君に惹かれる
大会の日
バスの影響で集合時間より早く着いてしまい、何して暇を潰そうかと考えながら学校へ向かっていた。
とりあえず集合場所の水泳部の部室前に向かう。
そこで見たのは…
部室前で立ち尽くす君だった。
こちらには気づいてないようで、話しかけようとした。だけど、君の名を紡ごうとした口は開くことはなかった。
なぜなら、君がそんな顔でそんな瞳で、そこに立っていたから…
君の泣きそうな苦しそうな表情は感情は、見ていた自分にまで伝わった。
何が嫌なことはないだ、不安なことはないだ、君にもあるじゃないか。何を勝手にないなどと言っていたんだ自分は。
激しく自分自身に怒りを感じた。
そして、走った。君の元に。
「なんで、なんで、なんで!そんな顔しているのですか?」
君には似合わない。笑顔が1番似合うのに…。
驚いた顔して振り向いた君は
「見られちゃった。」
と言った君は苦笑いを浮かべた。さっきまでの表情を払拭するように…。
笑わないで。そんな笑顔見たくない。無理してる君は見たくない。いつもみたいに楽しく自然にいきいきとした君が見たい。水と戯れる君が見たい。
ねぇ、なんで悲しそうなの?知りたいよ…。
「なんで、笑うの?」
そして、思わず口にしてしまった。
言うつもりは…なかった。
少し間が空いて返ってきた君の言葉はもっとも君らしかった。
「水に惹かれているから、水に嫌われたくない。」
水に惹かれる。
君はいつも水が生きているみたいに言うね。
水に恋してる。泳ぐことがデートのようだ。
水に嫌われるって、どんなことなのだろう。
記録が伸びないこと?1位を取れないこと?もしくはいつもみたいに泳げないこと?
前は水と惹かれ合っているって言っていたのに水に嫌われたくないってどういうことだろう。
君はそこで何を感じているのだろう。
知りたい。君は何を考え何を感じているのか。
君を知りたい。
君が水に惹かれているみたいに、君に惹かれているから君のことを知りたい。
あぁ、『惹かれる』ってそういうことなんだ。
なんとなく、なんとなくだけどわかった気がする。少なくとも君と出会った日より理解している。
「なんだか、口に出したらすっきりした。」
思考の中にいた自分を起こしたのは君の言葉だった。
下げていた顔を上げ君を見ると、すっきりした顔でいつもみたいな笑顔でこちらを向いていた。
ドキンッ
高鳴る胸に何かが変わる気がした。
水に振動する isia tiri @tiri000
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