ポケットのなかにロケットがひとつ。
ヲトブソラ
ポケットのなかにロケットがひとつ。
ポケットのなかにロケットがひとつ。
だいたいの男子は、一度は宇宙に憧れる。そして、ポケットにロケットのおもちゃを入れて持ち歩いている。その多くが宇宙遊泳に憧れるし、なかには月や火星にまで一晩で航行できちゃうやつもいる。簡単に第一、第二宇宙速度を得られて、重力なんてものから解き放たれるんだ。ただ一部には、ぼくのように宇宙にかける想いが少し違うやつもいる。
「緊急停止!すぐ止めて!」
『緊急停止!』
ロケットエンジンの燃焼試験。今回こそは自信があったのだけれど、モニタに異常燃焼が映っていたから止めさせた。このままデータを取り続けても良かったが、吹っ飛ぶのは明らか。それならまだ実機を調べた方が有意義だと考えた。
「駄目だったなー。今回も、また、前回に、引き続き」
「ひと言、ふた言、み言、よ言、多いよ」
「はあ……ウチもリニアエアロスパイクエンジンの試験機を造れねーかなー」
「今のプロジェクトですら予算が付かないのに?」
宇宙の時代に少し脚を突っ込んでいるというのに、理想や目標だけは大きく掲げて現場に無理をさせる。壊れるのは設計図が悪いから、ろくな設計が引けないから実験やテストをするんだろ、と、平気で罵ってくる。技術大国?いいや、違うね。勘や腕のいい神さまのような技術者が奇跡的に多かっただけだ。その神さまである諸先輩方が現役のうちに基礎を築いてくれたから技術大国と呼ばれるようになっただけ。しかし、それを現場から遠い人間がおごっていてはいけないだろ。勘違いするな、凡人が良い物を造るには試験機を吹っ飛ばした数だけ信頼性や性能を上げる事が出来るんだ。設計図や計算では分からないような不安を、実際に壊しながら、ひとつひとつ取り除き、乗り越えていくんだよ。
「九号エンジンの件で怒られたって?」
「うん。しかも実験日の翌日にだよ」
「でも、お前がモニタを注視していたから、ぶっ飛ばなかったんだろ?」
「あの人らは成功の報告しか受け付けないから」
分からせる為に、これから失敗する時は、全部、ぶっ飛ぶまで燃焼させ続けたらどうだ?と、彼も少々苛ついていたようだ。気持ちはそうしたいけれど、エンジンが可哀想なのと組み上げてくれた技術者に申し訳がない。あと、ここにしか無い燃焼実験施設を壊したくない。
「そうそう。例のRLVに未公開新設計の小型エアロスパイクが載るらしいぞ」
「結局、補助ロケットを採用した?」
「ああ、ソリッドロケットで上げて抵抗の少ない上空でエアロスパイクを使うんだと」
「いーなあ。せめて、うちはブースターを工場にたくさん並べられる位になんないかなー」
ついに本音が出た、と大笑いされた。
ぼくが子どもの頃から宇宙にかける想いが違うのは、宇宙遊泳よりもそれをする友達を乗せるロケットを造りたかったのだ。宇宙へ旅行に行く友だちを、一晩で何人打ち上げただろう。大人になった今、夢に近いはずの場所にいるのに宇宙は遠くなっていく。こんな話の通じない素人が仕切っている環境でもやっていける理由や無意味な罵倒に平気でいられるのは、
まだ、ぼくのポケットのなかにロケットがあるから。
おわり。
ポケットのなかにロケットがひとつ。 ヲトブソラ @sola_wotv
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