肉しか食べないおっさんパーティーにゴミ箱へ追放された野菜の成り上がり

南米産

第1話 栄養満点の俺が追放って……

ここは冒険者の酒場。

ダンジョンで冒険を終えてお宝の換金を済ませた冒険者の憩いの場。

戦いを終えれば腹が減る、腹が減れば食事と決まっている。王国が管理する村の畑で今朝収穫されたばかりのにんじんの俺は既に台所で全身を水で清められてからザルに乗せられ今にも野菜としての宿命を全うしようとしていた。


「これで俺の野菜生やさいせいも終わりかぁ」


誰に言うでもなくザルの上でそう呟く。すると隣にいた水滴まみれのブロッコリーが返事をした。


「なにを言ってるんだべ、これから始まるんだ。おいら達の野菜生は」

「どういうことだ?」

「土の中に埋まって枯れていくより食われた方がぜんぜんいいべ。生きるってそういうことだよ」

「よくわかんねぇな。結局食われるだけじゃん」

「影ながら手助けするって意味さ」


よく熟した赤いトマトが言った。


「冒険者の血となり栄養となり、レベルアップの助けになるんだ。最高じゃないか。土に埋まっていたときは何もできなかったけどいまからは違うんだ。料理をされて胃袋に入って戦う冒険者の手伝いが出来るんだからずっと素晴らしいことだよ」


「その通りでござる」


丸々として新鮮なキャベツが言った。


「拙者、畑で芋虫風情いもむしふぜいに食われる野菜生にはもううんざりでござる。せめて人に食われたいでござるよ。適当に食い散らかされて、虫の卵を植え付けられて腐っていくなんてまっぴらごめんでござる」


なんということだ。みんな、食われたかったのか。ただ漫然と生きてきたにんじんの俺とは違い、自分たちの野菜生に意味を見出そうとしているのだ。

自分が恥ずかしい、俺も目的を持って存在しなくてはならない。


「なんだか俺も冒険者に食べられたくなってきたぜ」

「その意気だよ!にんじん!」

「ふふ、わかってきたじゃないか、にんじんくん」

「にんじん殿! 鍋の中まで一緒でござるぞ!」


野菜達の間では野菜生を終えるときの文言に鍋の中までとあるが鍋の中に行くのはおそらくにんじんの俺とブロッコリーだけだろう。まぁいい、どっちみち腹に収まるのだからな。


「「「「それでは、いざ!」」」」


俺達は魔法使いの料理人に食べやすいサイズに風の呪文で切断された後に、火炎呪文で燃え盛る沸騰した鍋の中で茹でられた。カットされても意識は一つ。俺達は俺達のままだ。

茹でられたブロッコリーはマヨネーズをかけられ皿に盛り付けられた。

素材とマッチした完璧なチョイスだ。その隣の輪切りのトマトには少量の塩がまぶせられた、爽やかな夏を思わせる演出に俺は脱帽する。

キャベツは千切りにされ、そのまま提供された。これ以上ない至高の料理だろう。

俺は一口大にカットされ、盛り付けられる。

ドラゴンのミディアムレアのステーキ肉の隣に。


「よう、短い間だけどよろしくな相棒!」

「ふん、マヌケが……」

「な、なんだよいきなり」

「おまえらのバカ丸出しの話全部聞こえてたぞ。なにを狂った夢みてんだか」

「夢だと! ふざけるな!」

「ふざけてるのはお前らだよ、今にみてろ」


俺達の皿はまとめて給仕の猫耳獣人に持ち上げられて、四人の男が座るテーブル席に下ろされた。二つの角付きのヘルメットを被った両手剣を背負う戦士、上半身裸の筋肉ムキムキで二刀の斧を腰に差した戦士、顎髭あごひげが長く巨大な大鎌を背負う戦士、鋭い爪が両手から飛び出ている獣人の戦士……。

戦士しかいないじゃないか。つまり……全員よく食べるということだな!


「やっときたか、もう腹ペコだよ」

「肉、肉、肉!」

「ダンジョンのあとはこれだよなぁ」

「ねえちゃん良い尻尾してるねぇ」

「おさわりは厳禁ですニャー」


「聞いたかステーキ肉、腹ペコだってよ」

「はぁ……」


ステーキ肉は盛大なため息を吐く、なんなんだよこいつは。これから楽しい夕食だってのに水を差してくれるなよ。

テーブルの上には既に木製のジョッキが散乱している、ひとしきりアルコールの接種を終えたのだろう。酒なんて所詮は添え物、たべものが無くては始まらない訳だ。


「ついに俺達の出番だ! いくぞ、みんな!」

「「「おう!」」」


「野菜なんていらねーよ」

「「「「「!!!!!!!」」」」」


「だれか野菜なんて注文したのか?」

「してねぇよ、するわけないじゃん。肉以外いらねぇよ」

「お店からのサービスですニャー」

「おねえちゃんの肉球を触るサービスは?」

「ないですニャー」

「ステーキうんめええええええ!」


顎髭の戦士が叫んだ後に、もはや端っこの脂身だけとなったステーキ肉が言った。


「ふん、だから言っただろう、お前らはオレの添え物でしかないんだよ身の程知らずどもが、これかr」


そこまで言ったあとにすぐに顎髭の戦士の口の中へと消えた。肉生にくせいを終えたのだ。

一方俺達は一口も食われないまま、テーブルの上の皿でただ固まっていた。


「なんだ、いったいなにが起きてるんだ!」

「わかんねぇ、おいらは畑育ちで無学だから」

「これは……ボクのデータにはないパターンだね」

「拙者も食べて欲しいでござる!!」


キャベツの千切りの懇願こんがんもむなしく、四人の男達はテーブル席から立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! まだ一口も食べてないじゃないか! せめて一口くらいは!」


俺は必死に叫び、戦士たちを呼び止めようとしたがこちらには一瞥もくれることもなく立ち去って行った。


「もったいないですニャー」


給仕の猫耳獣人はテーブルを片付け始めた。嘘だろ? 俺達はまだ食べられていないというのに、そんなのありえない。


「これからどうなっちまうんだ?」

「わがんねぇ、わがんねぇよ」

「ボクたちはゴミ箱行きかもしれないね……」

「いやでござるうううう! 絶対ゴミ箱はいやでござるよおおおお!!!!」


「しょうがないから、わたしのまかないにするニャー」


「「「「!!!!!!!!」」」」


「おいしいニャー」


おわり

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