「〇〇〇肉」

低迷アクション

第1話

「今のご時世、留学生は大変だ。全然終わらない流行り病のせいで、

帰りたいけど、帰れない。だから、何か励ましてあげたらと思って…」


後輩の“L”は大学生だ。彼のゼミ仲間の、留学生の女性…(名前は覚えていない。ただ、発音の感じから東の方のアジアの人だったと思う)


仮に“Iさん”と呼称する彼女を元気づけようと、小人数での“宅飲み”を企画した。


「酒とか食べ物は特に問題なしって言うから、ホットプレートで焼肉パーティ…

彼女も“ヒサシブリ、お肉食べれマス”って、喜んでて、楽しくなると思ったんですけど…」


当日、集まったメンバーはLとIさんを含め、男女1名ずつ…


持ち寄りの食材で早速、パーティを始めた。ホットプレートの熱で酒の酔いは、思った以上に早く、全員が赤ら顔になってきた頃、


「ワタシの持ってきたお肉出しマス」


と席を立ったIさんが、冷蔵庫から肉皿を持ってきた。


「コレは○○〇と言って、私の地元では、お祭りなどの楽しい時に食べられるモノデス」


笑顔の彼女が紹介する肉の名称は、ほろ酔いだった事もあり、聞き取れなかった。


ただ、赤身に少し紫が入ったような“それ”は、あまり食指をそそるモノではなかった。


L以外の全員も同じだったと思うが、肉をプレートに乗せ、立ち昇る甘い香りと肉の香ばしさが上手に交じる匂いに、気持ちが変わる。全員が箸を動かし、あっという間に

平らげた。


味は、上手かったと言う印象がある。


満腹と酔いに任せ、取り留めのない雑談を楽しむL達の耳に玄関を刃物で擦るような音がしてきたのは、夜中の2時を回る頃だった。


「今の何?…」


誰かが呟き、直後に全員が腹痛に襲われる。それは、擦る音に連動するように続いた。


「まるで、腹の中から、何か出る。映画のエイ〇アンみたいな…そんな感じでした」


全員が苦しむ中、ドアを擦る音は次第に、叩くような音に変わっていく。立つ事の出来ないL達の中で、


「*@?×(Iさんの母国の言葉で、“しまった”と言う意味)〇#%」“”(この後の言葉はわからない…」


と彼女が呟き、音と腹痛が一気に止んだ。あの肉と音の関係性はわからない。彼女が呟いた意味不明の言語に関しては、うろ覚えのメンバーの調べによれば、


“仕込みが足りない”


と言う意味になるらしいが、確かではない。Iさんは今も、同じゼミにいる。時折、あの夜の事を訪ねるLに、彼女はニッコリ微笑んだ後、いつも、こう言う。


「美味しかったデショ?」…(終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「〇〇〇肉」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る