夏の花火
千恵花
夏の夜
夏の夜
人混みの中を
二人手を繋いで
離れないようにと
小走りに急ぐ
お目当ての場所を
取られないように
あなたは私の手を引き
真っ直ぐに走る
この日のために
初めて着た浴衣
母の形見の青い花しょうぶ
赤い帯をギュッと絞めて
カランコロンと下駄の音
ごめん
上手く走れない
お目当ての場所は諦めて
ここで良いかと
堤防の僅かな隙間に
体を寄せあい入り込む
パパパパーンと
連続にして花火が上がる
花火と共に風が吹いて
浴衣の裾に纏わり遊ぶ
うなじの後れ毛が
ふわりと揺れて
甘い香りを漂わせ
いつもと違う私
花火の華が
幾重にも幾重にも
重なって
大きな華になり
サラサラと消えていく
高く上がった花火は
あなたの顔を照らして
笑顔を私に見せてくれた
花火の華は
咲いては消え
消えては咲いて
心に一瞬の思い出を刻み
一夜の夢
キラキラと輝き続けた
二人の手が
繋がっているだけでいい
夜空に広がる大輪の華が
胸に咲き続ければいい
言葉なんかなくてもいい
今一緒にいるだけでいい
夏の夜
夢の時間は
あっと言う間に過ぎて
ボツボツと人は帰り始める
帰ろうか
あなたの声を聞いて
うん、と頷く
でも
ゆっくり帰ってね
慣れない下駄に
足の指が痛いの
少しでも長く一緒にいたいから
ゆっくり帰ろう
帰り着いたら
足の指に絆創膏を貼ろう
夏の夜
大輪の華の後には
小さな星の煌めき
チラチラと
あれは夜空の
イルミネーションだよ
見上げながら帰ろう
いつかの
夏の夜
淡い淡い恋
キラキラと華やかな花火
花しょうぶの浴衣
履き慣れなかった下駄
あなたの隣
繋いだ手のぬくもり
今は全てが愛おしい
夏の花火 千恵花 @caorinhana
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