6引く1のSense
嗚呼弥
前話 聴覚異常
―――
「コツッ、コツッ、コツッ。」
上っている音が響いているであろうこの階段。
長い階段を上っていくと、そこにはきれいな夜空が広がっていた。
夜風が吹き、風切り音が耳に響いていそうな風。
―これらの音はすべて憶測でしかない。
なぜなら、一部を除き、音が聞こえないから。
・・・そう、一部を除き。
―――
ある金曜日の午後11:00ごろ。
俺は渋谷にある高層ビルの非常階段を上り屋上にいた。
人がいない高いところで夜景を見るのが好きだから、月一回はこのようにして自分だけの空間に来る。
気持ちをリセットできて楽になるからだ。
まあ、こういうことをしないと気持ちのリセットができない環境を先に直した方がいい気もしないでもないが.....そこは気にしないでおこう。
上を見れば綺麗な夜空。下を見れば帰宅途中の会社員、カップル、ホストの客引き、夜ご飯をどこで食べようか迷っている外国人。
いろんな風景や人。いつみても飽きない。
「ウーッ、ウーッ。」
左手につけているスマートウォッチがバイブレーションした。
通知を見ると、
『やっほー♪ どうせ今日もどっかの屋上で夜風浴びてるんでしょ? どうせ暇なんでしょ? ちょっと付き合ってくれなーい?』
・・・はあ。
この通知はミーシャからの
めんどくさいし、ここに来たばっかりだからもう少しのんびりしてから行くことに.....。?
何か後ろから殺意を感じる。それもとてつもない大きさの。
恐る恐る後ろを振り向くと、・・・。スーッ、ハーッ。
現実を受け入れられないというわけではないのだが.....なんで?
「あ、あのー、な、何の御用でしょうか、ミーシャさん。」
不機嫌そうに腕を組んでいるミーシャがそこに立っていた。
殺意が、誰がどう見ても殺意がすごい。
「君さ、乙女のお誘いをすっぽかそうとしたよね?」
ミーシャにはやろうとしてることがなぜかすべてばれてる。
今にもポケットから凶器を出しそうな殺気を感じる。
夜風の寒さが体を突き刺す。
「ほら、ここにいるってことは暇なんでしょ? 速く基地行くよー。」
目に見えない速度で目の前まで迫ってき、抵抗する暇もなく服をつかまれ、引きずられていった。
強引なうえに身体能力お化けだから、運動を全然しない俺はとてもかなわない。
コードネーム:ミーシャ
性別:女子
職業:大学生
異常五感:視覚
第六感詳細:喜怒哀楽を色で見分けられる
五感影響:喜怒哀楽以外モノクロ
人の目なんて気にせずに引きずられること約15分。
13階建てのオフィスビルに着いた。
ここは一見すると普通のビル。
中も普通のビル。
だが、地下にはSSOGAの活動基地がある。
もちろん関係者以外は立ち入ることができない。
Sixth Sense Over Growth Acceleration 通称:SSOGA
もう少しネーミングを何とか出来た気がするのは置いておこう。
この組織は『第六感異常進行病』を発症した人のみが所属をし、研究などを通して症状を軽くしたり、五感異常をすり抜けられるようにする機械を開発したりと、第六感異常進行病関係の重要な組織だ。
さっきミーシャの声を聞き取ることができたのも、研究して作った機械のおかげだ。
ちなみにこの組織は世間には非公開である。
表向きは大手家電メーカーSOGAでやっている。
SSOGAは政府直属の機関でもある。
外交の際にSPとして同行したり、データ提供を受け研究に役立てたり。
第六感異常進行病は何もすべてが悪いというわけではない。
お偉いさんの警護に役に立つ異常もある。
役に立つ異常って矛盾してるように見える。
ビルの中に入ると、やっとつかむのをやめてくれた。
エレベーターホールへ歩いていき、6台エレベーターが並んでいる。
しかしすべて地下にはつながっていない。
エレベーターホールの端にはドアがある。
そこにはスキャナーキーの扉がある。
スキャナーにスマートウォッチをかざす。
人によってキーの種類は違う。
―スキャン完了。
―おかえりなさい、タクミ。
「ただいま」
これで扉のロックが解除される。
扉を開けた先には1台のエレベーターがある。
下ボタンを押し、エレベーターに乗車した。
エレベーターはどんどん下がっていき、チャイムとともに扉が開く。
そこには、SSOGAの活動拠点が広がっていた。
この活動拠点は地下にのみ広がっていて、一切地上には部屋はない。
広さはおおよそ東京駅20個分。広すぎ。
広すぎて基地内でキックボードは必須。
乗り物に乗らなきゃ移動に数時間もかかってしまう。
その代わり出入口は複数用意されている。
地上で公共交通に乗って移動して、別の入り口から入ったほうが速いのは静かにしておこう。
SSOGAに所属する人はみんな第六感異常進行病を発症しているので、中には普通の職場で働くことが難しい人がいたり。
病のせいで学校でいじめられた人も多数いる。
そのため、外の世界で活動することがトラウマの人が少なくない。
組織から給料が出るので、みんな生活は不便ということはない。
基地内に居住区もあるのでそこに住むこともできる。
地下なのに家からお店、研究所までそろっているのは恐ろしい。
ここまで聞くと何もしないでお金をもらっているようにも思うかもしれない。
一応裏組織なので批判する人がいないのは置いておいて、何もしていないわけではない。
病を研究し、治療法を模索したり、日常生活に役に立つものをつくったり。
日常生活で役に立つものはSOGAから発売される。
Sense Over Growth Accelerationの略ではなく、Sense Original Growth Accelerationの略。
『その人の個性の成長を手助けする』という意味があるらしい。
こっちの方が格好いいのにね。
ということは置いておいて。
そんなわけで一応働いてはいる。
「タクミ? もう着いてるよ? 降りないの?」
先に降りたミーシャが不思議そうにこっちを見ていた。回想に夢中になってたから全然気づかなかった。
「今降りる」
足を進めてエレベーターを降りると、床に文字が表示される。
おかえりなさい。
本日は和食レストランが10%引きセールをしております、どうぞご利用ください。
メールが3件届いています。
研究所No.3からお知らせが届いています。
【やってほしいことがあるから、空いた時間に顔を見せてくれ。】
この基地は広いため情報共有が大切になる。
そのため、このように床に情報を表示してくれるシステムが構築されている。
今日の夜ごはんは唐揚げ定食かな。
あそこの唐揚げ美味しくてデカいから最高なんだよ。
っと。ミーシャを放っておいたら殴られる。
「研究所に顔見せに行っていい?」
「呼ばれたの? もしかしてあの人?」
「うん.....」
「じゃあ行かないとぶっ飛ばされるね! 行こうか。」
下に書いてある文字はその人しか見れないようになっている。
なので俺はミーシャのは見えないし、ミーシャは俺のは見えない。
最近の技術は怖い。
技術研究部門の人に仕組みを聞いたことがある。
「んー? あーこれはねー、有機ELの光量と遮光を上手い具合に調整してやって、それを見せたい人の目線と合わせてあげることで、ほかの人が見えないようにしてるんだよ~。悪用は厳禁だぞ? 私にはいくらやってもいいがな! あとでキッツーイお仕置きが待っているが」
と言っていた。
その人こそ、研究所No.3に配属されている人だ。
SSOGAに配属されたころから、俺の面倒を見てもらっている人で、お母さんのような存在ではあるのだが.....。
何というか、そのー。
「遅いぞタクミ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
研究所の方から叫びながら走ってくる一人の人間がいた。
その人間こそ、俺の母のような存在の、ミサだった。
通路にいる人を、すべてなぎ倒しながらこちらに向かっている。
止めるすべはない。これは言い切れる。
「ガンバレたーくん!」
どうやらミーシャは何もしてくれないようです。
俺、死んだかな。
「ほう、微動だにしないとはなかなか勇気あるな」
勇気があるわけじゃないんですよ。どんな行動をしてもどうせ負けるんですよ。
「覚悟しろ!」
全ての可能性という可能性を探った。
導かれた答えは、
俺、死んだ。
みるみる近づいてきて、地面をけり、俺の脇腹を思いっきり蹴った。
うん。痛い。
反動に耐えられずに吹き飛ばされて地面に引きずられた。
止まったところで、馬乗りにされて俺は動けなくなった。
うん。冷静に解説してる場合じゃないんですよね。
蹴られた時点でもう何もかもおかしいんですよね。
「おーいタクミー? 返事の一つくらいよこしてもいいんじゃないのか―?」
ご機嫌斜めのようにも見えるけど、これが正常なんだよな。
「今行こうとしたんだよ。すぐ行くんだから返事いらないでしょ。」
これでミサが納得するはずがない。
「ほう、私に歯向かうとはいい度胸だな。今この場で襲ってやろうか。」
この人は襲うとか平気で言ってくるから怖い。ちなみに三回くらい実際に実行されたこともある。
布団でぐっすり寝ているところに襲い掛かってくるのは、抵抗のしようがない。
「ミーシャがいるんならそんなことはしないがな。元気だったか。」
「ええ、おかげさまで。」
俺を椅子にしていることなど何も気にせず世間話を始めた。
重いんですけど。
~20分後~
「54番出口の新しくできたあのカレー屋さん美味しいよな!」
「実はあそこまだ行ったことないんですよね。」
「本当か? 行かないと損だぞ~」
終わらない。終わらなさ過ぎて、もはや重さに慣れてしまった。
「ミサさん、そろそろ降りてあげてもいいんじゃないですか?」
おそらくここまで言わないで、俺のこの姿を楽しんでいた。
そして今更言った。
「おっと、長話もこれくらいにしておこうか。さてタクミ。本題に入ろうか」
「本題に入る前に降りてくれませんかね。」
「嫌だ。」
ゑ? 嫌って、えぇ?
「商品開発部門から依頼が入ってな。少し手伝ってほしいんだ。」
SOGAで研究から商品開発をしたいときは、SSOGAの研究室を通して行われる。
基本的な設計はSSOGAが担当し、デザインなどはSOGAが担当する。
SSOGA基地とSOGA本社はつながっているため、すぐに担当者は来れるようになっている。
ただし、SOGA従業員でもSSOGAのことを全員知っているわけではなく、教えられるのは上の役職の者のみ。
SSOGAは秘密機関なので、だいぶ緩いが情報規制はされている。
「今回はなんです?」
「ああ、今回はイレギュラーだ。市販される機器ではない。」
話し方が変わった。ミサはやるときはやる。今はそういう時らしい。
「一週間ほど前から、全世界の全ての気象台で怪しい予兆が検知されているらしい。例外はない。その予兆の解析ではなく、予兆だけを検知する機器の開発だ。」
普通じゃない。いつもならこんな依頼は来ない。
「予兆が何なのかもまだ解析が終わっていない。今のところ何も起きてもいない。今できることは解析と検知装置のみ。ということで依頼が来たということだ。SOGAを通じて来たのは、世界各国からSOGAを経由して依頼をしているからだそうだ。政府を通せば早いものを...。」
今この地球に何か変化が起き始めているのかもしれない。
でも一つ疑問がある。なぜ気象台なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます