1章1話

 ミッドガルドの北に位置するトゥア国は王太子テウタヌスは秘書官ヒャルゴと兵士30を伴い隣国豊かなる国グロッティと親交を深める為に国を離れていた。

 問題なく会談も終わりテウタヌスたちは帰国したが6日ぶりの国は悪夢のような姿に変わっていた。

 「殿下!」

テウタヌスは呼びかけになにも返せない。ただ燃やし尽くされ雑草すらなく地面が燻りをあげる国土を見ていた。これは酷い悪夢だとテウタヌスは惨事を受け入れたくなかった。

 本当になにもない。

 —寒い中に暖かく和やかな空気を放つ民も

 —小さく咲き乱れる花も


 ない


 テウタヌスはひどくゆっくり瞳を動かしヒャルゴや兵士たちをみた。全員に驚愕と恐怖が表れている。その様子にテウタヌスは目を閉じ細く息を吐きだし心を静めた。

 ―落ち着け……私は王太子だ。しっかり導かなければならない

テウタヌスは

 「……城にいくぞ」

ヒャルゴと兵士に言った。いつものように芯のある声にヒャルゴ達ははっとなりテウタヌスをみた。しかしテウタヌスの目には哀傷の夕暮れの影があった。いつもの夜明けを抜き取った琥珀の瞳はどこにもない。

 テウタヌスは落ち着かない愛馬アキルスを一つ撫で、跨りヒャルゴと兵士を率い城にはしらせた。



 トゥア国の都は暖かな色を意匠とした石造りが特徴であり、城は岩山を削り構えた白城だ。行商人や他国から訪れたものは厳かで力強い白城の姿にに感動したものだが、焦げと煤で汚く黒に染まり白城は無残な姿に変わり果てている。

 「誰かいないか! いたら返事をしろ!」

テウタヌスは声を張り上げ生存者を探す。敵が潜んでいる可能性もあるが生存者を見つけることが重要だ。テウタヌスが何度も声を張り上げるが黒と化した都から声も音も帰ってこない。

 —人の声

 —鳥の声

 —動く音

 —風の音

本当の静寂がテウタヌスの前にあった。この静寂はテウタヌスの心をかき乱した。それはテウタヌスを守護するヒャルゴたちも同様で、剣を握る手に汗が滲んでいる。

 

 緊張の中、都の奥にそびえる白城にたどり着く。リンゴの木が描かれた大門はなく開口がテウタヌスたちを招いた。足を踏み入れた城内は燃えていた。炎に巻かれた城は街に比べれば形を残しているが時間の問題であることはすぐに分かった。

 テウタヌスたちはこの炎の中に生存者はいないだろうかとわずかな希望を抱き、城に足を進めた。しかし近づくほどなにかの気配が濃くなる。    

 ―生き残りか…… 違う

その気配は人というには禍々しく、どろりとしていた。気配の正体を感じ取ろうとする間に気配は強くなり増えていく。テウタヌスは剣を抜き放ちヒャルゴ達のほうを向き

 「すぐにここから離れるんだ。南のエルフ クヴァシル卿の助力を乞え」

と命じた。

 テウタヌスは命に対してヒャルゴが言葉を返す前に続けた。

 「私はアストリの腕輪を取ってくる。お前たちはグロッティの国境で待機しろ」

 「殿下をひとりおいて行けというのですか!」

テウタヌスは悲壮な表情を浮かべるヒャルゴに

 「そして半日待っても私が来ないときはお前たちだけでクヴァシル卿のもとにいけ」

と命を追加した。この命にヒャルゴも兵士たちも息をのんだ。ヒャルゴは考え直してもらおうと口を開くが声は出なかった。テウタヌスの眼力に封じられたのだ。

 俯くヒャルゴにテウタヌスは申し訳ないと眉尻を下げ  

 「戻ることは許さない。決してだ…… よいな、ヒャルゴ」

と優しく言い聞かせるように言った。

 ヒャルゴは唇をかみしめ左手を心臓近くに添え、頭を下げる。そして絞り出すように

 「かしこまりました」

と命を受け入れた。

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セカンド ラグナロク 鳩田ぽぽ @hatodapopo

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