将来催眠アプリを開発したいと夢見る俺、勉強の為と美人催眠術師に弟子入りを志願しに行ったら、相手が「催眠術なんてダメ、女をアヘらせたいなら媚薬を開発しろ!」などと主張してきたので性癖を激しく戦わせてみた

長谷川凸蔵@『俺追』コミカライズ連載中

第1話 催眠術師訪問

「安齋先生⋯⋯俺、催眠アプリで女の子アヘらせたいです⋯⋯!」


「いや、何しに来たか聞いたら、開口一番スラムダンクファンに喧嘩売られてもね!?」


 俺が訪問の目的を告げると、安齋先生からツッコミが入った。

 ここは安齋心療所。

 俺の目的⋯⋯いや、宿願を果たすため、色々な口コミを参考にここに辿り着いた。


 まあ、一番参考にしたのはボーッとテレビ見たときに流れていた『美人催眠術師・安齋先生』っていう紹介VTRだけども。


 それは『安齋先生の催眠術は──本物』という、多くの声。

 そのVTRを見て『この人だ!』と直感した俺は、その翌日、早速先生の診療所に来たのだ。


 まず出迎えてくれたのは、安齋先生の助手である赤城さん。

 赤城さんに安齋先生への取次をお願いすると、無言で案内された。


 会ってから赤城さんは一言も話さないが、安齋先生も特に彼女に何か言うわけでもなく。

 いつもこうなのだろう。


 そして俺は念願の安齋先生に出会った事で、前置き無しで訪問の理由を話した、という訳だ。

 

「お願いします! 俺、将来催眠アプリを開発して、少子化によって活力を失いつつある日本の為にも、少子化対策したいんです! その為にも、催眠術の正しい知識を身に付ける必要があるんです! 全人類アヘアヘ計画を遂行する為にも、俺を弟子にしてください!」


「こらこら、ちょっとだけ良いこと混ぜないの! ダメに決まってるでしょう!?」


「ダメっすか⋯⋯」


「当たり前じゃない。それに、そんな事本気で言っているの?」


「本気です!」


「⋯⋯ごめんなさい、私、催眠術師だから分かる、あなたのその目、本気だわ」


「そんな事分かるんですか! やっぱり、安齋先生しかいません! 俺は夢を叶える為にも催眠術を学ばないといけないんです、安齋先生、俺、催眠アプリで女の子アヘらせたいんです!」


「それはさっき聞いたから! もうッ! 気付いているかわからないけど、あなたの言ってる事ソフトなテロリストの主張だからね!?」


 うーむ。

 頑なだなぁ。

 俺がどうやって説得しようか考えていると、安齋先生は溜め息をつきながら言った。


「大体ねぇ、なんでそんな事したいの⋯⋯」


「聞きたいですか」


 先生の質問に敢えて質問で返すと、先生は「うっ」と一言呻いたあとで言葉を続けた。


「⋯⋯実はね、私が催眠術を修めたきっかけは、人の『心理』に興味があったからなの。だからあなたのアホクサ⋯⋯んっんー、夢がどこから来ているのか、ってのはちょっと興味あるわ」


「今アホクサって言いました?」


「うっ⋯⋯」


「いえ、怒っている訳ではないんです。確かに他から見ればそうでしょう。でも、俺は夢を譲れないんです」


「その夢の中身が催眠術で女の子アヘらせたい、じゃなければ格好良いセリフなんだけどね⋯⋯」


「ああ、その辺は大丈夫です。他人に格好良く見られたいなんて思ってたら、催眠術で女の子アヘらせたいなんて力強く公言しませんから」


 彼女の暴言紛いの言葉に、俺はスマイルで返した。


「説得力エグい⋯⋯」


「どこから話せば良いか⋯⋯そうですね、俺には五つ上の兄がいるのですが、これがまあ、結構なガチオタなんです」


「ふむふむ」


 安齋先生は催眠術師として有名だが、本職はカウンセラー。

 俺の話に相槌を打つ様は、彼女の本職が何かを強く意識させる。


「で、今から五年前、俺が中学二年の時、出会ってしまったんです⋯⋯兄の蔵書の中にいた『くれなイズム先生』に」


 俺がくれなイズム先生の名を口にした瞬間、安齋先生は『ん?』と眉をひそめた。

 まあ、同人界隈では有名な方だが、一般人にはそこまで知名度があるわけではないので、このリアクションは普通だろう。


「⋯⋯ふんふん、それで?」


 特に『くれなイズム先生』を深掘りする事もなく、安齋先生は先を促してきた。


「俺はくれなイズム先生の作品『常識改変! 催眠アプリで俺を虐めたギャルを「矯正」操作! 感度100倍! アンアンアン!』を読んで⋯⋯気が付いたら××××を強く△△△△して、○○○○⋯⋯」


「おい、私一応女だぞ?」


「すみません。先生は催眠術師なので、催眠術にかからなそうだから、という理由で女という意識が自然と抜け出ました」


「どんな基準だよッ!」


 ⋯⋯なんかちょっとずつ安齋先生の口調が変わって来たが、まあいいか。


「ただ、俺もバカじゃないんで、フィクションと現実の区別は付きます」


「そう願うよ⋯⋯」


「だったらフィクションじゃなくなれば良い、催眠アプリが無いのなら、俺が作れば良い、と考えましたが⋯⋯そんなの到底無理だろう、と一旦は諦めました。これは所詮フィクション、こんなの現実で作れるはずがない、って」


「そのまま諦めとけよ⋯⋯」


 安齋先生は、もうカウンセラーっぽい態度など一切見せずに、半眼で呻いた。

 ちなみに助手の赤城さんはさっきからノーリアクションだ。


「それで次の日、普通に登校して、普通に授業を受けてたんです。⋯⋯今でも覚えてます、三時間目の英語の授業でした」


「英語?」


「はい。それはある偉人の話でした。クラーク博士の⋯⋯あの有名なセリフ『Boys, be ambitious』の和訳、『少年よ大志を抱け』を見た瞬間、思ったんです。『クラーク博士は言っている⋯⋯俺に、催眠アプリを開発しろ』と」


「絶対違うよ!?」


「それでも、俺は夢を追うのが怖かったんです」


「⋯⋯そうなの?」 


「はい、だからいつも、クラーク博士に対する罪悪感がありました⋯⋯せっかく、俺を鼓舞してくれたのに⋯⋯」 


「いや、ホッとしてると思うけど!?」


「でも、去年⋯⋯そんな俺に『催眠アプリ』開発を強く後押しさせる、決定的な出来事があったんです⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ!? この話まだ続くの!?」


「はい」


 もちろんだ。

 ここまでは所詮入り口でしかない。

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