第3話 神、降臨

「で、まずは確認したいんですが」


「何を?」


「催眠術で女性をアヘらせるのは可能がどうかです」


「お前、よく真顔でそんな事聞けるな」


「半笑いだと、よりヤバい奴感が出ちゃうと思います」


「確かに、って言いそうになるけど、結局どっちもやべーよ⋯⋯」


 俺の問いに、安齋先生はしばし考えてから⋯⋯。


「まあ、掛かりやすさにもよるが、できるっちゃあ、できる」


「おお⋯⋯」


 これぞまさに天啓。

 安齋先生は複雑そうな表情だが。


「ま、本当ならお前みたいな奴には『できねーよ!』つって追い出すべきなんだろうが⋯⋯催眠術に関しては嘘はつきたくないからな」


「正直さは美徳です」


「こっちは、テロリストに武器の性能を説明してる気分だよ⋯⋯だいたい、催眠術で女を好き勝手して支配したいとか、人として終わってるからな」


「誰が催眠術で人を好き勝手したい変態ですか!」 


「お・ま・え・だ・よ! お・ま・え!」


 うーん。

 なんか凄い誤解がある。

 これは先に説明しておかなければならない。


「安齋先生、俺は何も、催眠術で相手を支配したい訳じゃないんです。目的地はもっと先にあるんです」


「⋯⋯どういう事だよ」


「俺が一番興奮するのは、求めてやまないのは、あくまで、最後に、催眠術が解けた、その瞬間なんです! 催眠中に調教を完了して、催眠術が解けたあと『なんでぇ⋯⋯私の身体、知らない間にどうなっちゃったの!? こんなのおかしいよ! 私初めてなのにこんな! 私の身体が、私を裏切っちゃう!』みたいなシチュエーションに興奮するんです! むしろ催眠術に掛かって、正常な認識が無い女を相手にするなんて、ちょっと苦痛ですらあるんです!」


「うるさいわぁあああああ!」


「こっちは真剣に話してるんですよ!?」


「真剣だから自分は正しいみたいなツラすんな! だいたい黙って聞いてりゃあなぁ、お前浅いんだよ!」


 浅い⋯⋯だと?

 これは流石に聞き捨てならない。


「何がですか! 俺のどこが浅いって言うんですか!」


「くれなイズム先生の最高傑作はなぁ!『お嬢様、本日御奉仕する立場なのは貴女です』の、オラオラ執事の主従反転、媚薬シリーズなんだよ!」


 おお!

 なんと安齋先生はくれなイズム先生のファンだったのか!


「あれも良いですよねぇ!」


「肩透かし!」


 俺は嬉しかった。

 まるで、好きなアーティストの、お互いの好きな楽曲を語る相手が見つかった⋯⋯そんな気分だ。

 だが、それはそれ、これはこれ。

 真実はいつも一つ、だ。


「でも、やっぱり『ギャル矯』にはちと及ばないかなぁ」


「はん! 催眠術に頼るなんて邪道なんだよ!」


「媚薬に言われたくないんだよなぁ」


「媚薬なら、最初っから意識ありでいけるんですぅー、まどろっこしい調教パートが不要なんですー、お前は媚薬を開発するべきなんですぅー」


「焦らされるからこそ、メインディッシュが美味しく感じるんですー。すぐ結果にコミット、いやエレクトしようなんて、浅いエロなんですー」


「私は女だから、エレクトより『じゅん』なんですぅー」


「女でも、ク」


「黙れ!!」


 俺と先生が譲れない性癖を戦わせていると⋯⋯。


「お前ら、もう付き合っちゃえよ」


 それまで沈黙を守っていた赤城さんがボソッと呟いた。


「「誰がこんなのと!」」


 俺と安齋先生の声がハモった。

 赤城さんは、それには答えず、さらに言葉を続けた。


「新しいシリーズの参考にしたいので」


「「参考⋯⋯?」」


「申し遅れました。私が赤城こと、くれなイズムです」


「「貴女が神か!」」







 この後、いつも持ち歩いている俺の性⋯⋯聖書『ギャル矯』にサインを貰って帰った。

 満足満足。



 



─おわり─

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将来催眠アプリを開発したいと夢見る俺、勉強の為と美人催眠術師に弟子入りを志願しに行ったら、相手が「催眠術なんてダメ、女をアヘらせたいなら媚薬を開発しろ!」などと主張してきたので性癖を激しく戦わせてみた 長谷川凸蔵@『俺追』コミカライズ連載中 @Totsuzou

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