第2話 幼なじみ

「実は俺、彼女がいるんですよ」


「えっ!?」


 俺の告白に、安齋先生は驚きの表情を浮かべた。

 ⋯⋯まあ、催眠でアヘらせたいとか言ってるから、意外だったのだろう。


「彼女は、その、なんて言ってるの、あなたの、その性癖⋯⋯」


「言えるわけないじゃないですか。俺が人間のクズみたいな思想してるなんて」


「自覚あるなら更生しろよ⋯⋯」


「性癖ですからねぇ、コレばっかりは⋯⋯まあ、俺が催眠アプリを作る必要がある、と確信したのはこの彼女のせいでもあります」


「というと?」


「彼女は、幼なじみです」


「そうなの?」


「はい。で、高校時代、彼女の事が好きだと自覚したんですが、俺はフラフラしていました」


「フラフラ? 他の女の子口説いたり⋯⋯とか?」


「違います、そんな最低な事しません」


 俺が答えると、安齋先生は理解が追い付かない様子。

 ふむ、わかりやすくストレートに言った方が良いな。


「NTRモノと、催眠アプリモノの間でフラフラしてました」


「どーでもいいわぁ!」


「それが、良くないんですよ。催眠アプリを開発したい、と思いつつも、くれなイズム先生のNTRモノ『免許合宿から帰った彼女の様子がおかしい~昼は車に乗って、夜はクズ男に乗られて~』にドハマリしてしまいまして」


「良くないんですよ、って言葉に一切共感できない!」


「で、去年大学に進学する時に、チャンスが来ました」


「チャンス?」


「はい。いかにもチャラ男っぽい人に新歓に誘われて、俺は幼なじみの彼女と一緒に行く約束をしつつ、その約束をすっぽかそうと思いました」


「お前マジ最低だな⋯⋯」


「でも、思いとどまりました。俺は彼女が他の男に取られるなんて耐えられなかった。結局途中で新歓に合流し、彼女を連れて先に帰りました。その帰り道で彼女に告白して、付き合う事になりました」


「⋯⋯おー。いいじゃん、青春だねぇ」


「ありがとうございます。彼女が俺の告白を受け入れてくれた時に、完全に理解しました。所詮俺は寝取られなんてフィクションだから楽しめてたんだ、って。彼女を心から愛している、だから他の男なんかに渡せない、そう、強く思いました」


「いいじゃんいいじゃん」


「で、付き合ってから三ヶ月後、彼女と初めて結ばれました。最高の気分でした」


「そうだよ、それが普通だよ」


 ウンウンと頷く安齋先生。

 赤城さんはカルテでも書いてるのか、バインダーに挟んだ紙にメモを取っていた。


「で、俺の腕の中で眠る彼女が寝言を言いました。『ひーくん、大好きだよ』って。俺は凄く幸せで⋯⋯一生彼女を守る、と誓いながらも⋯⋯思ってしまったんです」


「⋯⋯何を?」


「俺が欲しいのは『これじゃない』って⋯⋯」


「な・ん・で・だ・よ!」


「その日の夜、夢を見ました。クラーク博士が夢の中で言うんです⋯⋯『ひーくんよ、アプリを開発しろつくれ』って⋯⋯」


「クラーァァァアアアアクッ!」

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