プロ入り後100年経つプロ野球選手の先祖をもつ俺

古びた望遠鏡

第1話

汗と涙の高校野球。俺はついにその先へ立とうとしている。ドラフト会議で3位指名を受けた俺は会見を程よい緊張と共に迎える。

たくさんのカメラとそこから出るまぶしいフラッシュ。ちょっと大きめな帽子。緊張して足がガクガクの同期のライバル。その全てが新鮮だった。

ドラフト一位からマイクが回り、ついに俺の番がきた。俺は大きく息を吸った。


「俺の先祖である和田剛士選手を三振に打ち取ることが1番の目標です。」


記者の前で堂々と宣言した先祖倒し。俺はこの夢を叶えるために野球をやっていたと言っても過言ではない。





―――――――――






先程の和田剛士とはプロ野球設立当初からずっと現役のプロ野球選手である。彼は1920年から2020年までずっとプロの世界で戦っており、積みあげた安打はなんと10000本。

そんなレジェンドを先祖に持つ俺が野球をやらないわけがない。俺はずっと前に剛士じいさんにどうしてこの年齢で野球を続けられるのか聞いたことがある。するとじいさんはこう答えた。


「野球が好きなこと。俺は野球が原因の死以外は絶対に死なない。倒れるならバッターボックスで倒れたい。」


立派な髭を触りながらニコッと笑った。


「じいさんはさぁどうしてこの年齢でショートの動きをこなせるの?」


「そうじゃの。朝同じ時間に起きて夜同じ時間に寝る。あとはたくさん食べること。そうすれば野球はいくつになっても続けられるんじゃ。」


「じいさんはなんでメジャーにいかなかったの?」


「アメリカに行けば体内時計が狂ってしまうからなぁ。下手したら死んじゃうかもな。」


じいさんは高笑いをした後いつもと同じ時間にトレーニングに行った。




――――――




数年後、俺はやっとスタジアムのマウンドに立つことができた。とっても明るい照明と地鳴りのような歓声。立っているだけでスタミナが減ってしまう。

相手ベンチを見ればじいさんがバットをいつも通りに磨いていた。いつも家にいる時とは違って目が鋭い。そして遠くからでも感じる威圧感。今日は調整のため代打らしいがベンチにいるだけでここまで嫌な選手は他にいないだろう。

5回まで投げて2失点とまぁまぁな内容で迎えた6回の相手ピッチャーの打席で代打がコールされた。出てきたのはもちろん和田剛士。

そしてこの瞬間俺の夢が叶った。和田剛士対和田毅。場内はまたとない大歓声。じいさんからは殺気とどこか嬉しそうな気持ちを感じとった。




――――――


ついにフルカウントまできた。これまでじいさんはボール球には手を出さず、ストライクだけ打ってきている。あわやホームランというあたりもありながらフルカウントまで持ってこれたのは奇跡と言えるだろう。

ここで捕手のサインはボール球。コースはインコース高め。俺は首を縦に振ってセットポジションに入る。この試合で1番の力を込めて投げた球は抜けて、じいさんの顔のあたりにいった。

しかし、避けようと思えば避けれる球だった。それもプロ入り100年だ。これまで何球もあった球だから避けれるに違いない。しかし、じいさんは避けきれなかった。いや、避けなかったのかもしれない。


―――――――


じいさんはその場に倒れた。ヘルメットは遠くまで吹っ飛んでいない。しかしこれは脳に強いダメージがいった証拠でもある。

じいさんはまだ意識があった。頭からは血が流れ、息も荒かったが、口を開いた。

「つよし。すまんが避けきれなかった。じいさんはもうバットを振りすぎたのかもしれないなぁ。最初の仲間もみんな死んで、一緒にプレーした選手も多く亡くなってしまった。わしはもう野球を楽しめないと思った時期もあった。でもなお前がプロになるってわかったらどうも死ねなくてね。こんな形で結果がつくのは不本意かもしれんがじいさんは楽しかったぞ。」


「まだ野球しようよ。一緒に。」


「もう疲れた。わしは長く生きすぎたのかもしれんな。最期にこれだけは言わせてくれ。和田剛士は永遠に……」


最後の言葉を言う前にじいさんは目を閉じた。そしてじいさんはなんとバッターボックスから消えてしまった。



――――――



その後不思議なことに和田剛士という人間の存在は忘れ去られてしまった。しかし、俺はプロ野球選手としてもっと成長していくつもりだ。

そしてじいさんより長くプレーするのが夢である。今のうちの居間には嬉しそうに仲間とバットを振る古い写真が飾られている。和田剛士は俺の心の中で永遠に生き続けている。これからもずっと。

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プロ入り後100年経つプロ野球選手の先祖をもつ俺 古びた望遠鏡 @haikan530

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