけど。

「日常茶飯事だよ。」

 どっちで喋るか固定してくれ!

 ・・・というか俺はなんで声が出せないの?

「私とタクミをリンクさせてる最中だから、一切身動きが取れない。声帯も動かせない。内臓はさすがに動いてる。」

 不思議な力とでも思っておけばいいのかな。

「そ。そのうち慣れる」

 は、はあ。

「私と普通に生活を送ってほしいだけ。簡単。」

 そうやすやすと言われましても。

「ということでお邪魔します」

 急にこっちに近寄ってきたかと思いきや、俺に触れて姿が見えなくなってしまった。

『基本的には私はタクミの中にいる。主の中は居心地がいい。』

「まあまあ困るんですけど!」

 あれ、喋れてる。

『私が中に入ったからタクミの行動制限消えた。ただそれだけの事。さ、早く行こうよ。SSOGA見てみたい。』

 振り回されてる気がする。



「ZZZZZZZZZZzzzzzzzzzzzzz.......」

「タクマ、朝だよ」

「ZZZZZZZZZZZZZzzzzzzzzzzzzzzzz..........」

「起きない...。おーーーーい。」

「ZZZZ.....むにゃむにゃ......ZZZZZZZZZzzzzzzzzz.........」

「タクマ、お寝坊さん。どうしたことか」

 タクマが全然起きないことはわかってたけど、まさかここまでとは。

 どうしたものか。

 ん、ドアが開いた。

「おっはよーたくまー! かわいいかわいいミーシャちゃんがおこ、し、に、き、・・・。誰だお前! タクマに何してる!」

 だれこいつ。

「あ、もしかしてオペレーターちゃん?」

「ん、よくわかったね」

 ここにいるから、こいつもSSOGA隊員なのか。

 私の正体もわかったということは、結構やる、こいつ。

「ついにタクミもオペレーター持ちになったか~。ねね、名前はなんていうの?」

「名前。私、名前ない。」

「まだつけてもらってないのか。じゃあつけてもらわなきゃね。起きろタクマ!」

 こいつ、思いっきりタクマのお腹殴った。

 痛そう。

「ぐっ、ゲホゲホ。あ、相変わらず、重い。」

 辛そう。

『大丈夫?』

『いつものことだからそんなに気にしないでいいよ。大丈夫じゃないけど。』

『そりゃそっか』

 つらそう。

「起きないのが悪いんだからね。オペレーターちゃんの名前も決めないでスヤスヤ寝て!」

 別に、寝ることのほうが大事だと思うけど。

「そう簡単に名前思いつくわけがないじゃん...。」

 責任、感じてる?

 重く考えなくていいのに。

『名前くらい適当でいいって思ってる? 名前をそんなに簡単に捉えないでよ。』

 ん、わかった。

「直感で考えればいいんだよ。気に入ればそれでいいの。」

『タクマ』

『うん?』

『こいつの名前何』

『こいつって。ミーシャだよミーシャ。』

 ミーシャ、覚えた。

『ミーシャは友達?』

『友達というか、幼馴染かな。』

 幼馴染。なんか、いい。

「ね、ミーシャ。」

「んー? どうしたの?」

 呼び捨てしても怒らない。やさしい。

「ミーシャはオペレーター、いる?」

「いるよ~。」

「え、いるの!?」

「タクミに言ってなかったっけ。」

「聞いた覚えない!」

「あはは、ごめんごめん。」

 なんか、夫婦みたい。仲いい。

「名前思いついた!」

 ん、楽しみ。

「名前はラキね」

 ラキ...。いい名前。

「私、今日からラキ。えへへ。」

『かわいい』

 っ!///

 タクマに、か、かわいいって、言ってもらえた。

 ん~~~///////////////

「改めてよろしくね、ラキ。」

「ん、こちらこそ、よろしく。」


 二人の生活はまだ始まったばかり。

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6引く1のSense 嗚呼弥 @aya_syosetu

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