Chapter 4
セキ「飲み過ぎたらだめだよ?」
マホ「わたし・・。笑わないでね、わたしとセキくんって似たものどうしだなって、ずっと思ってた。だから、いちど別れても、いつの間にかまた二人でいるんだろうなって。文芸坐で鉢合わせちゃったりさ、そうゆう巡りあわせがたぶんきっとあるんじゃないかなって。言葉にするとやばいね。でもほんとにそう思ってたよ、ここで会うまで」
セキ「・・文芸坐、行かなくなったなー」
マホ「わたしも行ってない。どこにも行ってない。・・本当はね、フィギュアを集めてるのわたしなの。家でお酒飲みながらヒロアカのアニメ見るのが生き甲斐なの。それが今のわたし。入社三年目で、嫌なこともできないこともたくさんあるし、もう辞めようかなっていつも思ってる。でも自信がないから、まだ働いてる。わたしの細胞が、日に日にかっこわるく作り変わっていく気がするの」
セキ「そんなことないよ、俺の方こそ」
ヤオ「ちがう。二人とも全然ちがう。(マホを見て)かっこわるいかどうか決めるのはあなたじゃない。他人でもない。あなたをいちばん見ている人が、あなたの鏡じゃないんですか」
マオ「・・」
ヤオ「アニメもアルコールも立派な文化です。それにあなたは妹を守りながら毎日働いている。自分ひとり生かすだけでも大変なのに、あなたは二倍支えている。胸を張ってください」
マホ「聞いてたの・・?」
ヤオ「店内でわたしに隠し事は不可能です」
ヤオ、ヒロアカの大きなフィギュアの箱を出してマホに渡す。
ヤオ「景品は渡します。でもセキさんは渡さない」
マホ「・・ほんと、いい性格してる」
マホ「わたしの妹、羽鳥シホっていうんだけど、もし大学で会うことがあったら、よくしてあげてね」
ヤオ「まかせろり」
マホ「セキくん。・・もう来ないと思う」
セキ「ちょっと。次のクラス会は出るから」
マホ「(笑って)じゃあね」
二人「ありがとうございましたー」
マホ退店。
セキ「ありがとう」
ヤオ「何が?」
セキ「マホのこと。あと、俺の曲、勝手に宣伝してくれてたこと。でももうやらなくていい」
ヤオ「店長もよかったって言いました。セキさんの曲」
セキ「店長にも聞かせたの」
ヤオ「セキさん気づいてないけど、店長もアーティストですよ」
セキ「え、」
ヤオ「紅白に出てる。氣志團だから」
セキ「マジか」
ヤオ「マジ」
セキ「俺と音楽性かけ離れてるじゃん」
ヤオ「そっち?」
セキ「ていうか、いやいや気志團とコンビニ店長の掛け持ちは無理あるよ」
ヤオ「綾小路翔以外は実は入れ替わり制になっているんです。だから、ばれないように、皆グラサン着けてる。店長から教えてもらいました」
セキ「ヒーローショーみたいだね」
ヤオ「わたし、気志團のおかげで変わりました。最初はジャニーズが好きになって、ジャニーズのテレビドラマを見ていたら突然氣志團が出てきた。見たことあるでしょ? こんなアヴァンギャルドな人達はこの国にいない、この人たちなら、わたしのこともピリオドの向こうに連れて行ってくれるってその時思った。中国の学校にいたとき、いつも息苦しかった。それで日本に来ました」
セキ、堪えきれず笑い出す。
ヤオ「なんで!?」
セキ「ごめん、」
ヤオ「人が真面目に話してるのに」
セキ「申し訳ない。じゃあ・・このシフトが終わったら、俺んとこ来ないか」
ヤオ、はじめて笑う。
二人見つめ合ってキスの距離。
入店音。
セキ「(たじろいで)いらっしゃいませ・・」
ヤオ、セキに耳打ちで囁き、七七番のたばこの箱をそっと渡す。セキは小さく頷く。
セキ「あー、普段は絶対しないんですよ、こうゆうこと。あの、これ」
たばこの箱を差し出し、
セキ「当店からのお年玉キャンペーンってことで、お納めください」
二人「今年もよろしくお願いします」
暗転。
(おわり)
戯曲「人間は少し不始末」 梢はすか @qeaq
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