セカンド ラグナロク

鳩田ぽぽ

神話

太陽暦前…… まだ神々が存在していた時代。煌びやかな装飾を身にまとい、神々は平和な時を甘受していた。永遠に続くかと思われた平和は続くことはなかった。


 主神と神々が地下深くに封じた闇の神スペルが封印を解き、神々の前に姿を現した。封じたころよりも闇の力を増大させ平和におぼれた神々を次々にその闇で飲み込んでいく。

 光を反射しきらきらと輝く神々の宮殿は赤黒い色をまとい輝きを失い、美しい色の草花は炎に巻かれ消し炭と化した。闇に飲まれ倒れる神、姿を失う神、狂気に陥り神々で争い互いの命を消す神……一部の神々だけは武器を取りスペルに立ち向かった。

 灼熱の炎と闇を纏うスペルに躍りかかるが剣は溶かされ、槍はおられ。矢は届かず焼け消えた。神々の攻撃は炎と闇に消えスペルに届かない。自分たちの攻撃が意味をなさない様に神々は絶望をあらわにする。スペルはその表情をみて心から歓喜した。  

 その歓喜は炎の力を増幅され神々に燃え移り命を刈り取る。主神はその光景に覚悟を決め息子に戦場を任せその場から去った。


 -スペルをほかの世界に渡らせてはならない



 アスガルドは自分たちの次に生まれた世界であるミッドガルドを見守り、時に世界を渡り手助けをしてきた。この世界を渡る際に必要なのが世界をつなぐ橋であり、橋は鍵がなければ使うことができない。

 橋と鍵の守護を任されている神ヘイムは宮殿が燃える光景をただただ見ていた。スペルは宮殿に駆け付けて友を助けたいと思ったが自分の使命である橋と鍵の守護を放棄するわけにはいかなかった。早く炎が消え友が笑いながら話を聞かせに来る光景を望んでいたヘイムの前に主神が現れた。そのことにヘイムはひどく動揺し絶望した。

 「ヘイム!」

主神は呆然としているヘイムの肩に手を置き命じた。

 「ミッドガルドにゆけ。そして門を閉じるんだ」


 「・・・・・・」

ヘイムはすぐに返答することができなかった。一生、命じられることはないと思っていた。この命はこの神々の世界の終わりを知らせるものだ。

 「もう長くはもたない。スペルに滅ぼされるのはこの世界だけで良い」

 「かしこまりました」

ヘイムはそれだけ言うとすぐに主神に背を向け、薄い反射する虹のような光を発する橋へと走った。

 「頼んだぞ、ヘイム」

主神の最後の言葉を背中で受け止めヘイムは走った。


 「さらばです」

 


 橋を渡りミッドガルドに着いたヘイムは主神からの命を果たすために橋の鍵であるテインの剣を鞘から抜く。岩しょうに照らされる神々の文字が彫り込まれた台座の溝に突き刺した。

 テインの剣を突き刺した瞬間、ヘイムはひとりになった。橋が消えアスガルドとのつながりが完全に切れ、もうアスガルドに戻ることも友に会うこともない。ヘイムはただひとりミッドガルドの小さな火山島でテインの剣を守護し続ける……


 その守護は永遠には続かなかった。橋を封印してから数百年、ヘイムはスペルの甘い言葉に誘惑され、テインの剣を台座から引き抜いた。すぐに誘惑を振り払いテインの剣を台座に戻そうとするがその前に炎が矢のように橋の向こうから飛びヘイムの胸に刺さった。

 矢は中からヘイムを焼き殺そうと熱を発した。食いしばった歯の間から血がこぼれ落ち、火山の熱に蒸発する。追い打ちをかけるように闇がテインの剣を折りヘイムは闇の力に慄いた。

 テインの剣は主神の手により鍛えられた至宝の剣。それを折ることができるスペルの力は主神を超えたということであった。折れて地面に転がった剣先が闇に飲み込まれた。


 「なんということだ…… これだけはスペルの手に渡らないようにしなくては」

ヘイムは残されたテインの剣を守るように抱え込み火山を出る。火山を出ると水平線が波打ち隠れるところなどなかった。ヘイムは自分の血を柄頭に塗りこみ


 「スペルの手に渡るな!テインの剣よ!この世界の滅びから逃げるんだ!」


テインの剣をミッドガルドに投げた。テインの剣は弧を描かず水平線より遠い空へ姿を消した。ヘイムはそれを見届け身の内から燃え尽きた。

 ―不甲斐ない自分に罰を……



伝承より

 ―闇の神スペルはミッドガルドを闇に染め上げ、上がる悲鳴、消滅する魂に歓喜した。すべての種族がスペルに立ち向かうがスペルに塵を掃うかのように消されていく。闇に飲まれる未来が確定したと思われたとき魔法使いがスペルからテインの剣を奪い取った。

 ―テインの剣が奪われた瞬間、力が抑圧されたことを感じたスペルは魔法使いから奪い取ろうとするがかなわない。その様に勢いづいたミッドガルドの民をスペルは忌々しく睨みつけ去っていった。

 ―ミッドガルドの滅びは去った。しかしこれは一時的なものだ……

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